山本由伸は「公称178cm」の身長でもメジャーで活躍できるのか サイ・ヤング賞を受賞した小柄投手は84人中8名
日本シリーズ第6戦でも好投し、3年連続沢村賞を受賞、今オフにポスティングシステムでのメジャー挑戦が球団から容認された山本由伸(オリックス・バファローズ)は、長身の投手ではない。公称の身長は「178cm」だ。
今シーズン、規定投球回以上を投げたパ・リーグの9人とセ・リーグの12人、計21人のうち、山本の身長は高いほうから数えて11番目に位置する。ちなみにこのなかでは、190cmの郄橋光成(埼玉西武ライオンズ)が最も高く、170cmの東克樹(横浜DeNAベイスターズ)が最も低い。
21人の平均身長は179.3cmだ。身長178cmの投手は山本のほかにも3人いて、ほかのどの身長よりも多い。山本の身長は、日本では高くはないものの、そう低くもない、といったところだ。
山本由伸がメジャーのマウンドに立つ姿も見てみたい photo by Jiji Photo
一方、日米のメディアが報じているように、山本がポスティングシステムを利用してオリックスから移籍すると、メジャーリーグではかなり身長の低い投手となる。
センチではなく、アメリカでは一般的なフィートとインチで記すと、山本の身長は「5フィート10インチ(約177.8cm)」が最も近い。その前後の身長、5フィート9インチは約175.3cm、5フィート11インチは約180.3cmだ。
今シーズン、メジャーリーグで162.0イニング以上を投げた44人のなかに、身長6フィート(約182.9cm)未満は3人しかいなかった。フランバー・バルデス(ヒューストン・アストロズ)とJP・シアーズ(オークランド・アスレチックス)が5フィート11インチ、ソニー・グレイ(ミネソタ・ツインズ)は5フィート10インチ。山本より身長の低い投手は皆無だった、ということだ。
ちなみに、千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)は6フィート1インチ(約185.4cm)、菊池雄星(トロント・ブルージェイズ)は6フィート(約182.9cm)。今シーズンは規定投球回に届かなかったが、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)は6フィート4インチ(約193.0cm)、ダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)は6フィート5インチ(約195.6cm)だ。
【サイ・ヤング賞に3度も輝いた小柄な投手】ただ、山本と身長があまり変わらない6フィート未満の3人のうち、グレイはア・リーグ2位の防御率2.79を記録した。これまでの実績もあり、規定投球回以上で防御率3.10未満は今シーズンが4度目だ。
また、シアーズは防御率4.54ながら、バルデスの防御率3.45はア・リーグ7位に位置した。昨シーズンも、バルデスはア・リーグ6位の防御率2.82を記録している。
過去にも、小柄な好投手はいた。その代表は、ペドロ・マルティネスだ。公称の身長は5フィート11インチだが、あるいはもっと低かったかもしれない。
けれども全盛期のペドロは、打者を手玉に取った。躍動感のあるフォームから放たれるボールはどの球種も生気に満ちあふれ、それでいながら乱れることがなかった。
1997年から2003年までの7シーズン中、奪三振率9.90未満、与四球率2.50以上、防御率2.40以上は、いずれも1998年の1シーズンだけ。それも、奪三振率9.67と与四球率2.58、防御率2.89だ。このスパンのトータル防御率2.20は、500イニング以上投げた185人のなかで最も低いだけでなく、群を抜いていた。ほかの184人は防御率2.70以上だった。
1997年(モントリオール・エクスポズ)と1999年〜2000年(ボストン・レッドソックス)は、サイ・ヤング賞に選ばれている。1度目はほかの投手に大差をつけ、2度目と3度目は満票で受賞した。2009年を最後に引退後は、有資格最初の記者投票で殿堂に迎えられている。この時、ペドロとともに殿堂入りした選手のなかには、身長6フィート10インチ(約208.3cm)の投手、ランディ・ジョンソンもいた。
野球統計サイト『ベースボール・リファレンス』のデータによると、身長6フィート未満のサイ・ヤング賞投手は、ペドロを含めて8人いる。あとの7人は、ホワイティ・フォード(1961年受賞、以下同/ニューヨーク・ヤンキース)、マイク・マーシャル(1974年/ロサンゼルス・ドジャース)、ロン・ギドリー(1978年/ヤンキース)、スティーブ・ストーン(1980年/ボルチモア・オリオールズ)、フェルナンド・バレンズエラ(1981年/ドジャース)、バートロ・コローン(2005年/エンゼルス)、ティム・リンスカム(2008年〜2009年/サンフランシスコ・ジャイアンツ)だ。
【サイ・ヤング賞に身長6フィート未満が少ない理由】8人それぞれの身長は、5フィート10インチが3人と、5フィート11インチが5人。リリーフ投手として活躍したマーシャルは、記者・作家のノーマン・マハトに「実際の身長は5フィート10インチではなく5フィート8.5インチ(約174.0cm)だ」と語ったという。
ヤンキースのエースだったフォードとギドリーのうち、フォードは殿堂入りしている。スクリューボールを決め球としたバレンズエラは、サイ・ヤング賞と新人王を同年に受賞した史上唯一の投手だ。当時の快投に惚れた熱狂的なファンは「フェルナンド・マニア」と呼ばれた。
コローンは45歳までメジャーリーグで投げた。メジャーデビューした当時は体重も多くはなかった。リンスカムはステップの広いダイナミックなフォームから連続サイ・ヤング賞の翌年も含め、3シーズン続けてリーグトップの奪三振率を記録した。
84人のサイ・ヤング賞投手中、身長6フィート未満は8人なので、多いとは言えない。彼らと比べると6インチ(約15.2cm)以上高い、身長6フィート5インチ(約195.6cm)以上の受賞者は、ランディを筆頭に13人を数える。
もっとも、現在の先発投手やこれまでのサイ・ヤング賞投手に身長6フィート未満が数えるほどしかいないのには、こんな理由もあると思われる。スカウトや球団関係者に身長の低さを懸念され、プロ入りする機会を得られなかった投手も多いのではないだろうか。
ペドロの場合も、兄のラモン・マルティネスがいなければ、そうなっていたかもしれない。
ラモンは1984年のロサンゼルス・オリンピックにドミニカ共和国の投手として出場し、その年の9月にロサンゼルス・ドジャースと契約を交わした。ラモンの身長は6フィート4インチだ。
ドジャースが当時17歳のラモンをドミニカ共和国のアカデミーに送り込んだ時、13歳のペドロも一緒についてきた。ラモンとキャッチボールをしていたペドロは、その投球がスカウトの目に留まり、16歳になった時、ドジャースに入団した。
もっとも、プロ入り前ならいざ知らず、現在の山本には、無関係の話だ。日本プロ野球ですばらしい実績を残し、すでにメジャーリーグ各球団の関係者から熱い視線を注がれている。
小柄なことから、スタミナに不安を感じるかもしれないが、山本はここ3年のレギュラーシーズンに計550.2イニングを投げている。山本に次ぐのは、郄橋光成の504.1イニングだ。メジャーリーグでも、2021年〜2023年に550イニング以上の投手は、8人しかいない。