アジアカップを戦う日本代表メンバー26人が以下のように発表された。

GK
前川黛也(ヴィッセル神戸)、鈴木彩艶(シント・トロイデン)、野澤大志ブランドン(FC東京)

DF
谷口彰悟(アル・ラーヤン)、板倉滉(ボルシアMG)、渡辺剛(ゲント)、中山雄太(ハダースフィールド)、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サンジロワーズ)、毎熊晟矢(セレッソ大阪)、冨安健洋(アーセナル)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、菅原由勢(AZ)

MF/FW
遠藤航(リバプール)、伊東純也(スタッド・ランス)、浅野拓磨(ボーフム)、南野拓実(モナコ)、守田英正(スポルティング)、三笘薫(ブライトン)、前田大然(セルティック)、旗手怜央(セルティック)、堂安律(フライブルク)、上田綺世(フェイエノールト)、中村敬斗(スタッド・ランス)、佐野海舟(鹿島アントラーズ)、久保建英(レアル・ソシエダ)、細谷真大(柏レイソル)


アジアカップに向けて日本代表メンバー26人を発表する森保一監督 photo by Fujita Masato

 冨安もいれば三笘もいる。久保の名前もしっかりある。考え得る限りにおけるベストメンバーを選んだという印象だ。いろいろな見方はあると思うが、筆者の見解はアジアカップのレベルはそこまで高くない。26人中24人を占める欧州組という精鋭部隊を惜しみなくつぎ込む必要はない。むしろリスクのほうが勝る、文字どおりの無駄遣いではないか、というものだ。

 日本の生命線は欧州組だ。彼らが各所属クラブで出場機会を増やし、活躍することが、一番の代表強化になる。アジアカップで格下相手に順当な勝利を重ね、優勝を飾ることの意義は、欧州組の占める割合が上がるほど薄れている。

 1992年大会以降の日本の成績は以下のとおりだ。1992年優勝、1996年ベスト8、2000年優勝、2004年優勝、2007年準優勝、2011年優勝、2015年ベスト8、2019年準優勝。

 優勝確率50%。各大陸選手権で、ここまで圧倒的な強さを発揮している国はほかにない。10カ国(+招待国)で争われるコパ・アメリカで、常に本命とされるブラジル、アルゼンチンでさえこれほどまで強くない(1991年以降の13大会での優勝はブラジル5回、アルゼンチン3回)。

【日本代表とアジア杯の「特殊な関係」】

 決勝でオーストラリアを下して優勝した2011年あたりまでは、アジアカップは代表強化に適した有意義な大会だった。しかしUAEに延長、PK負けした2015年のベスト8は「運に恵まれなかった」で片付けられると考えられるし、決勝でカタールに敗れた前回も、監督が選手を使い回す術に長けていれば、優勝できていたと言いたくなる。実力的には優勝する力は十分にあったと見るからだ。

 日本にとってアジアカップは卒業していいレベルにある大会だ。にもかかわらず、W杯本大会に臨むような気持ちで、強力なメンバーを編成する。W杯でベスト8以上を狙うチームのすることだろうか。首脳陣自らが日本の力を信用していないのではないかと疑いたくなる。

 山本昌邦日本代表ダイレクターはメンバー発表会見で「各所属クラブは各大陸選手権では選手を代表チームにリリースする義務がある(拘束する権利がある)というFIFAの規定にしたがったまで」と述べて正統性を強調したが、先述のとおり、アジアカップという大陸選手権と日本の関係は少し特殊だ。世界的に見れば例外中の例外なのである。FIFA規定は一般論に過ぎない。アジアというレベルの低い地域から、W杯本大会で2050年までにW杯で優勝を飾ろうとするなら、日本はベストな道を独自に探るしかない。

 その昔、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)にベストメンバーを揃えないチームに対して怒ったのは、当時のJリーグ専務理事で、日本サッカー協会元会長の犬飼基昭さんだが、それはいまではすっかり当たり前の事象になっている。それと同じ理屈だ。

