東京・米軍横田基地の様子(写真:共同通信)

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私たちの生命活動に欠かせない水。東京の一部地域で、水が汚染され、健康被害が出ている恐れもあることが発覚。その背景には、米軍に弱腰な政府の姿があったーー。

「今回の血液検査で、多摩地域全域の住民の体内が、発がん性のある“有機フッ素化合物(以下、PFAS)”に汚染されている可能性が高いことがわかりました」

そう懸念を示すのは、「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」の代表、根木山幸夫さん。PFASはフライパンのコーティングや防水加工された製品などに使用されている化学物質で、長期間摂取すると発がん性があるといわれる。PFASは約4700種もあり、代表的なものに“PFOS”や“PFOA”などがある。

じつは全国の地下水や河川、さらに一部地域の水道水がPFASに汚染されている。今年2月、本誌は環境省などの調査結果を基に、PFASが国の暫定基準値(PFOAとPFOSの合計が50ng/L)を超えて検出された全国の河川や地下水のリストを報じた。その数は114カ所にも及んだ。

「地図の“極めて高い”などに住む多摩地域の住民は、東京都が2004年に調査を始めて2019年以降に取水を停止するまで、少なくとも15年、国の暫定基準を超えるPFASに汚染された水道水を摂取していた可能性があります。その影響を調べるために血液検査を行いました」(根木山さん)

■沖縄の基地周辺でも汚染が問題に……

じつはPFASは、基地や空港などで使用される泡消火剤にも含まれており、かねてから米軍基地の多い沖縄での汚染が問題になっていた。東京の多摩地域にも在日米軍横田基地(東京都福生市)があり関連が疑われている。

5月1日に発表された多摩地域住民の血液検査の中間報告(表参照)では、特に横田基地の南東にある国分寺市や立川市などで血中PFASが高い傾向があった。多摩地域16市町のうち、もっとも住民の血中PFASの平均値が高かったのは国分寺市で、環境省が2021年度に国内3地点で実施した平均値より約5倍高かった。

東京都が調査した地下水のPFAS濃度でも、横田基地から南東の自治体にかけて汚染濃度が高いという結果が出ている。

「横田基地の地下水は、およそ北側から南東へ向かって流れています。つまり、横田基地内の土壌汚染が地下水に流れ出ていると推測されます」(根木山さん)

さらに東京新聞の取材では、横田基地東側の立川市にある“横田基地モニタリング井戸”で、私有地のため非公開だった井戸のPFASの値が、都内で最高値となる1340ng/Lと、基準値の約27倍に上っていることも判明した。こうした事実を受け、多摩地域の住民の血液検査を分析している京都大学(環境衛生学)の原田浩二准教授も、「横田基地が主要な汚染源であることは疑いようがない」と断じている。

PFAS汚染が深刻な沖縄で調査を行う環境NGOインフォームド・パブリックプロジェクト代表の河村雅美さん(琉球大学非常勤講師)もこう指摘する。

「基地や飛行場では、恒常的にPFASを含む泡消火剤が使用・蓄積されているため、沖縄でも周辺の土壌や近隣の河川、さらに湧き水を利用した公園の水からも高濃度の汚染が見つかっています」

懸念されるのは、汚染された水を摂取した場合の健康への影響だ。前出の原田さんは、こう話す。

「長期間にわたって摂取した量が多い方は、一定の疾患にかかりやすくなるといわれています。たとえば、血中のコレステロール値が上がる脂質異常症や、甲状腺機能低下症、腎臓がんなどにも影響していると考えられています」

このほかにも、妊娠しにくくなる、精子の数が減少するなどの生殖機能への影響や、子どもの成長の遅れ、さらには乳がんや前立腺がんへの影響も指摘されている。

「多摩地域の住民で血液検査を受けたある女性は、『適正体重なのに、親子で脂質異常。PFASに汚染された水を長期間飲んでいた影響があるのかも』、と心配しておられました」(前出の根木山さん)

会では、地域の医療機関と連携し、血液検査を受けた住民を対象に医療相談を始めている。

■浄水器の使用に一定の効果

問題は汚染が明らかになっても、汚染源を突き止め、浄化しようという動きが国にないことだ。前出の河村さんは、「“日米地位協定”という不平等条約の壁があり、日本側が米軍基地内に立入り調査することも困難なことが一因」として、こう続ける。

「ドイツなど米軍基地を置く他国では、きちんと自国の権利を用いて米側と交渉し、調査を行っています。しかし日本政府は交渉しようという姿勢すらない」

汚染源として疑われる米軍横田基地の広報に、今後の対応についてメールで尋ねたが、期限までに回答は得られなかった。個人でできる対応策はあるのか。

「多摩地域住民の血液検査の調査では、浄水器を使用していた方のほうが、わずかながら検出されるPFASの平均値が低いことがわかりました」(原田さん)

活性炭などの浄水器は、蛇口に取り付ける安価なものでも効果があるという。東京都の担当者は、「今後もしっかりモニタリングを続けていく」とのことだが、政府と共に米軍に立入り調査を働きかけるべきだろう。