上田綺世の進化を風間八宏が分析「無駄な動きが減り、真ん中でプレーし続けるようになった」
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回は、日本代表のセンターフォワードを務める上田綺世。アジアカップでも活躍が期待される選手の進化した部分を指摘してもらった。
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【相手の背後を狙う動きが増え、質も向上】昨年3月に始動した第2次森保ジャパンは、2023年の試合を8勝1分1敗と好調をキープ。しかも、その10試合で計36ゴールをマークし、1試合平均3.6ゴールという驚異的な得点力を誇った。
元日のタイ戦でも5−0と大勝し、アジアカップに期待がかかる。
そのなかで、昨年11月の2試合で5ゴールを決めるなど、目前に控えるアジアカップにおける1トップ最有力候補と目されているのが、現在フェイエノールト(オランダ)でプレーする上田綺世だ。
上田綺世の進化した部分を風間八宏氏が解説した photo by Ushijima Hisato
上田が代表デビューを果たしたのは、東京五輪世代を中心にチームが編成された2019年のコパ・アメリカ。ただし、本当の意味で代表に定着するようになったのは、東京五輪を経験し、翌2022年夏に鹿島アントラーズからサークル・ブルッヘ(ベルギー)に移籍してからのことだった。
それでも、カタールW杯のメンバー入りを果たしながら、なかなか結果を残すには至らず、結局、代表初ゴールは今年6月のエルサルバドル戦まで待つこととなった。
そんな上田が、ここにきて代表でゴールを量産するようになったのはなぜなのか? 独自の視点を持つ風間八宏氏が、その理由を解説してくれた。
「いちばんは、無駄な動きが減って、真ん中でプレーし続けるようになったことだと思います。つねに相手のセンターバックの背後を狙っていて、最近のゴールシーンを見ても、そういった動きが増えていますし、質も高くなっています。
逆に、うまくいっていない試合では、ボールをもらうために無駄に下がってしまい、相手の前で受けようとしているように見えました。ただ、相手の前でボールを受けると、どうしても相手に捕まってしまいます。そういう意味では、その辺の意識が以前よりも高くなったのでしょう。
とくにゴールに近い場所でプレーするセンターフォワードは、フリーになれば即シュートが狙えるポジションなので、相手の背後を取れるようになればシュートする回数も自然と増える。フリーでシュートできるようになれば、ペナルティーエリアの中でも落ち着きも出てくる。落ち着きが生まれれば、シュート精度も高まります。
さらに言えば、DFの背後を取れるようになれば、シュートまでの動きも良い意味でパターン化できる。このところ、相手DFの背後を取ってGKと1対1になってからシュートする場面が増えている理由は、そういった動きの技術にあると思います」
【ピッチの真ん中で仕事ができる】風間氏が指摘した通り、最近の上田のゴールは特徴的だ。最も顕著だったのは、上田がハットトリックを記録した昨年11月16日に行なわれた2026年W杯アジア2次予選のミャンマー戦のゴールである。
まず1点目は、5バックを敷く相手が自陣ペナルティーエリア付近で守備を固めるなか、南野拓実がDFラインの背後を狙って供給した浮き球のパスに反応。ヘディングでネットを揺らしたゴールだった。
前半アディショナルタイムに決めた2点目も、堂安律が斜めに入れたスルーパスに合わせてDFの背後に抜け出して決めたゴールであり、3点目も南野のショートパスをDFの背後で決めたゴールだった。
すべてに共通していたのが、狭いスペースの中でDFの背後を取った質の高い動きだ。パスの出し手にとっては、上田がつねにDFの背後を狙っていることをわかっているからこそ、ベストなタイミングを計ってパスを供給できるのだろう。
では、そのほかに上田の強みはどんなところにあるのか? 風間氏が続けた。
「日本には、ピッチの真ん中からあまり動かないで仕事ができるFWは少ないという印象があります。しかし、その中で上田は真ん中でしっかりと仕事ができる選手になっています。
しかも、狭い場所でボールを受けるのがうまいだけでなく、もともとシュート力もあって、ヘディングも強い。フィジカルもしっかりしている。いろいろなことができる選手だと思います。
こういうタイプの選手がいると、周りの選手はすごくプレーしやすくなりますし、チームとしても、とても助かりますね」
現在の日本代表では、古橋亨梧、浅野拓磨、前田大然らと1トップのポジション争いが繰り広げられているが、無駄に動かずに真ん中で仕事ができるという点では、上田にアドバンテージがあるのかもしれない。
【世界トップクラスはもっと動きの技術が高い】ただ、気になることもある。それは、昨夏にフェイエノールトに移籍して以降、不動の1トップとして君臨するサンティアゴ・ヒメネスの牙城を崩せずに、ベンチを温める時間が増えたことだ。
ある意味、所属クラブではひとつの壁にぶち当たっているのが現状だが、上田にとって、克服すべき課題はどこにあるのか。
「ひとつは、DFの背後を狙う動きの回数を増やし、もっと質を上げていくことです。誰と比べるかにもよりますが、世界トップクラスのセンターフォワードは、もっとその動きの技術が高いし、スピードもある。ヒメネスもそうですが、そこに追いつくためには、やはり日々の積み重ねしかないでしょう。
そもそもスペースがあまりない真ん中のエリアでボールを受けることは難しいですし、そこでゴールを決められる選手も限られています。上田もそこで勝負をしているわけなので、そのポジション争いに勝つためには、もっと回数を増やし、もっと速く、つまり正確性を高めなければなりません。
ただ、どんどん良くなっていることは間違いないので、この調子で続けてほしいですね」
今シーズンの後半戦、オランダに新天地を求めた上田のブレイクスルーはあるのか。そしてその前に、日本代表として臨むアジアカップでどんなプレーを見せてくれるのか。
目下成長中の上田から、目が離せない。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手、サッカーコーチを指導。今季は関東1部の南葛SCの監督兼テクニカルディレクターに就任。