「和牛」「国産牛」、何が違う? 表示ルールはある? 食肉のプロに聞く
スーパーの精肉売り場では、「和牛」「国産牛」と書かれた商品を見掛けることがあります。どちらも国内で飼養された牛肉を指すようですが、どのような違いがあるのでしょうか。「和牛」「国産牛」と表示する際の明確な基準はあるのでしょうか。食肉卸事業などを手掛ける、乙川畜産食品(東京都港区)ネット事業部の乙川幸雄さんに聞きました。
「和牛」は6種類
Q.「和牛」と「国産牛」の違いについて、教えてください。
乙川さん「『和牛』と『国産牛』の違いは以下の通りです。和牛は、6種類の牛が該当します」
■「和牛」
(1)黒毛和種
(2)褐毛和種
(3)無角和種
(4)日本短角種
(5)(1)〜(4)の牛のうち、いずれか2種類を交配させた「交雑種」
(6)(5)の交雑種と(1)〜(4)の牛のいずれかを交配させて生まれた牛
■「国産牛」
国産牛は、基本的に品種を問わず、日本で飼養・加工された牛を指します。理論上は和牛も国産牛ですが、一般的に和牛をあえて国産牛とは表示しません。そのため、国産牛と表示された牛肉は、基本的に和牛以外の肉で、和牛と乳用種を交配させた交雑種の肉や、乳用種を食用に加工した肉が該当します。店によっては、「国産牛交雑種」「ホルスタイン」など、種類を表示している場合もあります。
繁殖と肥育は別々の生産者が行うのが一般的です。繁殖農家は繁殖用の母牛を所有しており、その母牛から生まれた子牛は、生後8〜10カ月で家畜市場に出荷されます。一方、肥育農家は家畜市場で子牛を購入後、20カ月程度肥育してから食肉処理施設に出荷しています。このほか、繁殖と肥育を一貫して行う一貫農家もあります。
Q.なぜ和牛と乳用種を交配させた交雑種を生産するのでしょうか。
乙川さん「コストを抑えつつ、和牛に近い肉質・脂の牛を生み出すことができるからです。一般的に多いのが、和牛の雄と乳用種のホルスタインの雌との交雑種です。ホルスタインは安価で手に入り、病気などに強いため、良質な交雑種の牛の生産をスムーズに進めることができます。
家畜市場では、繁殖農家が出荷した牛は、肥育農家が血統や外見、体重、毛並み、色つやなどを判断して購入します。その後、餌の配合調整や体調を管理して、子牛を育てます。高価な和牛であれば、手間暇かけていかに良い牛を育てるかが肥育農家の手腕によるところとなります。
その餌の配合や管理手法は産地・ブランドによって異なり、それが肉の品質の違いとなっています」
Q.輸入牛とはどのような肉なのでしょうか。海外で生まれた牛を輸入して国内で育てた場合、国産牛として販売してもよいのでしょうか。
乙川さん「輸入牛は、主に海外で飼養・加工された肉を指します。また、国内での飼養期間よりも海外での飼養期間が長い牛の場合、国内で加工されても輸入牛(海外産)となります。
反対に海外で飼養された牛を輸入後、日本で飼養・加工する場合、日本での飼養期間が海外での飼養期間より長い場合に限り、国産牛と表示することができます。また、3カ国以上で飼養された牛の場合、飼養期間が最も長い国が原産国となります。
国内で流通している牛肉の比率は、国産牛(交雑種・乳用種)が59%、和牛が40%、海外産国内飼育(国産牛)が1%です」
Q.「和牛」と「国産牛」を比べた場合、味にどのような違いがあるのでしょうか。最適な調理方法も含めて教えてください。
乙川さん「和牛は脂が甘く、香りが独特なのが特徴です。アミノ酸を多く含む赤身部分の味わいと甘くとろけるような脂のうまみの割合は、赤身の肉の間にある脂肪、いわゆる『サシ』の入り具合によって決まります。
特に比較的価格が高い和牛については、肉本来のうまみをそのまま味わうために、すき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキ、ローストビーフなど、シンプルに調理して食べられることが多く、豚肉や鶏肉に比べると調理方法や料理の数は少ないです。
一方、好みもありますが、和牛に比べて脂のうまみが少ない交雑の国産牛は、中華料理など、さまざまな料理に使われることが多く、こうした点が和牛との大きな違いです」
Q.「和牛」「国産牛」を販売する際、品名の表示に関するルールはあるのでしょうか。
乙川さん「産地が日本であれば『国産』、海外であれば国名を表示することが義務付けられています。
一方、都道府県名を記載すれば、『国産』と表示する必要はありません。和牛の場合、都道府県名や産地のほか、『神戸牛』『松阪牛』といったブランド名を表示することで付加価値が生まれるため、そのような表示をしているケースが多いのです。
一方、和牛でない国産牛についても、都道府県名が表示されていることがありますが、メリットがないと判断された場合、表示しないと思われます。また、スライス肉などは、複数の産地の牛が混ぜて使われていることも考えられるため、国産牛と表示されているケースが多く見受けられます」