レジェンドが語る久保建英(3)

 サンセバスチャンで、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の伝説的選手たちとのインタビューに成功した。いずれも下部組織で育ち、主力として時代を担った人物ばかり。ラ・レアルの魂を持つ者たちだ。

 そんな彼らに現在のエース、久保建英について語ってもらった。題して「レジェンドが語る久保建英」。レジェンドの視点で、久保という人物、プレーを掘り下げていく。

 11月4日、久保は幼少期を過ごしたバルセロナと戦う。思い入れがないはずはない。彼の骨格を作ったチームを相手にどう戦うのか。レジェンドはこうしたビッグマッチで何よりゴールを求め、その数字に価値を与える。

 第1回シャビ・プリエト、第2回ロペス・レカルテに続く第3回は、スビエタ出身で過去20年の最高のストライカーであるイマノル・アギレチェだ。


今節はバルセロナとの一戦に臨む久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

「幸せな顔をしているかどうか。それが選手として一番大事なことだよ。今のタケはとても明るくてハッピーに映るね」

 ラ・レアルで愛されたストライカー、イマノル・アギレチェはそう言って、久保建英の"現在"を語っている。

 アギレチェはラ・レアルの下部組織スビエタで育ち、2005年にトップデビューを飾っている。身長187センチという大きな体躯を生かし、クロスを合わせるうまさ、強さが特徴で、典型的なバスク人ストライカーだった。ラ・レアルでは20代までで70得点以上を記録。2012−13シーズンにはキャリアハイの14得点をあげ、チャンピオンズリーグ(CL)出場に大きく貢献した。

 しかし2018年、31歳の時に、度重なるケガで惜しまれつつ引退を決意している。期限付き移籍で1シーズンはカステジョンで過ごしているが、ラ・レアルひと筋を通したレジェンドのストライカーだ。

「アノエタ(現在のレアレ・アレーナの通称)でゴールするのは最高の喜びだったよ。自分の"家"だと思っていたしね。タケも今は、きっとその気分を存分に味わっているんじゃないかな?」

 アギレチェは、ストライカーの視点で久保について語った。

【「タケはひらめきの選手」】

「タケをひと言で称するなら、『Versatil(汎用性が高い、ポリバレント)』だろうね。とにかく、なんでもできる選手だ。

 まず、テクニックのレベルが非常に高い。俊敏性もあって、稲妻を連想させる。ドリブルでのリズムチェンジが人並み外れているから、相手を置き去りにできる。堅い守りも崩せるのさ。

 そしてディシプリンもあるね。小柄だが、フィジカルの強さを90分間のなかでずっと出せる。相手ディフェンダーへのプレスを高い強度でリピートした後、攻撃の精度が落ちないのは、本当に驚きに値するよ。

 どんなFWとコンビが合うか? うーん、お世辞ではなく、誰とでも組めると思うよ。もちろん、相性の度合いはあるだろうけどね。

 もし自分がタケとプレーすることがあったら、タケは連携する能力が人一倍高いから、なるべく近い距離を取ろうとするだろうね。たとえば必ず壁パスは意識する。自分がスペースを作って、そこを使わせるようにしたり、その逆もある。それに、タケはサイドにいるとしても心強いよ。たとえどんなにマークされても、しっかり準備していれば、『ラストパスやクロスが入ってくる』と信じられる。その信頼をチームメイトに与えられているのは大きい」

 2013−14シーズン、アギレチェはラ・レアルのストライカーとしてCLを戦っている。この時はグループリーグ敗退に終わったが、フランス代表アントワーヌ・グリーズマン、メキシコ代表カルロス・ベラという天才レフティを擁した攻撃は破壊力があった。

「タケは同じ左利きアタッカーでも、たとえばグリーズマンとはあまり似ていないね。グリーズマンは強度が高い選手で、アップダウンをしながらハードなプレーで、ゴールに向かうアタッカーだった。一方で、タケは『chispa(火花、ひらめき)』の選手だよね。一瞬が勝負、アクセルとブレーキのところで上回り、相手を翻弄できる。ドリブルに入ると、手がつけられない。

 その点でタケはベラとは少し似ているかもしれないね。ベラはとにかくドリブルが好きで、相手のファウルを誘ってイエローを出させたりしたし、FKを蹴ることもできた。閃光を放つというか、選手としてのクイックネスのところは共通しているね」

【偉大な選手になるには?】

「ただ、タケはタケのプレーを見せるべきだろう。彼はラ・レアルという最高の場所を見つけた。あとは自信を持ってやり続けるだけだよ。長く高水準のプレーを続けるのは、いろいろな要素があって簡単ではないはずだけど......。

 タケにとって、CLはきっと大きなステップになるよ。決勝トーナメント進出が目標だろうけど、十分に戦えると思う。もちろん、出場するチームはどこも強いけど、怯むべきじゃない。だって、昨シーズンはヨーロッパリーグでマンチェスター・ユナイテッドを堂々と破っているわけだし、いい戦いになることを信じているよ」

 アギレチェはケガさえなかったら、ラ・レアル史上最多得点を記録していてもおかしくなった。最後は契約が残っていたにもかかわらず、自ら引き際を決めた。それは、清廉なるラ・レアルの選手としての自負だろう。

 そこで、最後に訊ねてみた。

――ラ・レアルで才能を開花させた久保が、偉大な選手にたどり着くには何が必要か?

 山男を思わせる風体のアギレチェは、鷹揚な笑みを洩らしながら答えている。

「自分が彼にアドバイスできることなんてないよ(笑)。タケはすでにサンセバスチャンという町にも、ラ・レアルというクラブにも適応している。家族がいて、彼の弟もユースでプレーしているのもアドバンテージかもしれないね。

 タケはすでに大きなクラブで活躍をしているし、CLの出場権だって勝ち取った。それは簡単なことではない。彼自身、ラ・レアルでのプレーを楽しんでいるようだし、それこそが、さらに成長、活躍するためのカギになるんじゃないかな? 彼が幸せに見えるかどうか。繰り返すけど、それが選手にとっては一番大事なんだ」

Profile
イマノル・アギレチェ
1987年、ウスルビル(バスク)生まれのFW。レアル・ソシエダの下部組織出身で、2005年、トップチームデビュー。レンタルで2006−07シーズンをカステジョンで過ごしたのを除き、現役を引退する2018年までレアル・ソシエダひと筋でプレーした。