阪神・村上頌樹インタビュー(後編)

前編:クビ覚悟で挑んだプロ3年目に何が起きていたのかはこちら>>

 ストレートの質が格段に上がったことに加え、村上頌樹にとって何より大きかったのが岡田彰布監督を筆頭に首脳陣が代わったことだ。プロ野球選手にとっての「いい監督」とは自分を使ってくれる監督であり、新戦力というのは得てして首脳陣交代のタイミングで現れるものだ。


契約更改で球団史上最高となる875%アップの推定6700万円でサインした阪神・村上頌樹photo by Sportiva

【指揮官交代でチャンスをつかむ】

── 岡田彰布氏が監督に就任し、大きなチャンスだと思いましたか。

村上 それは思いました。まず(2022年の)秋のキャンプに全員連れていくみたいな話を聞いて、自分にもまだチャンスがあると。実際にピッチャーは上の方の5、6人以外はほぼ全員参加しましたし、それまでのことは関係なく一からスタートができると思えましたし、このチャンスを絶対に生かすしかないと。ここでつかめなかったら終わるくらいの覚悟で、秋のキャンプに行きました。

── 1年目、2年目とファームでは結果を残していましたが、2022年は一度も一軍に呼ばれませんでした。そのあたり、村上投手自身はどう消化していましたか。

村上 ファームでタイトルを獲るというのは、一軍で投げていなかった証拠のようなもので、もちろん悔しさと、このままじゃクビになるんじゃないかという危機感と、なんでやろうという気持ちがありました。でも最後は「実力が足りていないんだ」と、自分に言い聞かせて練習するしかないと思ってやっていました。

── その結果、2023年は10勝、防御率も1.75。持ち前の制球力の高さも際立っており、144回1/3を投げて与四球は15。すばらしい数字だと思います。

村上 そこは組ませてもらうことが多かった(坂本)誠志郎さんのアドバイスが大きかったです。3割打者でも10回の打席で7回は失敗する。ならフォアボールを出すより、真ん中に投げてでもしっかり勝負して、打ちとる確率に賭けたほうがいい。フォアボールはもったいないから、とにかくストライクゾーンで勝負していこうと。

── それも真っすぐが強くなったからこそできたことであると?

村上 そうですね。それまではカウント2ボールでもコースギリギリに投げていましたが、ちょっと甘くなってもいいから強さを出して、ファウルをとりにいこうと考えられるようになった。真っすぐの質が上がった効果ですね。

【昔から投げることが大好き】

 村上に取材させてもらうのは、智辯学園3年の5月以来のことだった。その1カ月前にセンバツ大会で全5試合、47イニングをひとりで投げ抜き(自責点2)、全国制覇を成し遂げていた。これだけの結果を残したにも関わらず、プロの評価は決して高いものではなかった。大学進学が既定路線だったとはいえ、もし村上の身長が180センチを超え、150キロのスピードボールがあれば、周囲の反応も違っていただろう。

── 身長があと10センチ、もしくは5センチあればどうだったかと思うことはあると、高校時代に語っていました。

村上 たしかに大きいほうが有利ということはありますからね。でも、大きい人ができないことを小さい人はできたり、それぞれのよさがあると思います。自分は小さかったので、上背のない選手が活躍しているのを見ると自分もできると思えましたし、僕のプレーしている姿を見て励みになってくれる人がいたらうれしいですね。180センチなくても、プロの一軍で抑えられるんだと思ってほしい。

── 現在公表の身長は175センチで、高校3年の取材時は173センチでした。

村上 健康診断の時に計ったら175センチになっていた。「よっしゃ!」って。これは素直にうれしかったです。

── 2023年は1年間好調を維持し、最後まで乗りきった体の強さも村上投手の真骨頂です。安定して投げ続けたピッチングを見ながら、高校3年春のセンバツ大会で669球をひとりで投げ抜いた姿を思い出しました。

村上 小学校の頃からダブルヘッダーの連投なんて当たり前で、その後もずっと投げ続けてきました。だから2023年も、投げられなくなるまで疲れがたまることはなかったです。

── 今は投げることにナーバスな時代ですが、村上投手は投げることで今の形ができあがった印象が強いです。

村上 最初に教えてもらった投げ方がよかったんだと思います。ヒジを上げて、しっかり腕を振るという基本を教えてもらった。小学校の監督さんには感謝ですし、今でもですけど、僕は投げるのが大好きなんです。

── 子どもの頃から大好きだったタテジマのユニフォームを着て、新人王とMVPを受賞し、チームは38年ぶりの日本一。まさに夢のような1年が過ぎ、2024年シーズンが始まります。これだけうまくいくと、翌年のシーズンが怖いという気持ちはありますか。

村上 いや、怖いというより、もっとよくなることしか考えていないです。

── 2024年は2年連続の最優秀防御率タイトルを目標に挙げていますが、2023年の1.75よりもいい数字も可能だと?

村上 はい。まだまだ防げる失点があったので、もっと数字もよくできると思っています。

── 高卒、大卒の違いはありますが、オリックスからドジャースに移籍する山本由伸投手は同級生で、村上投手と同じく決して上背があるわけではありません。

村上 山本投手は日本を代表する投手ですからね。ただ、目標があると追いかけやすいというのはあります。昨年も、たとえば勝利数では大竹(耕太郎)さんが先をいっていて、防御率でも(伊藤)将司さんや才木(浩人)がいたりして追いかけやすかったのはありました。そういうことで言えば、今年は貯金ですね。2023年は4つしかつくれなくて、大竹さんは10あった。最低でも2023年の倍の8つくらいはつくれるようにしたいです。

── 2年連続の防御率のタイトルと貯金倍増......1年前を思えば、考えられない目標設定です。

村上 そのためには、まずは開幕からローテーションに入ること。強力投手陣のなかでしっかりポジションをつかんでいきたいです。


村上頌樹(むらかみ・しょうき)/1998年6月25日、兵庫県生まれ。小学1年生で野球を始め、中学時代は硬式のクラブチーム「アイランドホークス」に所属。智辯学園高に進学し、1年夏からベンチ入り。1年夏、3年春夏と甲子園出場を果たし、3年春のセンバツでは全5試合をひとりで投げ抜き優勝。高校卒業後は東洋大に進み、1年春からリーグ戦に登板し、3年春は6勝無敗、防御率0.77の成績を残し優勝に貢献した。20年のドラフトで阪神から5位指名を受け入団。プロ3年目の23年、10勝6敗、防御率1.75の好成績を挙げ、18年ぶりのリーグ制覇、38年ぶりの日本一に貢献。新人王とMVPをダブルで受賞した