「終わらないアップデート」「止まらない仕事のラリー」「あいまいな指示と手戻り作業」……今日からできるムダ作業の無くし方を紹介します(写真:ふじよ/PIXTA)

労働者人口の減少やコロナ禍に伴い、働き方に対する改革のニーズは高まり続けている昨今。業務改善、DX、AI活用など数々の手法・ツールが出てきていますが、今だに多くの企業・組織・自治体にはムダな仕事が蔓延っています。

「保存は紙の原本で」「上司と部下の印鑑リレー」……。こんなムダ業務にあなたとあなたの会社は悩まされていませんか?

富士通で業務改善のキャリアをスタートし、現在も数多くの企業への業務改善支援を行う、業務コンサルタント・元山文菜氏の書籍『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』から一部抜粋し、今日からできるムダ作業の無くし方を紹介します。

どれが最新?ファイルやりとり大問題

新しいプロジェクトが始まり、5人のチームが一緒にお客様への提案書を作成する状況。1つの案が作成され「素案作成したので、みなさん追記修正をお願いします」というメールが送られます。

それを受け取ったメンバーAは資料を自分のパソコンにダウンロードし「追加したので確認お願いします」と修正した資料を送信。

同時に、メンバーBも修正を行い、「最新版を添付いたします確認お願いします」と送信します。このようにしてさまざまなバージョンのファイルが生まれ、それぞれがどのような修正を加えたのか大混乱した経験はないでしょうか。

さらに、資料の修正や追加が進み、次第に内容が複雑化すると、「先祖返り」という現象が発生します。

これは、修正がすべて反映された最新のファイルではなく、以前のファイルに修正を加えてしまったり、以前のファイルと最新のファイル間で変更点があるにもかかわらず、その変更が反映されず、新たな最新ファイルが作成されてしまう状況を指します。

その結果、誤ったファイルに基づいて作業を進めて混乱が生じ、最悪の場合、資料を最初から作り直す必要に迫られることもあります。

これらの問題を解決するためには、Webブラウザ上で動作するGoogleやMicrosoftが提供しているクラウドソフトを利用することが有効です。

これらのツールはインターネット上に存在する1つのWordやExcelファイルを、全員で共有して同時に編集をすることが可能なため、ファイルを添付してメールで送るという手間が省けます。どのファイルが最新版であるかや、誰から返信がきていないかなどを気にする必要もなくなるのです。

作成者は「資料を作ったので、必要があれば3日後までに追記修正しておいてください」と連絡し、資料のURLを添付するだけで、各自が自由に、かつリアルタイムでファイルを修正したりコメントを追加することが可能になります。

そして、期限がくれば作業終了とし、それまでに集まった全員の追記・修正を整理して資料が完成させます。

誰がいつどこを修正したのかが履歴として残るため、一目で理解することができます。さらに、万が一の間違いがあっても、特定の時期までさかのぼって元に戻すことが可能です。

共同編集で資料作成の新たなスタンダードを体験してみましょう。


(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』より)

仕事のラリーが止まらない

仕事のラリーが多くなってしまう人と、少なくて済む人がいます。あまり意識しないかもしれませんが、ラリーの回数は業務プロセス視点では、注意しなければならない重要なポイントです。

1回のラリーが1分で完了するやり取りだったとしても、仕事には「付帯作業」というものがかかります。付帯作業の元々の意味は、その作業や出来事に伴い発生する別の作業なのですが、オフィスワークをする私たちにとっての付帯作業とは新たな思考発生を意味します。

たった1分の仕事でもそれがいくつも発生すると、そのたびに私たちは細かな仕事と仕事の合間をいったりきたりと、思考をスイッチングさせる付帯作業の時間を発生させているのです。これが積み重なっていくと脳はどんどん疲弊していきます。

そのうえ、仕事のラリーは相手の時間までも奪う行為です。だからこそ「仕事のラリー」好きな人がいるチームやプロジェクトは、よくわからないけれどなぜか疲弊していきます。物事が全然進まないのにつねに忙しく何かに追われている感覚に陥って1日が終わっていくのです。

そこで、私たちはつねにラリーを減らす工夫を考える必要があります。

たとえば、ミーティング依頼のやり取りをする場合だと、

ラリーが多くなる問いかけ
 →会議のお時間いただけないでしょうか?
ラリーを減らせる問いかけ
 →会議のお時間いただけないでしょうか? 今週であれば13日(水)13:00から14:00が空いております。難しい場合にはおっしゃってください。

1つのメールに次の行動につながる情報を書くと、そのあとのラリーが少なく済みます。

ほかにもメールで質問をしているのに、その返信にわざわざ電話がかかってきてしまったり、細かな質問が何度もくる。聞きたかった回答とはまったく違う回答が返ってきてしまい、ムダなやり取りが続いてしまう。そこで、相手とのコミュニケーションがオープンクエスチョンになっていないかを意識してください。

オープンクエスチョンとは、相手が自由に回答できる質問のことです。一般的には、回答が決まっていない問題や、広く意見を聞きたい場合に使用されます。

たとえば「チームが今後やるべきことは何ですか?」や「あなたの考えを教えてもらえますか?」などがオープンクエスチョンです。

相手が自由に回答を選択することができるため、考えをより深く掘り下げることができます。一方、誤解を避けて適切なアクションを迅速に取るべきコミュニケーションには不向きです。

いざというときのクローズクエスチョン

オープンクエスチョンの逆がクローズドクエスチョンです。クローズドクエスチョンとは、限られた範囲の中から回答を選択する質問です。相手によって回答が異なったり、意図した質問と違う回答がきたりすることが避けられます。相手も限られた質問の中から回答を選択できるので返事に悩むことがなくなります。

普段の仕事を進める際にはクローズドクエスチョンが基本としていきましょう。


(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』より)

「今日中に」と仕事を任せたのに終業時間になっても提出がない。

「どうなった?」と連絡をすると「今日中と言われたので今から残業します!」と返事がきて大慌てに。結局自分で作業するなら、最初から自分でやっておけば良かった……。

上司から「なるはやで、いい感じに」の依頼。自分なりに「なるはやで、いい感じ」を提出するも「遅い、これじゃない」と不満を言われてしまう。何度も何度も相手の正解を探して資料のやりとりを繰り返す羽目に。

依頼した・された仕事の成果が期待に合わずに、何度も何度もやり直しをするケースは今日もあちこちの職場で起こっています。

あいまい言葉と手戻り作業の落とし穴

この「作業の手戻り」が多くなればなるほど、依頼した側は「なんで、こんな簡単なこともできないんだ」とイライラし、依頼された側は「何が正解かわからない。提出するのがどんどん億劫になってくる」と気持ちのスレ違いが生まれます。


そしていつの間にか両者の間に溝が生まれ、大きなストレスに。

コンピューターサイエンスで、GIGO(Garbage In, Garbage Out)という言葉が使われますが、これは「ゴミを入れればゴミが出てくる」という意味です。意図のない情報(データ)をもとに無理やり成果物を作ってもゴミのような成果しか出せないのです。

そこで、まずはじめにやることは仕事の骨組みを作ることです。仕事の依頼を明確にし、具体的な手順を決めることが大切なのです。

ここではIPO(Input-Process-Output)のフレームワークが役立ちます。「どのような成果 (アウトプット)を出すのか。そのために、何を入力(インプット)して、それをどのように処理(プロセス)するのか」。闇雲にスタートダッシュせずにまずはここを考えることを意識しましょう。


(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』より)

(元山 文菜 : リビカル代表取締役 業務コンサルタント)