「久保建英はラ・レアルにおける魔法だ」スペイン人記者がアジア杯での不在に嘆き「その影響力はゴールやアシストの枠を超えている」
久保建英は新年最初のアラベス戦を終え、ラ・リーガ前半戦を終了した。この後、1カ月にも及ぶアジアカップ制覇に向けた戦いに身を投じることになる。今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、久保の不在がレアル・ソシエダにどう影響を及ぼすのか、記者の目線から分析してもらった。
【久保のいない1月は厳しいものに】日本ではどうなのかわからないが、スペインでは「1月は1年で最も大変な月のひとつ」とよく言われる。
それはクリスマス休暇を終えた人々が、さらに1月6日のレジェス・マゴスの日(三賢者の日/子どもたちがプレゼントを受け取る日)で散財し、世間が節約ムードとなるなか、多くの商品が値上がる傾向にある1月を乗りきるのがとても大変だからだ。これはスペインで言うところの財政難の時期を指す"クエスタ・デ・エネロ(1月の坂)"である。
久保建英はアジアカップの日本代表メンバーに選ばれた photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
そしてレアル・ソシエダにとっても、アジアカップ制覇に向けて日本代表に参加する久保建英の欠場により、"クエスタ・デ・エネロ"がより厳しいものになるのは間違いない。
そんななか、私たちは2つのことを感じている。
まず私たちは我がチームの選手に悪いことが起こるのを決して望んでおらず、久保の代表チームでの活躍を願っている。しかしその一方で、久保はレアル・ソシエダにとってとても重要な選手であるため、一刻も早い復帰を望んでいるのだ。
イマノル・アルグアシル監督自身、サン・セバスティアンのみんなの気持ちを代弁してくれた。
「私たちはタケが代表チームでうまくいくことを常に望んでいるし、幸運を祈っている。彼は可能な限り上に行きたいだろうが、私はできるだけ早く敗退し、すぐにでもここに戻ってきてもらいたいと思っている」
久保不在のレアル・ソシエダは本来のレアル・ソシエダではないため、チームにとってこの"クエスタ・デ・エネロ"は非常に辛いものになるだろう。
【9試合も欠場するのは深刻】アジアカップがカタールで1月に実施される理由はわかっている。しかし、歴史的にこのスポーツを牽引してきたヨーロッパのシーズン中に、前回のワールドカップとは違い、欧州各国のリーグ戦を中断せずに大会を開催するというすばらしいアイディアを思いついた聡明な人物のことを私はまったく理解できない。
この件については日本代表に合流する前、久保も不満を言葉にしていた。
「リーグ戦の最中にアジアカップが開催されるのは残念なことだ。僕に給料を払ってくれているのはもちろんラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)だけど、もしメンバーに招集されたら参加する義務がある。そのため僕は行かなければならないし、そう言わざるを得ない。ラ・レアルには申し訳ないと思っているが、母国を代表してアジアカップに参加できるのが本当にすばらしいことなのも事実だ。それが現実なので、僕はできる限り大会を楽しむつもりだよ」
ラ・レアルが今回、スター選手を失うという問題の根底にあるのは、私たちが久保の去就に感じているのと同じ懸念である。
彼はチーム状態が良くない時に攻撃を牽引し、チームのなかで最も想像力に富み、最も大きな違いを生み出し、最も予測不可能な選手だ。久保はイマノル監督にとって大きな存在であり、彼がいないチームからは多くのものが失われることになる。この問題は深刻だ。
我々は今、真剣に久保の離脱を不安視している。というのもすべてが順調に進み、日本代表が決勝進出を果たし、ラ・レアルが国王杯を勝ち抜いた場合、久保は公式戦9試合を欠場することになるからだ。
私には、ラ・リーガと国王杯の厳しい戦いを交互に凌いでいくのは至難の業に思える。その理由として第一に、必要なローテーションを組むための選手層が薄くなること、そして第二に、客観的に見て久保不在のラ・レアルの攻撃力が今よりも低下することが挙げられる。
久保の数字が最近伸び悩んでいるとはいえ、彼がラ・レアルに与える影響力は、ゴールやアシストという枠をはるかに超えている。久保は非常に難しいことをいとも簡単にやってのけている。そのため対戦相手は彼をより警戒する必要があり、それによってチームメイトが自由に生かせるスペースが生み出されているのだ。それは久保の新しい価値と言えるだろう。
久保は大きく進化し、多くのチャンスを生み出しているため、たとえそれが成功に終わらなくとも、対戦相手は彼を止めるためにより多くの選手を費やさなければならない。久保はイマノル監督率いるラ・レアルにおける"魔法"であり、チームはそれを今月欠くことになる。
論理的に考えた場合、久保が常に隠し持っているサプライズ的な要素がなくなれば、アスレティック・ビルバオ(1月13日に対戦)や驚異的な結果を残しているジローナ(2月4日に対戦)のようなライバルを打ち負かすのははるかに難しくなるだろう。
【誰が久保の穴を埋めるのか】そのためラ・レアルは他の武器を用いなければならないが、その観点からまず言わなければならないのは、アンデル・バレネチェアが本調子に戻るのが不可欠だということだ。
地元出身のこの選手はチーム内で最も久保に似た選手。久保不在による物足りなさを感じさせないためにも、ラ・レアルはバレネチェアのドリブルやイマジネーションに頼る必要があるし、彼はより多くの責任を負わなければならない。
バレネチェアは左サイドでプレーする選手のため、久保の純粋な代役にはならないが、誰が久保のポジションでプレーできるかというのと、誰がチームのなかで久保の役割を担えるかというのはまったく別の話だ。
誰がその穴を埋めるのか? 特徴から言えば、それはモハメド=アリ・チョーであるはずだが、この若きフランス人ウインガーは今季ほとんど試合に出ていない。久保の代わりを務めるためには、大きく成長する必要がある。
その他、すでにトップチームデビューを果たしているアルベルト・ダディエやジョン・マグナセライアといった若手をBチームから連れてくるという選択肢もあるが、それは絶望的な状況での一時しのぎにしかならないだろう。
イマノル監督が最も使いそうなオプションで私が気に入っているのは、ミケル・オヤルサバルを右サイドに置き、アンドレ・シウバをセンターフォワードに据えるというものだ。どのポジションにも適応できるラ・レアルのキャプテンは今季、イマノル監督が久保を温存したいくつかの重要な試合ですでにそのポジションでプレーしている。その可能性は決して低くなく、個人的には一番いいと思っている。
グラナダ時代、サイドで際立つパフォーマンスを見せていたカルロス・フェルナンデスがそのポジションでプレーすることも考えられるが、ラ・レアルでは一度もそこで起用されていない。
これらすべてのことで明らかになっているように、ラ・レアルには久保のような選手は他に存在しない。その代役を務めるのは簡単ではなく、彼の不在時、そのことが顕著に表れている。そのためラ・レアルがパリ・サンジェルマンとの大一番(チャンピオンズリーグ・ラウンド16第1戦、2月14日)をいい形で迎えるのは容易ではないだろう。
しかしパリでの初戦に向け、久保をメンバーに加えることができると思うし、彼は休むのではなくアジアカップを戦い終えて戻ってくるので、良好なコンディションでその一戦に臨めるはずだ。それはラ・レアルがチャンピオンズリーグを勝ち進む可能性をより高めてくれるものとなる。
【久保へのタックルも心配だ】ラ・レアルはアラベスと引き分けて新年の幕を開け、激しいタックルを受けていることに怒りを露わにした久保の発言はスペイン国内で多くの物議を醸し出したが、彼のその訴えは正しいと言える。
なぜなら久保はラ・リーガで3番目にイエローカードを誘発し、6番目に多くドリブルを仕掛けている選手だからだ。
しかしケガぎりぎりのタックルを再三にわたって受けている。カディス戦では重傷を負う可能性があったし、アラベス戦では足を引きずりながら交代した(※その後の検査で左足大腿四頭筋負傷と診断されるも深刻なものではなく、アジアカップに臨む日本代表に合流)。「彼を守るのか」、それとも「本当にケガをするのか」という状況にまでなっているのだ。
実際に久保が負傷してしまった場合、私たちは大いに頭を抱えることになるだろう。だからこそ選手のクオリティーを守らなければいけない。久保はその高いクオリティーを備えた、観衆にとって本当に価値ある選手だ。実際、アラベス戦でもクロスバーを震わせるような個人技を発揮してラ・レアルの攻撃をリードし、相手は彼をファウルでしか止めることができなかった。
久保のプレーを見ていると、彼のいない今後1カ月間の日常が非常に厳しいものになると思わずにはいられない――。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)