「久保、相手チームの(暴力的)攻撃性に"苦言"。(審判の)"庇護"を求める」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』はそう見出しを打っている。

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は今シーズン、試合を重ねるたびに厳しくなるマークにあっている。密着マークは"削る"という領域を越えた。半ば殴る蹴る、体当たりやぶん回しに至るまであり、もはやプロレス技に近い。

「遅かれ早かれ、タケ(久保)へのマークは荒っぽくなる」

 9月のサンセバスチャン現地取材の時点で、ラ・レアルのレジェンドOBたちはそう口を揃えていたが、予想以上の暴力的ディフェンスだろう。それだけ、久保が相手を恐れさせているのだ。

「それぞれの役割はあると思うけど......。自分はボールを持って、人々を楽しませ、勝つためにプレーしています。ただ、試合ごとにそれが難しくなっていて、敵選手のなかには、その意志はないにしても、自分を傷つけている場合もあります。審判はもう少しだけでも、自分だけでなく、自分のように"プレーで見せようとしている"選手を守るべきだと思います」

 久保はそう心境を吐露している。

 そんな彼が日本代表としてアジアカップを戦うため、ラ・レアルを離脱せざるを得なくなった意味とは何なのか?


アラベス戦に先発、後半48分までプレーした久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 1月2日、レアレ・アレーナ。ラ・レアルは、同じバスクの伏兵で、何人もレンタルや完全移籍の選手がいるアラベスと、2024年の初戦を戦っている。

 久保は、いつものように4−3−3の右サイドで先発している。攻撃を牽引し、存在だけで相手を撹乱。CKで速い弾道から落とす左足キックは、確実に敵を脅かした。23分、マルティン・スビメンディのパスを受け、すかさずアンドレ・シルバに出したパスは、合わなかったものの、プレーセンスは出色だった。31分、ひとりを置き去りにすると、必死に立ちはだかった相手を前に打ったシュートは股間を打った。それだけ体を張らないと久保を止められないのだ。

【最大で10試合を欠場】

 久保はモーションが小さく、シュート、ドリブル、パスといった次のプレーが読みにくい。誘って裏を取るなど、無限にプレーをキャンセルして別の選択肢を採れるのだ。だからこそ最大のダメージを与えられる。

 35分、ラ・レアルはGKアレックス・レミーロが決定機阻止のエリア外でのハンドで退場後、ひとり少なくなったが、久保がいることで思うようにはさせなかった。アラベス陣営はむしろ左サイドの守備を強化するため、サイドMFを交代。スコアレスのままだが、ラ・レアルは優勢だった。

 後半に入って56分、久保は敵陣で文字を描くような不規則ドリブルで相手を翻弄し、スビメンディのミドルをお膳立てした。騎兵が敵陣内を蹂躙するようだった。そこで相手は力づく、反則まがいのディフェンスで止めに来た。

 75分、ラ・レアルは一瞬の隙を突かれる形で、エリア内の接触から相手にPKを与えて先制点を奪われる。

 これで久保はギアを上げた。相手の左サイドバックに居合抜きの要領で足を出させて"後の先"を取り、右サイドを抜け出すなど。ひとり少ないチームに活力を与えた。アディショナルタイム、交代出場のアンデル・バレネチェアが左サイドでボールを奪ってカウンターを発動させると、折り返しのこぼれ球を久保は左足で狙い、バーを揺らした。

 ラ・レアルはその勢いを駆って、終了間際のスビメンディの一撃で同点に追いついている。

「アラベスDFにとって、久保は終始"迷惑者"になっていた。特に試合終盤は顕著だった。バー直撃のシュートは幻のスーパーゴールだったが、ゴールに迫り続けた。またも酷いファウルで止められるシーンがあって、傷を負ったままアジアカップへ行くことに......」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、全面的に久保を擁護。出場選手で最高の二つ星(0〜3の4段階)をつけた。そしてエース級の選手が、この時期にチームを離れる状況を憂えていた。

 1月13日に開幕するアジアカップに日本代表として出場するため、久保はラ・レアルを離れる。2月11日の決勝に進出した場合、最大10試合を欠場。ラ・リーガだけでも、バルセロナやレアル・マドリードとの一戦よりも重要度の高い次節のバスクダービー、アスレティック・ビルバオ戦を皮切りに、セルタ、ラージョ・バジェカーノ、ジローナ、オサスナ戦を欠場予定。スペイン国王杯は勝ち上がり次第で4試合を棒に振る。

 そして何より、2月14日のチャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16、パリ・サンジェルマン(PSG)戦のファーストレグ出場は絶望的である。奇跡的に間に合っても、大会を戦い抜き、長い移動をして、ほぼ中一日でベストプレーができるほど甘くはない。重大なケガもあり得る。

 もちろん、ラ・レアルに招集の拒否権はない。久保も「シーズン中の開催は残念」「(アジアカップを戦う)義務がある」「行ったら代表のために戦う」と、苦渋を滲ませながらも気持ちを切り替えるしかない。

 ただ、久保が18歳で海を渡ってレアル・マドリードと契約し、勝負を積み重ねてきたのは、CLでPSG戦のようなゲームを戦うためだったのではないか。もし自身の活躍で勝ち抜くことができれば、世界的なインパクトを与えることになる。それは"日本サッカー興隆の証明"になるはずだ。

 率直に言って、世界的にはアジアカップは記録が打電されるぐらい。ほとんどの日本人はアフリカ王者を知らないのと同じことだ。かつてアジア王者、コンフェデレーションズカップ出場は栄えある称号だったが、時代は変わった。今や欧州の最前線で日本人選手が華々しい勝負を繰り広げているのだ。

 森保一監督は、久保の招集に関して再考すべきではないか。最低でも、準決勝前後にはラ・レアルへ戻すべきである。元旦のタイ戦でも明らかなように、欧州のトッププレーヤーが集まれば、誰が采配を振っても相当の力量差が出る。久保、冨安健洋、三笘薫などが不在で戴冠することで、指揮官としての価値も上げられるはずだ。

 もし久保がPSG戦出場を逃すようなことがあれば、それは日本サッカーにとっての損失と言える。