吉田知那美が何度も救われたゴルフ漫画の名言「大事な局面での腹の括り方や覚悟の持ち方を確認できた」
ロコ・ソラーレの吉田知那美がこれまでの人生で影響を受けた「言葉」や「格言」にスポットを当てた連載。今回は、緊張感あるゲーム中での、自らのメンタルのありようについての教訓にもなったという、ゴルフ漫画の名作『風の大地』(原作:坂田信弘、作画:かざま鋭二/小学館)に登場する小針春芳プロの名言について語る――。
吉田知那美にちなんだ『32の言葉』
連載◆第14エンド
ミスの原因を見つけたら、すぐにそのミスを忘れなさい。
ミスを忘れるのもプロの技量のひとつです。
そしてミスの原因だけを記憶するのです
(小針春芳/漫画『風の大地』より)
吉田知那美自身、オフにはゴルフを楽しんでいる。写真:本人提供
『風の大地』というゴルフの漫画があります。
まだ競技歴の浅い沖田圭介という主人公が成長しながら世界に挑むという名作で、昨シーズン、夫が薦めてくれました。きっと私が何か考えすぎたり、迷っていたように見えたのでしょう。彼の観察眼やさりげない優しさにはいつも救われています。
基本的には古き良き昭和の漫画なのですが、プレーヤーのメンタルに寄り添う描写が多い部分は現代っぽくもあります。風を読んだり、芝の状態を常に確認する必要のあるゴルフと、アイスリーディングが重要なカーリングの共通項もたくさんあって、それぞれゲームの緊張感のなかで「自分が今、どういうメンタルなのか」と認識することの重要性が説かれている、と思いながら私は読みました。
特に、物語序盤で主人公の沖田はメンタルに課題を持っていて、その点について師匠の小針春芳プロはさまざまなアドバイスを送ります。ちなみに、小針プロのモデルは同姓同名の実在したプロゴルファーだったそうです。
その小針師匠がミスについての捉え方を言語化したのが、今回のセリフです。
「ミスの原因を見つけたら、すぐにそのミスを忘れなさい。ミスを忘れるのもプロの技量のひとつです。そしてミスの原因だけを記憶するのです」
私たちがプレーするカーリングでも同じことが言えます。誰がミスした、ではなく「どうしてミスが起こった」――そこだけにフォーカスできれば、小針さんがおっしゃっているようにそのミスをいい意味で忘れ、同じエラーを回避できる。
そして小針さんは、こうも言っています。
「トラブルにあった時、深刻そうな表情するなよ......暗くなる程にトラブルプレッシャーは覆いかぶさってくるぞ」(漫画『風の大地より』)
私たちもプレーしていて、これが決まれば大量得点、このショットをイメージどおりに決めれば勝てる、というような大事な局面を幾度と経験します。でも、思いどおりいくこともあれば、肩を落としてしまうようなトラブルやミスもあります。それでも顔をあげ、口角をあげ、また次のエンドにムーブオンする。それがどんなに大切なことかと理解したのは実は最近で、腹の括り方や覚悟の持ち方のようなものをこの作品を通して確認できた気がします。
『風の大地』は30年を超える長寿連載だったのですが、残念ながら2022年に作画を担当されていたかざま鋭二先生が逝去されてしまい、完結しない作品になってしまいました。
でも、この作中に綴られている言葉や描写に、私は何度も自分を重ね合わせ、何度も救われてきました。きっとこれからもそうです。
私だけではなく、多くのゴルファー、アスリートの背中を押すような名作を遺してくれたことに心から感謝しています。ありがとうございました。
吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり