「楽しく没頭できる趣味」があることは「健康」にどのくらいつながる?(写真:8x10/PIXTA)

生活習慣病、血管、心臓など内科・循環器系のエキスパートで、「心臓の名医」として知られ、日々多くの患者と接する医学博士の池谷敏郎氏。

テレビ番組『あさイチ』(NHK)、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)やラジオ番組などに多数出演し、楽しくわかりやすい解説が好評を博している。

過去15キロ以上の減量に成功し、その減量メソッドを全公開した15万部のベストセラー『50歳を過ぎても体脂肪率10%の名医が教える 内臓脂肪を落とす最強メソッド』に続き、『60歳を過ぎても血管年齢30歳の名医が教える 「100年心臓」のつくり方』を上梓した。

「人生100年時代」を最期まで満喫できるかどうか健康長寿のカギを握る「『心臓の健康』にいい生活」を、運動、食事、メンタルなど、あらゆる観点から解説し、「100年もつ心臓」をつくるための秘訣を全公開した1冊だ。同書は、発売わずか6日で3刷2万部を突破するなど、大きな話題を呼んでいる。

その池谷氏が、「『没頭できる趣味をもつこと』の健康効果」について解説する。

心身むしばむ「ストレス」上手に付き合う秘訣

私たち現代人は、なにかとストレスの多い生活を送っています。仕事、人間関係、家庭生活、その他、何をするにしてもストレスはつきものです。

ストレスは「動脈硬化」を進行させ、「虚血性心疾患の一因」になると考えられていますが、「心臓の負荷」を増すことから、あらゆる心臓病に悪影響を及ぼし、「心不全のリスク」を高めます


もちろん、心身を病んでしまうようなストレス源は「排除する」「その場から離れる」などの抜本的解決が必要でしょうが、そうでない限りは、「いかにストレスと上手に付き合うか」ということが重要となってきます。

ストレスを受けると一時的に血圧・心拍数は上がりますが、上手に発散することでリセットできます。

ストレスと上手に付き合っていく手立てとして大事なのが趣味です。

趣味に没頭することでリラックスできて、「副交感神経」が優位となります。逆に、趣味がまったくないという人は緊張が続き、「交感神経」が休まりづらいということになります。

今回は、医学的根拠に基づく趣味」と「死亡リスク」の関係、そして趣味を上手に楽しむコツ」を紹介します。

東京医科歯科大学などの調査では、「多趣味の高齢者ほど、死亡リスクが低くなる」という結果が出ています。


趣味の数と死亡リスクとの関係を示したグラフ。趣味が多いほど死亡リスクは低くなることが、グラフから読み取れる(図『「100年心臓」のつくり方』より)

「心臓の健康」のためにも、ぜひ趣味をもちたいものです。そのために私が実践している趣味を楽しむ3つのコツ」は次のとおりです。

趣味のために健康を損なっては本末転倒

趣味を楽しむコツ1】「うまくやろう」とせず「楽しんでやる」

私が趣味で楽しんでいる、休日のゴルフ。

ゴルフを一緒に回る人たちに対して 「いいところを見せよう」「みんなに負けたくない」という気持ちが働くと、緊張したりドキドキしたりして心拍数が上がります

実際、ゴルフ場で心筋梗塞を起こす人は少なくないのです。

私もゴルフで空振りしたり、ゴロを転がしてしまったりして、顔が赤くなるほど恥ずかしい思いをしたこともありますが、「人は自分のことなど見ていない」と思ったら、気がラクになりました。

プロゴルファーの石川遼さんが打っているのならみんな注目するでしょうが、私が打っても誰も見てやしない。ましてやいいショットなんて誰も期待していないわけです。かっこ悪くてもいいのです。

むしろ「空振りとかチョロとか、面白いショットをしてくれたほうが笑えるぞ」ぐらいの気持ちで見ているはずです。

そもそも「ゴルフは何のために始めたのか」を考えてみてください。趣味の一環として、楽しむために始めたことではないでしょうか。

趣味のゴルフで心拍数を上げて「心臓の健康」を損なっては元も子もありません

かっこよくやる必要はまるでないのです。ほかの趣味やスポーツでも同じです。「結果が悪くたって気にせず、楽しむこと」が第一です。

趣味を楽しむコツ2】「誰も自分のことなど見ていない」という客観的視点をもとう

先ほどの「うまくやろうとせず、楽しんでやる」ということに関連して、「世間体」「人目」を気にしないことも大切です。

ストレスは、人目を気にするから生じることが多いもの。「誰も自分のことなど注視していないし、誰も自分に期待していない」と考えればすーっと気持ちがラクになります。

私は、テレビ出演でそのことに気づきました。以前はテレビに出るたびに、あとから「あれを言えばよかった……」「あんなことを言ってしまって失敗だった……」と思い出しては 「交感神経」を緊張させていました。

でも、そのときの話を家族やクリニックのスタッフにしてみても、誰も覚えていないのです。「そんなことを言っていた?」「そうでしたっけ?」みたいな反応です。

覚えていたところで10日です。1年経ったら100%忘れています

仕事も趣味も「人目を気にしない」

そこでわかったのは、話す「内容」よりも、話しているときの「雰囲気」のほうが大事だということ。笑顔でにこやかに話していたとか、真摯に受け答えしていたとか、そちらのほうを、みんな覚えているのです。

そう思ったら緊張が和らいで、落ち着いてコメントができるようになりました。

そうすることで、逆にリラックスしていい話ができるようになった気もしています。これは、仕事に限らず、ほかのことでも同じで、「趣味」を楽しむうえでも大切です。

自分が「好き」で始めた「趣味」なのですから、「人目」を気にせず、思い切り没頭して楽しみましょう

趣味を楽しむコツ3】「夫婦、パートナー同士で共有できる趣味」もおすすめ

私はどちらかというと細かいことを気にしない性格で、日ごろからストレスはあまりたまりません。もちろん多少のストレスはありますが、趣味のテニスやゴルフで発散できています。

一方で、妻は几帳面で完璧主義です。仕事はもちろん、家事や子育ても手抜きをしません。それは尊敬に値することではあるのですが、マジメな分、ストレスはたまりがちです。

そこで「何かストレス解消できるものがあったほうがいいだろう」ということで、ジャズピアノを習いはじめたのです。


趣味をもつことは、ストレス解消につながり、心身の健康にいい影響を及ぼす。夫婦やパートナー同士で趣味を共有するのもおすすめ(イラスト『「100年心臓」のつくり方』より)

彼女はもともとクラシックピアノをやっていたので、「ジャズピアノもすぐ上達するだろう」と、考えていましたが、クラシックとジャズでは同じピアノでも全然違うらしいのです。

完璧主義者の妻はそこでまたストレスがたまってしまい、結局、逆効果に……。

そこで、今度は私がゴルフに誘い込んでみたのです。以前は私が休日にゴルフに行くと「1日つぶして、家のこともしないで……」とブツブツ言われることがあったので、「一緒にやれば、家のことで怒られなくて済むぞ」という計算もありました。

これが功を奏して、妻はすっかりゴルフにハマり、ようやくストレスを発散する趣味をもつことができ、「夫婦で趣味を共有する」 のもいいものだなと感じています。

人生100年時代「趣味」で健康長寿を

私が自分でも実践している 「ストレスを切り抜ける方法」のひとつとして「趣味をもつことの大切さ」についてご紹介しました。

「ちょっと意識を変えるだけ」で、「ストレス・マネジメント」ができ、それによって、血圧・心拍数を抑えて心臓をいたわることができるのです。

このように、「日々の小さな心がけ」が、「心臓の健康」も保ち、健康長寿で「人生100年時代」を楽しむことにつながると私は医師として確信しています。

(池谷 敏郎 : 医学博士/池谷医院院長)