2022年2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が行われ、「世界最大の飛行機」アントノフAn-225「ムリヤ」が破壊されるという衝撃の事象が発生しました。このことで同年は、「ムリヤ」にまつわるさまざまな動きが起こりました。

「ウクライナの象徴」的な存在として君臨

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が行われた2022年は、航空業界にさまざまな影響を及ぼしました。そのなかでもっとも航空ファンにとってショッキングな事象のひとつが、ウクライナのアントノフ設計局(製造時はソ連)が製造した、世界に1機しかない「世界最大の飛行機」、アントノフAn-225「ムリヤ」が2月末に大破したことでしょう。このことで、さまざまな動きが世界のSNSを中心におこりました。


アントノフAn-225「ムリヤ」(画像:Transport Pixels[CC BY-SA〈https://bit.ly/2VvpNUU〉])。

 An-225「ムリヤ」の最大離陸重量は“世界最大”となる640tで、全長は84m、全幅は88.74mに及びます。そのデザインも、片翼に3発ずつ計6発搭載したエンジン、32個の車輪をもつムカデのような脚など独特の形状を持ち、日本では「怪鳥」とも呼ばれました。

 同機は当初、ソ連版スペースシャトル「ブラン」を胴体の上に積んで空輸する目的で開発されたものの、紆余曲折を経て、破壊される直前までアントノフ航空で貨物機として運用され、その巨体が生かされてきました。

 この「ムリヤ」はある意味「ウクライナの象徴」的な存在であり、2021年のウクライナ独立30周年を祝賀するイベントでは、首都キーウ上空をフライトしています。その規格外のサイズや完成までの経緯などで、“唯一無二”の存在感を放っていたAn-225「ムリヤ」が破壊されたインパクトの大きさは、後述の一連の反応や事象からうかがうことができます。

「ムリヤの亡霊」が出現? 世界が泣いた「小さなムリヤ」

●「ムリヤの亡霊」が航空機追跡サイトに出現

 先述のとおり2月末に「ムリヤ」は破壊され、飛ぶことができなくなりましたが、その直後の3月11日、世界中で稼働している航空機の動きをほぼリアルタイムで追うことができる航空機追跡サイト「フライトレーダー24」で奇妙な事件が発生しました。同サイトに、破壊されたはずのAn-225「ムリヤ」の機影が“出現”したのです。

 サイト上ではキエフ近郊の上空4500フィート(1371m)を円を描くように飛んでおり、便名を示す「コールサイン」は「FCKPUTIN」。日本語でいえば「憎きプーチンめ!」といった意味を込めたものと見られます。今回の事象について詳細は明らかになっておらず、その痕跡も消されているものの、実際にAn-225「ムリヤ」がフライトしていないことだけは確実です。

 この航跡を見た航空ファンからは「ムリヤの亡霊か怨念か」「まさに『キエフ(キーウ)の幽霊(ウクライナに、たった1日でエースになったパイロットが現れ、多くの敵機を撃墜したという架空の話)』じゃん」といった声が上がっています。


アントノフAn-225「ムリヤ」(画像:AntonovCompany)。

●全世界が号泣!?別れを告げに来た「ムリヤ」のコンセプト動画

 2022年4月、アントノフ社の公式SNSアカウントが、破壊されたAn-225「ムリヤ」をテーマとした約45秒のアニメ風のショートムービーを掲載しました。

 ストーリーは、手のひらサイズとなった「ムリヤ」が同機の“生みの親”である設計者オレーク・アントノフ氏とみられる人物の元に訪れ、涙を流します。同氏が手を触れ慰められたのち、「ムリヤ」は再び空に。その後「ムリヤ」は鳥(コウノトリとみられる)に姿を変え、ウクライナ上空を飛び回る――というあらすじです。

 この動画はウクライナの姉妹クリエイターにより作られたもので、世界の航空ファンから感動と賞賛のコメントが相次ぎました。

まさかの「靴に変身」? そして「ムリヤ」の未来は

●「ムリヤ」ファンなら欲しくなる靴も誕生?

 2022年8月、SNS上にナイキのロングセラースニーカー「エアファース・ワン」の新たなデザイン案が出現しました。ウクライナのデザイナーがAn-225「ムリヤ」の機体をモチーフとした「エアフォースワン」のデザイン案を公開したのです。靴は白ベースに黄色とブルーのラインが入り、つま先部には実機の機首部分に描かれていた「ムリヤ」のロゴマーク、かかと部には実機の胴体後方に描かれていた「UR-82060」の機体番号がデザインされています。

 このデザインはナイキから売り出されたものではないようで、あくまで案のひとつだったようですが、このデザインにはアントノフ社の公式アカウントも反応。ナイキの公式アカウントに対し「このデザインどうですか?」とプッシュするシーンも見られました。


2009年10月のサモア沖地震で、被災地サモア諸島に救援物資を運んできたAn-225「ムリヤ」(画像:アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁/FEMA)。

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 なお、2022年11月にはアントノフ社が公式SNSで、大破した「ムリヤ」を終戦後に修理する計画があると発表しています。「ムリヤ」という言葉は、ウクライナ語で「夢」という意味をもちます。An-225「ムリヤ」の具体的な計画は発表されていませんが、この機が再び空を飛ぶという“夢”を叶えることができるのか、ウクライナ情勢の終結とともに関心を集めるところです。

【まさに”怪奇”】なんて便名だ…! 「ムリヤの亡霊」が辿った実際(?)の航路