遠藤航の隣でやたらと目立つソボスライ 一気に化ける可能性のMFを風間八宏が解説
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回は遠藤航の加入で注目のリバプールで、開幕から大活躍のMFドミニク・ソボスライ。「一気に化ける可能性は高い」というその能力とは?
◆ ◆ ◆
【ものすごく動ける選手】今シーズンから日本代表の遠藤航がプレーするリバプールで、現在目を見張る成長を披露しているのが、ハンガリー代表の至宝と評されるソボスライ・ドミニクだ。
風間八宏がリバプールのソボスライに注目 photo by Getty Images
今夏、ソボスライがライプツィヒ(ドイツ)から加入した際、リバプールが支払った移籍金は推定7000万ユーロ(約110億円)。この金額だけを見ても、ユルゲン・クロップ監督がいかにソボスライに大きな期待を寄せているのかがよくわかる。
「彼はライプツィヒでプレーしていた当時から驚くようなプレーを見せていましたし、違いを生み出せる選手でした。ほとんどのチャンスに絡んでいて、まだ若いのに、すでにチームの攻撃の中心になっていました」
そう語るのは、長くブンデスリーガを見てきた風間八宏氏だ。
2000年10月25日生まれのソボスライは、23歳になったばかり。かつては日本代表の南野拓実とともにオーストリアのザルツブルクでプレーし、10代の頃から将来有望な逸材として注目されていた。
その後、2020年冬に同じレッドブル系のライプツィヒにステップアップ移籍。そのシーズンは体調不良もあって戦列を離れたが、2021−22シーズンに本格デビューを果たすと、風間氏が言うように、あっという間にチームの主軸となった。
もちろん、現在もまだ世界的に名の知れたワールドクラスというわけではないが、近い将来、世界中のサッカーファンの誰もが知るレベルの選手になる可能性は極めて高い。とりわけリバプール加入後のパフォーマンスは、その布石とも言える。
では、久しぶりに古豪ハンガリーから誕生した逸材は何が優れているのか。その特徴について、風間氏が解説する。
「まず、彼はライプツィヒで中心になっていただけあって、ものすごく動ける。運動量、スタミナがあります。かといって、ただ動き回るだけではなく、試合中によくボールを受けることができる。これは動きの質が高いからで、だからこそライプツィヒのような速いサッカーをするチームにもすぐにフィットできたのだと思います。
もちろんリバプールに加入した当初は、ポジションや求められる役割も異なるため、ライプツィヒ時代ほど自分の良さを発揮できていない印象もありますが、それでも試合に出場し続けていることで、彼が持つ武器もかなり発揮されるようになってきました。
このままいけば、リバプールのなかでも特別な選手になるかもしれません」
【武器は正確なキック】確かにライプツィヒ時代のソボスライは、チームが採用するフォーメーションの関係もあって、サイドエリアが主戦場だった。4−2−3−1のウイング、4−4−2のサイドハーフ、あるいは3−4−2−1ではシャドーでもプレーし、右利きではあるが、左右両サイドでプレーした。
守備でもハードワークできるマルチロールタイプなだけに、主に4−3−3を採用するリバプールで任されているインサイドハーフのポジションでも、違和感なくプレーできるはずだ。
「彼のいちばんの武器は、キックです。そのなかでもボールを真っ直ぐに飛ばすキックを得意としていて、その質が高い。どちらかと言えば、足を横振りするキックをする選手が多いなか、ストレート系のキックでこれだけ正確に蹴れる選手は多くはいません。
そのキック技術があるので、当然ですがパスの質も高くシュートもうまい。パスの際のキックとシュートは別物ですが、彼のシュートはキックの延長線上にある。そのうえで相手のペナルティーエリアに近づいたところでパスとシュートをうまく使い分けるので、相手ディフェンダーの対応は難しくなります」
ライプツィヒでプレーしていた昨シーズン、ソボスライはブンデスリーガで6ゴール8アシストをマーク。アシストが多かったのも、ソボスライが強烈なミドルシュートという武器を持っていることと無関係ではないだろう。
彼はボールを運ぶ技術も優れています。しかも、速く正確にボールを運ぶだけでなく、ひとりで相手を抜き去ることができるドリブルもある。
確かに特別な技術を持っているというわけではありませんが、質の高いパス、ドリブル、シュートのほかに、身体も強くスタミナもあるので、すべてを持っている選手と言っていいでしょう。
これまでクロップ監督はリバプールに合った選手を何人も獲得してきましたが、そういう意味では、ソボスライという選手はリバプールにマッチしていると思います」
【一気に化ける可能性は高い】2020年1月にザルツブルクからリバプールに移籍した南野は、そのシーズンのチャンピオンズリーグでリバプールと対戦した時の活躍が名門入りのきっかけとなったと言われている。そして、ソボスライもまた、同じ試合でザルツブルクの選手としてリバプールと戦っている。
ソボスライを獲得したクロップ監督も、「あの2試合を見た人は当時から彼(ソボスライ)が興味深い若手選手だったことに気づいたはずだ。まだ10代だったが、あれから大きく成長した」と、その時の記憶を語っている。そういう意味で、彼がリバプールでプレーすることは必然だったとも言える。
「先ほども言ったように、リバプールでのソボスライのプレーには、ライプツィヒ時代と比べると、個人的にはまだ物足りなさを感じています。ただ、これだけの能力を持っている選手なので、実力を発揮するまでにそれほど時間はかからないでしょうし、一気に化ける可能性は高いと思います。
年が明けた頃には、もっと違う選手になっているかもしれません。その時にもう一度詳しく解説してみたい選手ですね」
遠藤が加入したことで、俄然日本国内での注目が集まるリバプール。そのなかでソボスライがどのような進化を遂げていくのか、要注目だ。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。