子どもの誕生日会に大金を費やす親たちの実態！出張シェフに手品師、お土産にiPad…
「海外で、挑戦したい」
日本にいる富裕層が、一度は考えることだろう。
そのなかでも憧れる人が多いのは、自由の街・ニューヨーク。
全米でも1位2位を争うほど物価の高い街だが、世界中から夢を持った志の高い人々が集まってくる。
エネルギー溢れるニューヨークにやってきた日本人の、さらなる“上”を目指すがゆえの挫折と、その先のストーリーとは？
現状に満足せず、チャレンジする人の前には必ず道が拓けるのだ―。
Vol.5 本物の金持ちに圧倒された2児の母
ギャラリー勤務・ユキ（38歳）
「あ、オリヴィアがいる！」
Upper West SideにあるHippo Playgroundは子どもたちのお気に入りで、家からも近いので遊びにくる。
そこで、新たな知り合いができることも多い。
MBAを取るために日本から母娘で来ている女性や、教育のために日本から移住してきた家族にも会ったことがある。
私は、ニューヨークに来て12年になる。今は、アメリカ人の夫と7歳の娘、そして5歳の息子と暮らしている。
もともと私は、アートの勉強をしたくて留学で来た。あるギャラリーで戦略系コンサルタント会社に勤める夫と知り合い、結婚した。
来た頃は貧乏学生だったが、今は、ギャラリーで働いているし夫もそれなりに稼いでいるので、世帯年収は＄500K、日本円にして7,000万円ほど。
普通の家庭で育った私には、年収7,000万円を超える生活など想像もできなかったが、ニューヨークではそう珍しくもない。
子どもたちの教育費や将来の大学費用、夫の奨学金の返済に家賃などで、結構な額が飛んでいってしまうのが現実だ。
それでも、マンハッタンの高級住宅街で裕福に暮らせている今の生活は夢のようだった。
「Hi, Emma! Do you want to play with me?」
「Olivia, sure!」
長女のエマと同じ私立小学校に通うオリヴィアは、いつもナニーが学校に送り迎えをしているので、これまで親と会ったことはなかったが、今日は母親が一緒に来ていた。
「あなたがエマのお母さん？娘から話を聞いてるわ」
初めて会う彼女は社交的で話しやすく、好感が持てた。
公園によくいるニューヨーカーといった感じで、スッピンでジャケットを羽織り、中はスウェットと、カジュアルな格好も親しみを感じる。
普段は会計の仕事をしているらしく、家も近い。
「ねぇ、来月オリヴィアの誕生日会をするんだけど、よかったら来ない？エマに来てほしいって」
「ありがとう。エマも喜ぶわ、ぜひ」
そういって、私たちは電話番号を交換した。
◆
オリヴィアの誕生日当日。
彼女の母親から送られてきたアドレスは、ロングアイランドのHamptonsだった。
― 家はうちの近くって言ってたけど…。
不思議に思いながら向かうと、大豪邸が並ぶ中、一際目立ったお城のような豪邸に到着した。周りにはベントレーやロールス・ロイス、テスラなどの高級車が止まっている。
恐る恐るベルを押すと、使用人が出迎えてくれ、中にプリンセスの格好をしたオリヴィアと綺麗に着飾った両親がいた。
「Thank you for coming！」
家の中はカラフルなバルーンで豪華に飾り付けされ、子ども用の飲み物と大人用にRoederer Cristalのシャンパンが用意され、数名のサーバーが前菜と共に配っている。
奥のキッチンスペースでは、3名のシェフが煌びやかな食事を用意し、中央にはウエディングケーキかと見紛うほど大きな3段のユニコーンをモチーフとしたケーキが置いてあり、みんなからのプレゼントが並べられている。
バックヤードでは5人の演奏家が明るく美しいバックミュージックを奏で、その中でパフォーマーや歌手たちが手品やゲーム、ペイントアートや歌などを披露し、子どもたちを楽しませていく。
その他お城のバウンスハウスや動物園から借りてきたというウサギや子豚、山羊などもいた。
― すごい豪華…。
これまで参加した誕生日会は、公園や施設などで、バウンスハウスを借りてみんなでピザを食べる、というのが一般的で、親たちまで正装して参加するようなものは初めて。
聞けばお父さんは通信系の会社を経営し、お母さんも会計事務所を経営している超絶パワーカップル。
平日はUpper West Sideのコンドミニアムに住み、週末だけここの家や別の別荘で過ごすという。
呆気に取られる私の横で、子どもたちが無邪気に話をする。
