青森山田の守護神は驚くべきメンタルの持ち主 準決勝も「PKが来るだろうなっていうのは予測していて」2本もストップ
立ち上がりから圧力をかけ、得意のセットプレーから先制し、強度の高い守備を保って逃げきりを図る。守勢に回った終盤に追いつかれたため、プラン完遂とはならなかったものの、勝ち越し点は許さずにPK戦の末に勝利を掴み取る──。
なんとも"らしい"戦いで、市立船橋(千葉県)との強豪対決を制した青森山田(青森県)が2大会ぶりに決勝の舞台へと駒を進めた。
青森山田の守護神GK鈴木将永 photo by Takahashi Manabu
市立船橋とすれば、手も足も出ない状況だっただろう。頼みのエース、郡司璃来(りく/3年)はボールを持てばさすがのクオリティを発揮したが、そもそもボールに触れる機会がなかなか訪れなかった。
打点の高いヘッドで先制点を奪い、郡司封じも担った青森山田の長身センターバック、小泉佳絃(かいと/3年)は「郡司選手には、くっつきすぎるとスピードでやられると思っていました。ファーストタッチ際が弱点だと分析していたので、そこを狙いつつ、 前を向かせないこと、彼のスピードを出させないことを意識してやれた。そこはすごく自信になりました」と胸を張った。
もっとも前半30分を過ぎたあたりから、展開は徐々に変わっていく。高い位置でのプレスをかわされた青森山田が、カウンターを浴びる機会が増えていったのだ。
「今日の試合は1点ゲームになるっていうことは、想定していました。ただ、思ったよりも市船さんの縦に速いサッカーに対し、少しうしろがバタついてしまった」
青森山田の正木昌宣監督が振り返ったように、縦パスを意識し始めた市立船橋の攻撃に迫力が生まれていくと、その流れは後半に入ってより拍車がかかっていく。市立船橋が敵陣でボールを保持する時間が増え、青森山田は完全に防戦一方となってしまった。
【青森山田のGK鈴木将永がPK戦に強い理由とは?】それでも、小泉とキャプテンの山本虎(とら/3年)の2センターバックを中心に何とか耐え忍んでいたものの、79分に左サイドを崩されて同点ゴールを浴びてしまう。さらに85分にもラインの背後を突かれ、絶体絶命のピンチを迎えている。
あるいは、このシーンが勝敗を分けたポイントとなったかもしれない──。市立船橋の波多秀吾監督もこの場面を悔やんだ。
「選手たちは粘り強く、我慢強く、攻撃を組み立てて、しっかりと点数を取ってくれた。そして次の点数が取れそうな場面もあった。そこを取れるか、しのぐかというところが、キーポイントだったのかなと思います」
青森山田にとっては、1-1で試合を終えた時点で、勝利を確信していたかもしれない。
「PK戦に関しては、鈴木将永(しょうえい/3年)という絶対的に信頼しているキーパーがいますので、本当に準備してきた結果が出てよかったと思います」(正木監督)
鈴木は昨年の大会でも3回戦の国見高戦でPK戦要員として登場し、勝利に貢献。今大会でも2回戦の飯塚高戦でPK戦を経験し、ここでも見事なセーブを見せていた。そしてこの日も2本のストップを披露し、決勝進出の立役者となったのだ。
驚かされるのは、そのメンタルだ。
「ここの舞台でPKが来るだろうなっていうのはある程度予測していて、だから実際に今日、PK戦になっても焦らずというか、冷静に準備してきたことを、しっかり出せたかなと思います」
PK戦に強い理由を問われると「過去のデータを頭に入れてやってもなかなかうまくいかないと思っているので、 自分が磨き上げてきた感覚を信じてやっている感じです」と説明。圧巻だったのは、味方のキックが止められた直後の4本目だった。
「1本くらいは(相手に)止められるだろうなと思っていたので、別に焦ることなく、ただ自分が止めればいいだけという感じで、落ち着いて入れました」
その言葉どおりに、鈴木は1本目に続いてこの4本目も完璧にストップしてみせた。
【黒田剛監督が退任しても伝統の勝負強さは変わらず】試合の内容的には、後半に押し込んだ市立船橋が上回っていたように思える。それでも勝ったのは青森山田だった。悪い流れのなかでも勝利だけは掴み取る。近年の高校サッカー界をリードする青森山田の強さの秘訣は、果たしてどこにあるのか。
市立船橋の波多監督は「セットプレーだったり、守備の強度だったり、ひとつひとつのクオリティがまず高いということ。それから試合運びのうまさというものが、脈々と受け継がれているんじゃないかと思っています。(優勝した)プレミアリーグでもそうですし、一発勝負の試合においても発揮できる勝負強さというところは、すごくリスペクトしています」と、その勝負強さに舌を巻いた。
一方で市立船橋のキャプテン・太田隼剛(しゅんごう/3年)は「ゴール前での身体の張り方のところでは、(青森)山田さんのほうが少し上だったと思います。あとは、日頃のピッチ外での行動っていうところで、まだまだ自分たちには甘さがあったのかなと思います。山田さんは、本当にそういうところまで突き詰めてやっているから、特別な戦い方はしてないですけど、毎年毎年、高校世代のトップで戦えているのかなって思います」と、日常の意識に差があると感じたようだ。
青森山田の選手からあふれ出るのは、国立の大舞台でも動じない圧倒的な自信だ。妥協なき日常の積み重ねが、彼らに確たる自信をもたらしているのだろう。
守護神の鈴木は言う。
「信じられるのは自分自身だと思っているし、 自分を信じ続けて毎日毎日を積み重ねていくことで、こういう大舞台になったとしても、変わらず結果を出せる。そういうものだと思っているので、本当に日常から準備の部分だったり、1日1日成長し続けることを意識してやっています。その積み重ねが、こういう結果を生んでくれているのかなと思います」
長年、チームを指揮してきた黒田剛監督(現・FC町田ゼルビア監督)が退任し、正木監督に代わっても、伝統の勝負強さは変わらない。そこには脈々と受け継がれる意識の高い日常があるからだ。
2大会ぶり4度目の優勝を目指す近江(滋賀)との決勝戦でも、彼らは臆することなく、ふだんと変わらない戦いを見せるのだろう。