近江は絶対王者・青森山田にも勝利し優勝となるか!? 強豪を次々と撃破→ターニングポイントは明秀日立戦の後半
全国高校サッカー選手権大会準決勝。ともに初のベスト4進出となった顔合わせは、近江(滋賀県)が堀越(東京都A)を3−1で下し、決勝戦に駒を進めた。
今大会が3回目の出場となった近江は、過去2大会で2回戦の壁を破れずにいたが、初の2回戦突破どころか、さらに3つの壁を軽やかに乗り越えてしまった。
キャプテンのDF金山耀太が語る。
「国立はずっと憧れていた舞台だったので、すごく楽しかったけど、まだまだ自分たちはできると思うので、(決勝では)自分に期待してやれたらなと思う」
人がどんどん絡んでくる分厚い攻撃が自慢の近江。photo by Kishiku Torao
とはいえ、強豪校を次々に退け、勢いに乗る技巧派集団も、大会前半は必ずしも本来の力を発揮できていたわけではない。
まだ年明け前の大晦日。大会初戦(2回戦)に臨んだ近江は、全国高校総体ベスト4の日大藤沢(神奈川県)に先制を許す苦しい展開を強いられていた。
結果的に後半に追いつき、1−1からのPK戦の末に3回戦に進んだものの、総シュート数はわずか4本と自慢の攻撃力は鳴りを潜めた。
続く3回戦でも、全国高校総体王者の明秀日立(茨城県)を相手に、またしても1−1からのPK戦で勝ち上がりはしたが、前半に先制されるなか、奪った得点は1点のみに終わっている。
この時点で同校初となる大会2勝目を挙げたものの、その勝ち上がりはかなり危なっかしいものだった。
ところが、である。
準々決勝に入ると、近江の攻撃力が一気に爆発。前回大会ベスト4にして、今大会の優勝候補でもあった神村学園(鹿児島県)を激しい点の取り合いの末に4−3で退けると、準決勝では前半のうちに3ゴールを叩き込み、早々に試合を決めてしまったのだ。
「"聖地"国立競技場の雰囲気でノッちゃったんじゃないか。スタッフもびっくりしていた」
近江を率いる前田高孝監督も苦笑する、圧巻のゴールラッシュである。
大会なかばで、近江にいったい何が起きたのだろうか。
神村学園戦で値千金の決勝ゴールを決めるなど、今大会3ゴールを挙げているMF鵜戸瑛士は「シュートを打つ本数も変わった(増えた)し、ゴール前での質もみんな上がってきた。決めきるところを決めきれるようになった」と言い、その要因をこう語る。
「(試合を重ねるごとに)リラックスして軽い気持ちでできるようになった」
これまでの勝ち上がりのなかで、潮目が変わるひとつのきっかけとなったのは3回戦、明秀日立戦のハーフタイムだ。
近江の持ち味としては、「仕掛けが得意な選手が多くて、ひとりがドリブルでどんどん前に突っ込んでいって、その周りをサポートする選手がどんどん湧いてくる攻撃が結構多い」と、MF山門立侑。DFも含めて、どこからでもボールを前に持ち運べるのが、近江の魅力だ。
「(近江の特長は)基本的には個人の技術。前向きに入ってくるところとか、(プレーの)選択肢がすごく多い選手が多いので、中盤でボールを引っ掛けるというか、止めることができず、そこにどんどん加勢されて(相手選手が)後ろから出てくる。彼らのストロングが多く出てしまって、その対応をどうしようかなと考えているうちに失点を重ねてしまった」
堀越の佐藤実監督が敗戦後に口にした、そんな言葉が近江のサッカーを端的に表している。
だが、明秀日立戦の前半を振り返ると、近江らしさがまったくと言っていいほど見られていなかった。
そんな近江が突如目を覚ましたのは、ハーフタイムを挟んだ後半である。
鵜戸と並ぶ今大会3ゴールの山門は「ハーフタイムに監督からも喝を入れられて、自分たちも『もういくしかない!』となった」と言い、こう続ける。
「自分たちは体力にも自信があるので、ギアを上げて、よりハードワークするっていう部分で勝(まさ)れたと思う」
前半から一転、攻撃に迫力が出た近江は、後半に同点に追いつくのだが、今大会で初めて相手をシュート数で上回ったのが、この明秀日立戦の後半だった。
山門は言う。
「(その後の試合では)チャンスの数も増えたが、しっかり決めきるところが増えた。初戦も次の試合も決められるチャンスはあったけど、それが決まっていなかった」
3回戦まで、いや、3回戦の前半までは、どこか恐る恐るボールを動かしていた選手たちは、大胆にポジションをとり、思いきった仕掛けができるようになった。
そして生まれた、同点ゴール。自分たちのスタイルに自信を持てるようになった近江が、2試合連続のゴールラッシュで決勝まで駆け上ってきたことは、すでに記したとおりだ。
勢いに乗る近江が最後に挑むのは、今大会の優勝候補筆頭にして、今年度の高円宮杯U−18プレミアリーグファイナルの王者、青森山田(青森県)である。
「一番のビッグネームの相手なので、ここを倒して優勝するとインパクトは最高かなと思う。倒せるように頑張りたい」
山門がそう話すように、今の近江にとっては、絶対王者との頂上決戦でさえ望むところだろう。"聖地"国立が舞台でも、緊張するどころか、その雰囲気にノッてしまう勢いは侮れない。
これまで2回戦止まりだった伏兵が、一気に頂点に立つ可能性は十分にある。