「ねえ、あなたのおうちは何個あるの？」
「私は8つよ。今度カリブのお家に行くの」
「どの航空会社？私は〇〇会社のファーストクラスが好き」
「お父さんの小さい飛行機よ」
子どもらしくない会話に、頭がクラクラする。
圧倒される私をよそに、エマは友達と大はしゃぎしながら遊ぶ。お開きの時間になると、みんなにiPadをお土産に配ってくれ、彼女は大事そうに抱えながら帰宅した。
「ねえダディ、マミィ。私もあんな誕生日会がしたい！」
その夜、エマが嬉しそうな顔をして夫と私に言った。
「今日すっごく楽しかった！ケーキも大きかったし、歌も歌ってくれてペイントもしてくれて、プレゼントも！」
娘のキラキラとした顔を見ると、ついなんとか叶えてあげたくなる。
オリヴィアと同じ規模のパーティーをしようと思ったら、少なくとも＄15,000（約210万円）くらいかかるのだろう。
金額的には可能かもしれないが、我が家の価値観は違う。
それに、いつものように夫が言った。
「お金がかかりすぎるよ。公園ですればいい、バウンスハウスは借りてあげるから」
夫はどちらかというと、貧しい家庭で育った。そのため“自分が稼いで家族を幸せにしたい”という強い思いが、彼を成功へと導いた。
だからこそ、子どもたちには教育費は存分にかけるが贅沢はさせない、というのが彼の教育理念だった。
飛行機はエコノミー、ホテルは三つ星。本はいくらでも買うが、おもちゃは誕生日とクリスマスだけ。
お金は人に自由と余裕を与える。その分、不便さや苦労から得られるハングリー精神や工夫するスキルを磨くチャンスを減らすことになる、と考えているからだ。
けれども、私は時々子どもたちがかわいそうになることがある。
マンハッタンの私立には、大金持ちの子どもがたくさんいる。
その中で自分の子どもたちだけ、みんなとお揃いのおもちゃを我慢したり、友達同士の会話に入れないときが多々あるからだ。
「オリヴィアのパーティーはすごく素敵だったけど、すごくお金がかかるの。それより色々工夫して楽しい誕生日会にしたらどう？」
「やだ。オリビアみたいなのがいい！公園じゃなくて、オリビアみたいにお城でプリンセスみたいなのがいい」
一旦怒ってしまったエマは夫や私がどうなだめようとも、聞く耳を持たない。
どうやらその日もみんなで別荘の話になり、彼女だけ会話に入れなかったことも豪華なパーティーに固執する原因のようだった。
結局彼女は大泣きし、ふてくされながらもらったiPadを抱えて眠りについた。
◆
数日後。
家族で歩いている時、あるスーパーの前で「チョコレート買いませんか？」と小学校高学年くらいの子どもに声をかけられた。
どうやら学校の行事の一環らしい。
自分とそう年齢の変わらない子どもたちが物を売っていることに何かを感じたのか、エマが聞いた。
「たくさん売れるのかな？私も売って誕生日会のお金を集めようかな」
それを聞いた夫は「いいアイデアだ！」と賛成し「じゃあ＄50あげるから、どこで何を仕入れていくらで売るかを考えよう」と、そこから楽しそうに2人で計画を立てた。
そして彼女は3週間かけて、仕入れた分を売り切った。出た利益は＄200（約28,000円）。豪華な誕生日会をするには全く足りないが、それでもエマは満足していた。
◆
1ヶ月後のエマの誕生日会。
彼女はあれから＄200でどんなことができるかを私たちと相談し、自分でネットで調べた情報などから、誕生日会を計画した。
公園の一角を借りてテントと机を用意し、エマの好きなキャラクターをテーマに折り紙と風船でデコレーションをした。
料理はあえて日本風にし、私と一緒に手毬寿司や唐揚げ、フルーツサンドなどを用意した。
他にもゲームなどはお金のかからないジェスチャーゲームや風船割りなどを企画し、結果子どもたちは大いに楽しんだ。
「すごい、エマが作ったの！？」
「エマがお金を集めたの？どうやって？」
“子どもが自分で作り上げた”ということが珍しかったのか、子どもたちも親たちも興味津々でエマに質問する。
これまで見た中で一番誇らし気な顔をした彼女は、本物のプリンセスのようにキラキラとした笑顔を見せていた。
みんなが帰った後、エマが私に目を輝かせて言った。
「オリヴィアが最高に楽しかったって！私もすごく楽しかったよ。頑張ってよかった！」
その言葉に“親の心配をよそに、子どもは自分でしっかりと学んでいくのだな”と、私は彼女の成長に胸が熱くなった。
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