1月12日に開幕するアジアカップへ向け、日本代表が1月1日、タイ代表と親善試合を行なった。

 結果は、日本が5−0で勝利。前半こそタイの粘り強い守備をこじ開けられず、無得点に終わったものの、後半に大量5ゴールを奪っての完勝である。

 この試合のために招集された日本代表メンバーは23人。ヨーロッパ組では、ウインターブレイク(年末年始のリーグ戦中断期間)を設けている国のクラブに所属する選手だけが招集されている。

 一例を挙げると、ドイツやフランスのクラブに所属する選手は招集できたが、スペインやイングランドの選手はできていない。

 結果としてベストメンバーとは言えない編成になったわけだが、アジアカップの準備としてどれだけ意味があったかはともかく、新戦力の起用という点においては貴重な機会となったことは間違いない。


タイ戦では多くの新戦力が起用された日本代表。photo by Sano Miki

 実際、このタイ戦では5選手、すなわち、藤井陽也、伊藤涼太郎、奥抜侃志、川村拓夢、三浦颯太が、日本代表デビューを果たしている。5選手ともアジアカップメンバー選出には至らなかったものの、随所に持ち味を発揮していたのではないだろうか。

 新戦力の5人はそれぞれ、伊藤と奥抜がヨーロッパ、藤井と川村がJ1、三浦がJ2と、所属クラブはバラエティーに富んでいる一方で、藤井を除く4人に共通するのは、J1経験が少ない、あるいはまったくないことである。

 伊藤は浦和レッズ、大分トリニータ在籍時代にJ1経験があるものの、リーグ戦出場は通算でわずかに11試合。昨夏まで在籍したアルビレックス新潟で17試合に出場した2023年が、実質的に初めてのJ1でのシーズンだったと言ってもいい。

 また、大宮アルディージャユースからトップに昇格した奥抜は、2022年夏にポーランドのグールニク・ザブジェに期限付き移籍後、2023−2024シーズンからドイツのニュルンベルク入り。三浦は、新シーズンから川崎フロンターレへの移籍が決まっているとはいえ、ヴァンフォーレ甲府の大卒ルーキー。ともにJ1クラブに在籍した経験がない両選手は、当然のことながら、J1でのプレー経験はまったくない。

 新戦力4人のなかで最もJ1出場が多い川村にしても、2018年にサンフレッチェ広島ユースからトップ昇格を果たすも出場機会を得られず、愛媛FCへ期限付き移籍。J2で3シーズンを過ごしている。

 2022年の広島復帰後、J1での2シーズンを戦い終えたが、シーズンを通して主力としてピッチに立ち続けたのは、2023年が初めてのことである。J1で十分な実績を残してきたとは言い難い選手なのだ。

 こうした背景を持つのは、彼ら4人だけではない。

 このタイ戦で先発出場した鈴木彩艶は、浦和ユースからトップ昇格するもJ1での通算出場記録はわずか8試合に過ぎない。

 また、2023年に日本代表デビューを果たした佐野海舟は、米子北高卒業後に町田ゼルビア入り。J2では4シーズンにわたってプレーしているが、J1でのプレー経験は、鹿島アントラーズ移籍後の2023年のみ。現時点では、プロ選手としてのキャリアの多くをJ2で過ごしてきた選手である。

 同じく昨年デビューの毎熊晟矢にしても、桃山学院大卒業後はV・ファーレン長崎入り。J2で2シーズンにわたってプレーしたあと、2022年にセレッソ大阪へ移籍しているため、J1在籍期間はまだ2シーズンしかないのだ。

 日本代表への道が多様化している、と言えば、聞こえはいい。

 高校、あるいは大学を卒業する時点でJ1クラブから声がかかるような選手でなくても、日本代表入りの夢は叶えられる。そんな言い方もできるだろう。

 しかし、裏を返せば、J1クラブに在籍し、実績を重ねることが、必ずしも日本代表入りへの王道ではなくなったということだ。

 そこで起きているのは、J1の空洞化とでも呼ぶべき現象である。

 有望な高卒選手のなかで、J1クラブよりもJ2クラブへ行きたいと望む選手が増えている、という話を聞くようになったのは、もう何年か前のことだ。

 つまりは、J1クラブに入っても試合に出られないのなら、J2クラブに入って実戦経験を得ることで成長につなげたい。そう考える選手が多くなっている、というのである。

 その判断が間違いではなかったことは、図らずも日本代表の新戦力たちが証明している。

 同じことは、高卒即海外という道を選択する選手にも言えるのかもしれない。

 昨年度の全国高校サッカー選手権大会で活躍した福田師王は神村学園高卒業と同時に、Jクラブを経ずに渡独(ボルシアMG)。実際にプレーするのはセカンドチームとはいえ、実戦経験を重ね、ゴールを重ねている様子は日本にもニュースとして伝わってくる。

 同じ神村学園から今年も吉永夢希が高卒即海外(ゲンク/ベルギー)の道を選択したが、福田の影響があったことは想像に難くない。

 福田にしろ、吉永にしろ、J1クラブからも引く手数多だったはずだが、すぐに試合に出て実戦経験を成長につなげたいと考えるならば、賢明な選択ということになるのだろう。

 おそらくサッカー選手を夢見る子どもたちの多くにとって、「海外(=チャンピオンズリーグ)」と「日本代表(=ワールドカップ)」が二大目標だろう。だが、その目標達成のためのステップとして、J1は必要な過程ではなくなりかけているのかもしれない。

 現在のJ1は、20歳前後の選手がすぐに試合に出られるほどレベルが低いリーグではない。

 さりとて、さまざまな意味でヨーロッパと肩を並べられるほどにはレベルは高くない。

 言い方は悪いが、海外や日本代表を目指す選手にとっては、使い勝手の悪いリーグになってしまっているのだろう。

 J1はいかにして自らの存在価値を生み出すべきなのか。

 新戦力の台頭と日本代表の選手層の厚さを頼もしく感じると同時に、そんな課題について考えさせられた新年最初の代表戦である。