 元日のタイ代表戦で、先発にレギュラークラスが伊東純也ぐらいしかいないにもかかわらず大勝したことでも明らかなように、日本人のレベルは誰が出場しても上々だ。タイの石井正忠監督は、実際にピッチの脇で試合を見て、そのことにあらためて驚いたという。およそ100人を数える欧州組。さらに今すぐ欧州に渡ってもおかしくない国内組もゴロゴロいる。選手のレベルは紙一重の関係で拮抗している。

【大勝のタイ戦でも見えた日本の弱点】

 それでも森保監督は考え得る限りのベストメンバーを編成した。生真面目な森保監督らしいと言えばそれまでであるが、垣間見えるのは、むしろ余裕のなさだ。強そうに見えてこないのである。

 とはいえ、日本は絶対に優勝しなければならないメンバーを選んでしまった。アジアのすべてのチームは、有名選手で固めた日本に対して、チャレンジャー精神旺盛に全力でぶつかってくる。日本は結果的に胸を貸すことになる。大丈夫か。堪えられるか。

 死角はある。タイ戦でも一目瞭然となったことだ。この試合で1トップを務め、アジアカップのメンバーにも選出された細谷真大は、フル出場したが、5−0の大勝劇のなかで活躍したとは言えなかった。ノーゴールに終わったことより、周囲と絡めなかったことを問題視したい。日本はさんざんボールを回したにもかかわらず、細谷はそこに有機的に加わることができなかった。

 1トップにボールが収まらないサッカー。これこそが現在の日本の弱点なのだ。ウイングには右も左も好選手がひしめく。ウイング攻撃は誰が出場してもそれなりに機能する。だが、真ん中の攻撃はさっぱりだ。左右真ん中と3つある攻撃のルートの中で、真ん中の攻撃だけが機能していない。パス回しの質が上がらない理由であり、決定的なチャンスが思いのほか少ない理由だ。

 それは上田綺世が1トップを張っても解決しない。浅野拓磨、前田大然の場合はもっと深刻になる。

 だとすれば1トップと最も近い距離で構える1トップ下に、ボールを収める力が高い選手が不可欠になる。だが、その断トツの1番手候補である鎌田大地は今回、招集漏れとなった。森保監督は「選手には置かれている状況がそれぞれあって招集できなかったりする」と述べ、それ以上は口にできないとした。

 ラツィオで出たり出なかったりを繰り返す鎌田を強引に招集することは、長い目で見れば、確かに得策ではない。しかし、替えの利かない選手であることも確かなのである。

 タイ戦では後半から出場した堂安律は、伊東純也がスタメンを張っている間、1トップ下でプレー。存在感を発揮した。だがハマったと言うわけではない。攻撃のバランス維持に貢献したというより、個人能力で解決したという印象だ。相手のレベルが上がればそれでは通用しなくなる。同じく、後半に交代出場した南野拓実も、ボールを前で捌きたいタイプだ。彼らを、4−3−3のインサイドハーフならともかく、4−2−3−1の1トップ下で使うなら、1トップにはやはり大迫勇也がほしい。

 1トップと1トップ下。このふたつのポジションに日本は難を抱えている。両ウイングが人材豊富なだけに余計目立つ。

 前半のタイがそうだったように、日本にある程度ボールを回されても、相手はさほど恐くない。両ウイングがサイドバックとのコンビネーションで最深部をえぐる完璧な突破を披露しない限り、決定機は生まれにくい。押しているにもかかわらず、ゴールが決まらないと試合の流れは悪くなる。相手はこのパターンを狙いたいだろう。

 タイ戦に話を戻せば、タイの石井監督は、0−0で迎えた後半の開始時にメンバーを一挙に4人も代えている。「選手の出場時間を管理したかったからだ」と理由を語った。試合に勝ちたいという気持ちが勝れば、0−0を維持したいという気持ちが勝れば、彼らをもう少し引っ張ったはずだ。それをせず、ペースを乱して大敗した。日本が5−0で大勝した、大きな理由のひとつである。

 目の前の結果を欲するか。長い目で見るか。アジアカップで森保監督は問われることになる。