日本シリーズ第7戦は、阪神がオリックスを7対1で下し、対戦成績を4勝3敗とし、1985年以来38年ぶりとなる日本一に輝いた。

 阪神は4回表にシェルドン・ノイジーの3ランで先制すると、5回表にも森下翔太、大山悠輔、ノイジーの3連続タイムリーで3点を追加。投げては、日本シリーズ初登板となった先発の青柳晃洋が5回途中を無失点に抑える好投を見せ、中盤以降も継投で逃げきった。

 戦前の予想どおり実力伯仲の戦いとなったが、勝負の分かれ目となったのはどこだったのか。阪神、オリックスでプレー経験のある解説者の野田浩司氏に聞いた。


日本シリーズMVPに輝いた阪神・近本光司 photo by Kyodo News

【逆に曲がってしまったノイジーへの1球】

 僅差のゲームになると予想していたので、意外な結果になりました。第7戦に関しては、阪神の4回の攻撃がすべてでした。

 一死から森下翔太選手が安打で出塁し、つづく4番・大山悠輔選手に対してオリックスバッテリーは2球で追い込みますが、3球目が死球になってしまいました。

 おそらくインコースを見せておいて、最後は外にチェンジアップかフォークで打ちとる算段だったと思います。それが死球となったことで、宮城大弥投手に動揺というか、「しまった」という気持ちが生まれ、それを引きずったままノイジー選手と対戦してしまったのではないかと。

 ノイジー選手の場面ですが、2球ストレートでストライクをとったあと、3球目はフォークを見送られカウント1−2となります。そして勝負の4球目ですが、宮城投手としては外に落ちるチェンジアップを投げたかったと思うのですが、引っかかって逆方向に曲がってしまった。ただボールとしては悪くなかったですし、打ったノイジー選手を褒めるしかありません。

 5回も二死一、三塁とピンチを背負い、ここで宮城投手に代わって比嘉幹貴投手がマウンドに上がりますが、阪神打線の勢いを止められず3連打で3点を奪われ、試合が決まりました。

 宮城投手、比嘉投手とも普段は緩急を使った投球が持ち味の投手ですが、この試合は得意のスローカーブの割合が少なかったように思います。とくに宮城投手は第2戦に先発して、緩急を使ったピッチングで阪神打線を6回無得点に抑えていました。それだけにもう少し緩い球を投げてもよかったのかなと。

 ピッチャーとして、点をとられたくない場面で緩い球を投げるのは勇気がいります。その心理はわかりますが、宮城投手は緩急の使い方が天才的で球界でもトップクラスです。先にオリックスが得点していれば、もっと大胆な投球ができたのかもしれないですが、1点をとられたくないという意識が強くあったのかもしれないですね。

 一方の阪神先発の青柳晃洋選手は日本シリーズ初登板で、今シーズンは二軍落ちも経験するなど苦しみました。その青柳投手がどんなピッチングをするのか注目していたのですが、オリックス打線はタイミングを合わせるのに苦労していた印象があります。

 青柳投手のような変則的なサイドスローの投手は、初見で対応するのは簡単ではありません。しかもしっかり両サイドに投げ分けていましたし、適度に荒れていた。オリックスの左打者はなんとか対応できていたと思いますが、右打者は苦労していましたね。結果的に、青柳投手の先発は見事にハマりました。

【隙のない阪神の野球】

 今回の関西ダービーは戦前の予想どおり、僅差の勝負になりました。実力は拮抗していましたし、オリックスが日本一になってもまったく不思議ではなかった。そんななか勝負の分かれ目となったのは、甲子園での第5戦でした。

 オリックスは先発の田嶋大樹投手が7回まで無失点の好投を見せ、2対0とリードのまま8回から継投に入りました。これがオリックスの戦い方ですし、シーズン中はこのような展開で逆転されることがまずありませんでした。それだけに自信を持って山粼颯一郎投手、宇田川優希投手を送り出したと思うのですが、逆転を許してしまった。

 この試合を見て、阪神の強さを感じました。勝負どころでの集中力はさすがですし、チームとして隙がない。とくに近本光司選手、中野拓夢選手、木浪聖也選手、糸原健斗選手の4人は、一発の怖さはないですが、どこに投げてもミートしてくるし、粘り強い。彼らとの対決がボディブローのように効き、心身とも疲弊した状態でクリーンアップを迎えなければならなかった。言い換えれば、自分たちの攻撃パターンをしっかり確立している。それが阪神の強さだと思います。

 敗れたオリックスですが、山本由伸投手のメジャー移籍が確実視され、山粼福也投手もFA移籍の可能性があるなど、戦力ダウンは必至です。しかし、今年も吉田正尚選手が抜けてどうなるかと思われていましたが、シーズンを圧倒して3連覇を達成しました。誰かが抜けても、新しい戦力が出てくるのがオリックスです。

 今年も山下舜平大投手、東晃平投手が台頭し、シーズン終盤にはルーキーの曽谷龍平投手がプロ初勝利を挙げ、同じくルーキーの齋藤響介投手も一軍登板を果たしました。まだまだ楽しみな選手がいますので、4連覇に向けて新たなスタートを切ってほしいと思います。