鎌田大地にとって日本代表落ちは一発逆転のチャンス ローマ戦に向け元イタリア代表がアドバイス
鎌田大地のラツィオでのここまでの4カ月をひと言で表すならば「シーソー」という言葉がぴったりだろう。ドイツから移籍してきた時は高く上がっていたが、その後は下がり、ナポリ戦のゴールでまた浮上したが、今はまた低く落ちている状態だ。
ローマという街では、あっという間にサポーターのハートをつかむこともできるが、見どころのないプレーが3、4試合続けば「あいつは何やっているんだ?」と不満の声が聞こえるようになる。SNSでは「フランクフルトで16ゴール決めていた男はどこにいっちまったんだ?」と書き込まれる。ラツィオでのプレー低迷が影響したのか、アジアカップを戦う日本代表のメンバーからも外れてしまった。
しかし、鎌田はそれをチャンスに変えることもできる。エンポリ戦(12月22日)で筋肉を傷めたため、現在はルイス・アルベルトが欠場中だ。あと2週間ほどはピッチに戻れないだろう。その間、カタールに行かなかった鎌田にスタメンが回ってくることはほぼ確実だ。
そしてそのうちの1試合は1月10日のコッパ・イタリアの準々決勝。対戦する相手は最大のライバル、ローマだ。ラツィアーレ(ラツィオファン)にとってもローマニスタ(ローマファン)にとっても、ダービーは特別な試合だ。何が何でも負けたくはない。もしこの試合で鎌田が活躍すれば、シーソーはこれまで以上に高く上がるだろう。すべては鎌田次第だ。
彼はここまでリーグ、チャンピオンズリーグ(CL)を含めて21試合でプレーしているが、成績は1ゴール1アシストに留まっている。彼にとっても、期待していた人々にとってもあまりにも少ない数字である。
ウディネーゼ戦で先発、前半で退いた鎌田大地(ラツィオ)photo by AP/AFLO
直近の2試合(12月29日のフロジノーネ戦、1月7日のウディネーゼ戦)ではスタメンでプレーしたが、どちらも途中で下げられている。ウディネーゼにラツィオは2−1で勝利したが、鎌田はほとんど貢献できないまま前半で交代。代わって入ったマティアス・ベシーノが決勝ゴールを決めた。『ラ・ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙が鎌田に与えた評価はチームの誰よりも低い5。「いつも以上にチームに入りこめず」というのがコメントだ。
彼のプレーからは「やる気はあるのに、活躍できない」というジレンマが感じられる。そこから抜け出すカギは、サッリズムを理解すること。それ以外に方法はない。他のリーグやシステムから来た人間には。指揮官マウリツィオ・サッリのサッカーを理解するのは難しい。ラツィオでも何度も繰り返されてきたことだ。今回はもっと具体的に「サッリズム」とは何かを説明したいと思う。
【イタリアでは戦術が最重要】
「ああ、サッリね。彼との経験は愉快だったよ」
そう語るのはマッシモ・マッカローネ、通称「ビックマック」。ミランの下部組織で成長し、多くのチームを渡り歩き、イタリア代表でのプレー歴もあるストライカーだ。2004年には現在のイングランド代表監督ガレス・サウスゲートとともに、ミドルスブラでリーグカップを勝ち取ってもいる。ニックネームの「ビッグマック」はイングランド時代についたものだ。
そんな彼は2012年から2015年までの間、エンポリでサッリのチームのエースストライカーとして活躍した経験を持つ(エンポリでは101ゴールをマーク)。2014年にはサッリとともにセリエA昇格も果たした。つまりサッリズムとは何かを、肌で知っている者のひとりだ。2020年に現役を引退し、今は指導者の道を目指しているが、もちろん彼の師匠はサッリだ。
「監督になろうと思ったのはサッリのおかげだ。なぜなら彼の下でプレーすることは本当に楽しかったから」
まずは彼に、鎌田がチームのプレーのなかになかなか入り込めないでいる問題を尋ねた。
「ひとつひとつのプレーのストーリーは別なものだが、それでも大前提として、イタリアのサッカーは何よりも戦術が基本となる。システムやフォーメーションでの動きをすごく重要視する。だから、外から来た選手にとって難しいのは当たり前だ。おまけにサッリはそれに輪をかけて、緻密で几帳面でマニアックだ。彼は、選手が自分の望むプレーができなければ、同じことを20回くらい平気でやり直させるのだが、一朝一夕にはサッリが何を望んでいるのかは理解できない。鎌田がすごく苦労しているのは簡単に想像できるよ」
ただし、鎌田に力があることはすぐにわかったと、マッカローネは言う。
「ナポリ戦のゴールは偶然に生まれたものではない。それにドイツのフランクフルトでもベルギーのシント・トロイデンでも、彼は多くのゴールを決めている」
では、何をすれば解決するのだろうか。
「サッリのもとでより多くプレーすることが大事だと思う。ルイス・アルベルトがケガをしていて、鎌田がアジアカップに行かないことは、彼がラツィオで大成するための大きな助けになると思う」
【サッリ信奉者からのアドバイス】
そしてマッカローネは、サッリズムに慣れるためのヒントを教えてくれた。
「いつもプレーの先を読み、ボールを素早く出すこと。決して思考を止めてはいけない。特に私のようなアタッカーはそうだった。それがうまくできなくて、どんなに怒鳴られたことか。今でも夢に出てくるよ(笑)。あと、ミステル(監督のこと)は、我を張る人間が我慢ならない。シンプルだが、効果的なプレーを望む。
私に監督を目指させたのは、彼の完全主義なところでもある。サッリのもとでの数年は、私のキャリアの中で最高なものだった。ピッチに出る時はいつも嬉しくて、自然と笑顔になっていた。サッカーをすることが楽しくて仕方なかった。これはサッカー選手にとって一番大事なことだと思う」
サッリは練習に没頭することを求め、「強い耐久心を持て」と強調するという。
「彼にとってそれは根本的な物なんだ。練習中の1時間半は、すべてを頭から叩き出して、全力でプレーしないといけない。家族のことも、どんな問題も消し去って、目の前のボールだけに没入し、持てるすべてを出す。ただ、サッリは鬼軍曹というタイプじゃない。なんでも話すことができる。あの頃のエンポリは選手と監督が信頼し合ったすばらしいチームだった」
マッカローネだけではない。2012年から2015年にエンポリに所属していた選手たち皆が、口をそろえて、サッカー人生の一番の時だったと言っている。
「サッリは『攻めながら守れ』と我々に言った。それまでこんな指示を受けたことはなかったから、最初は驚いたよ。敵へのプレッシャーはアタッカーから始まっていた。それによってエンポリという小さな地方のチームを、堂々とビッグチームと当たらせた。ナポリで2−2と互角に戦ったり、インテルを0点に抑えたこともあった。これらはすべてサッリが我々に100回繰り返させた練習のおかげだった。そのおかげで、考えるより早く、体に染みついたサッリの意図するプレーができるようになったんだ。だからこそ鎌田の覚醒は、ただ時間の問題なんだと言いたい。外から来る選手は、その目覚めの時が来るのを期待される」
マッカローネだけでなく、誰に聞いても「時間がカギ」と言うのは変わらない。ただし、あまり悠長に構えていられないのが現実だ。ボールは今、鎌田の足元にある。1月10日のローマ戦は一発逆転の最大のチャンスとなる。