それぞれが設定した目標に向かって取り組む創価大の選手たち。榎木和貴監督も常にコミュニケーションを取っているという【写真:創価大学】

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箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、創価大学・榎木和貴監督インタビュー第2回

 今年度の大学駅伝シーズンも佳境を迎え、毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。前回大会王者で今季も10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝を制し、史上初の2年連続3冠を狙う駒澤大を止めるのはどこか――。「THE ANSWER」では、勢いに乗る“ダークホース校”の監督に注目。今回は出雲2位、全日本6位と今シーズンの大学駅伝で好成績を残している創価大の榎木和貴監督に、独自の指導論について聞く。実業団で指導者生活をスタートさせ、2019年に創価大の監督に就任した榎木監督。異なる環境での指導を経験して感じたこと、就任5年目の今、大学駅伝の監督として抱く野心について明かした。(取材・文=佐藤 俊)

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 榎木和貴監督は中央大を卒業後、旭化成で競技を続けた。その後、沖電気、トヨタ紡織でコーチ、監督を経て、2019年に創価大の監督に就任。箱根駅伝、全日本大学駅伝でシードを獲るなど結果を残してきたが、実業団での現役時代、さらにコーチ・監督経験によって築き上げた指導法とは、どのようなものなのだろうか。

――榎木監督が指導する上で重視しているのは、どのようなことでしょうか。

「選手と話をして、常に選手に寄り添った指導を心がけています。創価大は、私が就任当初から高校のトップレベルの選手が入ってくるわけではありません。選手とともに歩んで成長していかなければいけないので、まず目標を設定します。3か月に1回、個別面談を実施し、最初に立てた目標の進捗状況や上方、下方修正について、常に選手とコミュニケーションを取り、細かく確認しながら進めるようにしています」

――上手くいかない選手に対して、どのように修正していくのでしょうか。

「何がダメなのか、その原因に選手が気づくところまで、しっかりと掘り下げて話をして、改善していきます。例えば、距離が足りなかったら今までのデータと成功している選手のデータを見比べて距離の重要性について話をします。距離を踏んでいるけど試合が上手くいかない選手には、試合に対しての気持ちの持ち方とか、ピーキングとか、メリハリがなく距離だけ走っているところが見えてきたりします。その原因について選手ととことん話をし、改善していくようにしています」

大学時代の恩師・大志田秀次監督に受けた影響

――自己記録を打ち破れないことで悩むケースは多いですか。

「中間層の選手は、1万メートルを29分20秒ぐらいまではいくんです。そこから28分台の領域に入っていくところで停滞することが多い。そこを打開するためには、今までと同じ努力では難しい。だったら、そこに上乗せした取り組みをしないといけないんじゃないか、そのためにはこういうトレーニングが必要だよねという話をして、練習メニューを提供します。なぜ、そういう練習が必要なのかを理解しないと、いくら練習しても成果に繋がらない。

 また、自己記録が出たから満足ではなく、箱根で勝つところまでレベルを上げていかないといけない。選手が自分でそこのレベルを目指すというところが出てくれば自然に強くなるので、そういう導きをすごく大事にしています」

――創価大に来る前は、沖電気やトヨタ紡織で指導をしていましたが、実業団の選手と学生とでは、指導においてアプローチは異なるのでしょうか。

「実業団は、高校や大学のトップが集まった集団なので、ある意味、自分たちがこれまで築き上げてきたものを守りたいというのが、割と強いんです。また、駅伝というよりもトラックを極めたり、マラソンに移行したり、目標がバラバラなので全体で見ることが難しい。大学は高校から入ってきて、まだ完成形ではないですし、私が大学時代に経験してきたことなどを含めて、選手たちに落とし込むことができます。箱根駅伝を目標にして、全体でそこに向かって動いていくので指導はやりやすいですね」

――実業団は個別主義の指導が軸になり、大学では全体主義と個別主義が混合するスタイルが多いですが、創価大はどのように指導されていますか。

「うちは全体主義で一本化せず、臨機応変に対応しています。目標が箱根駅伝と明確になっている中、平地区間があれば特殊区間もあります。目指すところ、得意分野を伸ばしていく観点で選手とメニューや試合設定などを決めていくので、そこは個別で見ていきます」

――選手を指導する上で、影響を受けた指導者はいますか。

「私が大学生の時に指導を受けた大志田(秀次)さんですね。昨年まで東京国際大で監督をされていましたが、在任中は出雲駅伝優勝や箱根でシードを獲るなど結果を出されていました。それは大志田さんの指導の賜物だと思います。私が指導を受けた時も選手に寄り添ってくれて、目標達成に導いてくださったので、大志田さんの指導を参考にしているところが多いです。

 実業団時代(旭化成)の時の経験も生きています。実業団はトップレベルの選手が集まった集団で、『この練習で強くなる』という感じで、練習はそれをやるしかない感じでした。そこから外れたりすると気にもかけてもらえない。その時、監督主体で動くのではなく、選手が何を求めていくのか、どうなりたいのかをコミュニケーションを取りながら一緒に方向性を探っていく重要性を逆に学ぶことができました」

教え子たちに見てほしい、自分が見られなかった景色

――陸上以外の指導者の言葉などで参考になることはありましたか。

「ネットで検索してWBCで優勝した栗山監督の言葉とか、サッカーやラグビーの指導者がどんなスタンスで選手とコミュニケーションを取り、結果につなげていくのか、すごく興味があって見ています。どの監督にも共通して言えるのは、一方通行ではなく、コミュニケーションが指導する上で大事なことなんだということを改めて感じさせられました」

――榎木監督は、野心をお持ちですか。

「指導者としては、世界に通じるトップ選手を育てていきたいという野心があります。駒澤大は大八木(弘明)さんが3本柱(鈴木芽吹・4年、篠原倖太朗・3年、佐藤圭汰・2年)を指導していて、世界を見据えた練習をしているじゃないですか。世界を目指す選手が3人もいるチームに、箱根しか目指さないチームがチャレンジしても絶対に勝てないと思うんです。うちのチームからもそういう選手が出てくれば、選手の意識が変わり、行動も変わってくると思うので、これまでの育成のノウハウを大事にしつつ、駒澤大みたいにトップクラスの選手を輩出するというのが私のこれからの仕事でもあると思っています」

――監督が見られなかった世界の景色を、選手を通して見てみたいということでしょうか。

「世界陸上やオリンピックは、私が見られなかった景色なので、1人でも多くの選手に見てもらいたい。そのために私も育成強化について、常にアップデートしていかないといけないですね」

榎木 和貴
1974年6月7日生まれ、宮崎県出身。現役時代は箱根駅伝で史上7人目となる4年連続区間賞獲得など、中央大の主力として活躍。3年時の96年大会では4区を走り、32年ぶり14回目の総合優勝に貢献した。卒業後は旭化成に進み、2000年の別府大分毎日マラソンでは2時間10分44秒で優勝。その後は負傷にも苦しみながら沖電気、トヨタ紡織で指導者としての実績も積み上げると、19年に創価大駅伝部の監督に就任した。21年の箱根駅伝で往路優勝、総合2位とチームを過去最高成績へと押し上げる。今季も出雲駅伝2位、全日本大学駅伝6位と上位争いを演じている。

(佐藤 俊 / Shun Sato)

佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)など大学駅伝をはじめとした陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。