高空を飛ぶ飛行機では、機内の気圧を人為的に高くする「与圧」は欠かせません。実はこの「与圧」は、乗客にとってはかなり重要な「隠れ指標」のひとつで、各航空機メーカーも、その改善に注力し、進化してきました。

現代のジェット旅客機では高度2400m相当

 高空を飛ぶ飛行機では、機内の気圧を人為的に高くする「与圧」は欠かせません。新しい旅客機やビジネスジェット機は、この与圧により、機内の気圧をなるべく地上の気圧に近づけようとしています。実はこの「与圧」は、乗客にとってはかなり重要な「隠れ指標」のひとつ。各航空機メーカーも、その改善に注力しているといえるでしょう。


那覇空港を行き交うJALグループの旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 機内の気圧の低さは、乗客の快適性に大きな影響を及ぼします。旅客機で飛んでいる際に耳が痛くなった経験のある人がいると思いますが、あの現象も、地上と上空での機内の気圧の差によって生じるものです。

 地上では1平方センチメートルにかかる空気の圧力は1kgですが、高度が上がるにつれて外気の気圧は下がります。高度6000mで気圧は2分の1に、1万mでは4分の1強に落ち、空気は薄くなります。1万mの気圧までいけば、人間はまず生きてはいけません。

 高空でも機内を1気圧に与圧することが出来ればよいのですが、それを実現するには、機体を頑丈にしなければならず、重量が大きくかさむなど、いろいろなところに悪影響を及ぼすことになります。このため旅客機の客室はおおむね、上空では高度2400mに相当する気圧に保つよう設計されています。ペルーにあるインカ帝国の都市だったマチュピチュの標高も2430mですので、地上に比べて空気は薄くなりますが、これだと日常生活に支障はありません。

 与圧の研究の歴史は長く、第2次世界大戦前から行われ、1940年に就航したボーイング307「ストラトライナー」は戦前では唯一、客室を与圧した旅客機となりました。ただ、プロペラ機だったため、飛行高度はジェット機ほどではなく、与圧を高度2400m相当に保って飛べた飛行高度も4500mだったということです。
 
 ただ戦後、ジェット旅客機の時代になると、1万mを超える巡航高度で飛ぶことから、与圧はすっかり必須の設備となり、その機能も、改善へむけ、たゆまぬ努力が続けられてきました。

近年ではもっと高い与圧能力を持つ機も そしてありがたい副産物

 2022年現在、国内航空会社が多く用いているボーイング787旅客機ではデビュー当時、それまでの旅客機に比べて与圧を高く設定したことが、その先進性を示すエピソードのひとつとして取り上げられました。787の開発に最初から参加しANA(全日空)によると、787の客室は高度約1800mと同じレベルに与圧されているということです。

 与圧を高めているのはビジネスジェット機も同じです。ガルフストリームは2021年、G700の客室の気圧を高め、高度約1万2500mを飛ぶ際、それまでの高度約1000m相当だった気圧を高度約890m相当に改善しました。ボンバルディアが2021年に開発を発表した「チャレンジャー3500」では、先代機とくらべて3割ほど、客室の与圧を改善しているとしています。


ANAのボーイング787(乗りものニュース編集部撮影)。

 与圧の改善は、もうひとつ、乗客にとっては良い環境変化をもたらします。787は胴体に、従来の旅客機で一般的だったアルミニウム合金ではなく、軽くて丈夫な複合材(強化炭素繊維プラスチック。いわゆる「カーボン」とも)を採用したために与圧を高めることが出来ました。この素材は金属ではないため腐食の心配がありません。そこで787では、客室の湿度を、これまでの旅客機とくらべ、大きく向上させることに成功しています。

 乾燥が苦手な人の中には、喉を痛めるのを防ごうとコロナ禍前から旅客機に乗る際はマスクを着ける人も見かけました。地上の湿度ほどではありませんが、787で乗客の快適さが増したのは確かです。

 客室の与圧も湿度も、一般的な性能表に出てきませんが、乗客が体で感じる重要な指標です。地味であるかもしれませんが、こういった面でも、各メーカーはより快適なフライトの実現へ努力を続けています。