山本草太「諦めにも近い日々」を越えて...激戦の全日本フィギュア男子で初表彰台「10回目で報われた」
12月23日、長野。全日本選手権の男子シングル・フリーは抜きつ抜かれつ、白熱の攻防となった。優勝した宇野昌磨、2位になった鍵山優真のふたりは龍虎相打つ様相で傑出していたが、"表彰台争い"は混沌。行方が見えなかった。
「僕が予想したよりもハイレベルな大会でした。日本一をとるのが一番難しい、それくらい日本はレベルが高い。みんなで切磋琢磨し、競技を盛り上げるのは楽しいですが、成績を残すにはパーフェクトな演技が求められますね」(鍵山)
フリー15番目の三宅星南(せな)が清々しい演技でトップに立ったあたりから、混戦の予感が漂い始める。三宅と同じ長光歌子コーチの指導を受ける"同門"の吉岡希が抜き返すが、直後にリンクに立った壷井達也も高得点をたたき出し、順位を塗り替える。どのスケーターも一歩も譲らない。
最終グループは、さらに戦いが熱を帯びた。まず友野一希は観客を引き込むようなプログラムを実現し、万雷の拍手喝采を浴びた。しかし、次の佐藤駿も演技後にポーズを決め、総合点で順位を上回る。どの選手も熱に浮かされるように、最高の演技を見せた。次に登場した三浦佳生も、『進撃の巨人』で会心の演技だった。
「公式練習でも、みんな状態はよかったんで、絶対にいい演技をしてくるとは思っていました」
三浦はそう言って、鬼気迫る演技を見せて首位に躍り出たが......。【高得点ばかりで「すごっ」】
表彰台をめぐる攻防に決着をつけたのは、山本草太(中京大学/23歳)だった。
全日本選手権で3位に入った山本草太
山本はショートプログラム(SP)、ノーミスで94.58点と2位で発進している。4回転トーループ+3回転トーループ、4回転サルコウ、トリプルアクセルを完璧に降りた。鍵山の出遅れはあったにせよ、大会を盛り上げる伏兵になった。
しかし、ハイライトはフリーにあったと言える。
「(最終グループの)6分間練習が終わって、他の選手のことは気にせず、自分の演技に集中しようとは思っていたんですが......」
山本は出番直前の心境を明かしている。ミスが許されず、相当なプレッシャーだったはずだ。
「ゆまち(鍵山)の演技が終わって、電光掲示板にみんなの点数が出ているのを見て、高得点ばかりで、『すごっ』て。これは、得点や結果は気にせず、自分がやるべきこと集中し、練習してきたことをやろうと、本番直前にあらためて思えました。おかげで(悪い)緊張感につながらず、いいマインドで臨むことができたと思います」
フリーは『エクソジェネシス交響曲第3番』でピアノの音を丁寧に拾いながら、静かに立ち上る情感を全身で現した。冒頭に4回転サルコウを決めると、ゾーンに入った。
「前半がカギになるかな、とは思っていました。こっちに来てから、サルコウがショート、フリーともに不安要素だったんです。でも、6分間練習から調整することができて、サルコウを降りてからは余裕を持って演技ができたかな、と」
山本は言う。プログラム前半の終わり、トリプルアクセル+オイラー+3回転サルコウを成功すると、ガッツポーズも出た。
「前半の4つ目のジャンプが終わって、(ガッツポーズは)うれしい気持ちと鼓舞する気持ちと両方で。まだ前半なのに、これでミスれないぞって自分に言い聞かせながらやっていました(笑)」
2つ目のアクセルも成功させ、再び拳をつくる。ボーカルが曲を盛り上げるのに合わせ、激情を高めた。そして最後の3回転ルッツを降りると、3度目のガッツポーズ。演技後、たかぶった双眸(そうぼう)は潤んでいた。
「目がしょぼしょぼしたのか、感動して出たのかわからないですけど、涙は出ていましたね(笑)。調子は山あり谷ありで、苦しい日々のほうが多かったんですけど、この全日本まで頑張ってよかったなって」
全日本は10度目の出場になるが、次世代を担う存在と期待されながら、5位が最高だった。この日、過去の自分を超えた。
「毎年、全日本では悔しい思いをしてきました」
山本は過去の無念さをなでるように言った。
「今シーズンも悔しい思いは多く、(グランプリシリーズ)中国杯もそうで、"悔しいポイント"が全日本までたまってきて、吹っ切れた諦めにも近い日々で。練習でやるべきことをやっても調子が上がらない、というのが続いて。それでも投げ出さず、その日やれることを続けた結果が、10回目の全日本で報われたんだと思います」
今回、全日本では予想を上回る化学反応が起こった。それぞれの必死な演技が、お互いを高めた。
「まだまだ成長している段階」
そう語る山本は、全日本の気運を味方に目標のひとつをやり遂げ、先を見据えていた。
「表彰台を目標に掲げてきましたけど、ここがゴールではありません。まだまだこれから。4回転の種類を増やし、表現も(高めていけるように)。みんなと一緒に試合や練習をやることで僕も成長できますし、(もっと)遠くまでいけるように頑張っていけたらと思います」
山本は、2024年1月30日開幕の四大陸選手権出場選手に選出されている。