長い夜が明けて着陸機と探査車は応答せず インド月探査「チャンドラヤーン3号」続報

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インド宇宙研究機関(ISRO)は現地時間9月22日、月探査ミッション「チャンドラヤーン3号(Chandrayaan-3)」のランダー(着陸機)とローバー(探査車)について、着陸地点の夜が明けた後に通信が確立できていないことを明らかにしました。【2023年9月27日11時】


【▲ チャンドラヤーン3号のローバー「Pragyan」に搭載されているカメラで2023年8月30日に撮影されたランダー「Vikram」(Credit: ISRO)】


チャンドラヤーン3号はISROによる3回目の月探査ミッションです。探査機は月面に着陸するランダー「Vikram(ビクラム、ヴィクラム)」、ランダーに搭載されているローバー(探査車)「Pragyan(プラギャン)」、着陸前までの飛行を担う推進モジュールで構成されていて、ランダーには3基、ローバーには2基の観測装置が搭載されています。


【特集】インドの月探査ミッション「チャンドラヤーン3号」


2023年7月14日に打ち上げられたチャンドラヤーン3号は2023年8月5日に月周回軌道へ到達し、ランダーは日本時間2023年8月23日21時32分に月の南極点から約600km離れた地点(南緯約69度・東経約32度付近)へ着陸することに成功しました。インドとしては初めて、世界でも4か国目の月面着陸成功で、月の南極付近への着陸は世界初です。


【▲ チャンドラヤーン3号のランダー(着陸機)とローバー(探査車)(Credit: ISRO)】


着陸から間もなくしてランダーからローバーが降ろされ、月面での探査活動が始まりました。ランダーやローバーに搭載されている観測装置を使って着陸地点の表面下数cmまでの温度や元素組成などが調べられた他に、将来のサンプルリターンや有人ミッションを見越して、ランダーを数十cmだけ再上昇させる“ホップ実験(hop experiment)”も実施されています。


https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/08/Chandrayaan3-rover-ramped-down-from-lander-and-move-ISRO.mp4

【▲ チャンドラヤーン3号のランダーに搭載されていたローバーがランプ(傾斜路)を下りて月面を走行し始めた様子(Credit: ISRO)】


太陽電池から電力を得るチャンドラヤーン3号の月面でのミッション期間は、月での半日に相当する14日間です。ミッションを完了したランダーとローバーは、2023年9月4日までにランダーの受信機をオンにしたままでスリープモードに入りました。ISROによると、ランダーとローバーは着陸地点が夜明けを迎える2023年9月22日頃に目覚める可能性が期待されていましたが、その日を迎えても信号を受信することはできず、通信を再確立するための努力が続けられるということです。


【▲ チャンドラヤーン3号のローバー(探査車)に搭載されているカメラで2023年8月27日に撮影された月面。ローバーが付けた轍(わだち)が写っている(Credit: ISRO)】


月の表面温度は昼間は約110℃まで上がりますが、夜間は約マイナス170℃まで下がります。現地メディアのニューデリー・テレビジョン(NDTV)によると、当初から14日間のみ活動する予定だったチャンドラヤーン3号のランダーとローバーに搭載されているバッテリーは、こうした極端な低温で動作するようには設計されていませんでした。ISROからは日本時間2023年9月27日午前の時点でもチャンドラヤーン3号に関する新たな情報は発表されておらず、ランダーとローバーは月の長い夜を越えられなかった可能性が考えられます。


なお、月の夜は宇宙飛行士の長期的な滞在が想定される将来の月面基地建設でも課題の一つとなっていて、電力や熱源を確保するためにレゴリス(月の土壌)を蓄熱材として利用するアイディアが提案されている他に、“1日”を通して温度が安定しているとみられる月の縦孔内部に注目した研究成果も発表されています。


関連
・できるだけ現地調達。持続的な有人探査を支えるために月面の「レゴリス」を活用(2019年7月20日)
・摂氏約17度。月の縦孔内部の日陰は比較的快適な温度が保たれている?(2022年7月31日)


 


Source


Image Credit: ISROISRO - Chandrayaan-3ISRO (X, fka Twitter)NDTV - Explained: What Happens If Chandrayaan-3 Rover, Lander Don't Wake Up

文/sorae編集部