ノースロップ・グラマンがこのたび新型爆撃機B-21「レイダー」を披露しました。同機はアメリカ空軍が現在運用する3種類の爆撃機のうち2種類の代替用だそう。いまアメリカ空軍が直面する問題とは一体何なのか見てみます。

ギネス記録に載るほどの高コスト機B-2

 2022年12月3日、アメリカのカリフォルニア州パームデールにおいて最新の爆撃機B-21「レイダー」が初めて一般に公開されました。

 この機体はアメリカ空軍の次世代爆撃機として2015年から開発が進められてきたもので、実機が公になったのは今回が初めてです。B-21は最低でも100機を生産し、2020年代半ばの実戦配備を予定しているそう。アメリカ空軍は現在、爆撃機としてはB-52「ストラトフォートレス」、B-1「ランサー」、B-2「スピリット」の3種類を運用しており、ここに新しくB-21が加わることになります。

 戦争の歴史において、ある意味で航空戦力の象徴的存在として扱われることの多い爆撃機ですが、現代では高コストで維持管理に手間が掛かる存在となっていることから、2022年現在、それを兵器として運用しているのはアメリカ以外ではロシアと中国だけとなっています。そんな爆撃機を3種類も保有しているアメリカ空軍が、わざわざ4番目の新しい機体を開発し導入しようとする理由はなんでしょうか。それは既存の爆撃機が運用面で大きな問題を抱えているからです。


2022年12月3日に一般に初公開されたB-21レイダー。B-2と同じ全翼機だが、機体の印象はまったく異なっている(画像:アメリカ空軍)。

 アメリカ空軍が運用する爆撃機は、どれも配備開始から数十年も経ったベテラン機ばかりで、いずれの機体も老朽化や運用コストの増大に悩まされています。特に高コストで問題になっているのは現役爆撃機で最も新しいB-2「スピリット」です。

 B-2は、そもそも機体価格が高額で、その値段はなんと13億ドル(日本円で約1755億円)にもなります。この金額はギネス世界記録に認定(1999年7月17日に認定)されるほどで、軍用機として史上最高といわれるほどです。

 加えて、B-2は運用コストについても極めて高額で、飛行時間1時間あたりの費用は13万5000ドル(日本円で約1822万円、2010年頃のデータ)とか。これはB-1やB-52の2倍にもなります。

 なぜ、ここまで運用コストが高いのか、その一番の理由はB-2がステルス機だからです。大型のステルス機ゆえに、レーダー反射を抑えるための機体表面のコーティングの維持に膨大な作業と専用設備が必要となるからだといいます。

 こうしたことから、B-2の運用数は2022年現在、アメリカ空軍においても20機のみにとどまっています。確かに爆撃機のなかで最も高性能かつ強力な機体であることは間違いありませんが、少数配備とコスト問題から主戦力にはなり得ない存在だといえるでしょう。

 ちなみに、2008年には1機が事故で損失しましたが、このときの推定被害額は約14億ドル(日本円で約1890億円)といわれており、こちらも史上最高額の航空機事故として記録されているほどです。

老朽化が深刻なB-1

 B-2の次に新しいのがB-1「ランサー」です。可変翼を装備したこの機体は、超音速飛行が可能な高い機動性と、相手の防空網をかいくぐる低空進入能力を持っているのが特徴です。ステルス機ではありませんが敵勢力下へ進攻して攻撃を加えることが可能で、航空兵力として攻勢的に運用できる爆撃機といえるでしょう。


B-1「ランサー」爆撃機。可変翼機構を備えているのが特徴で、大型機としては非常に美しいデザインをしている。しかし、その可変翼は現在の運用コストの上昇にも繋がっている(画像:アメリカ空軍)。

 しかし、可変翼機構を備えた機体は整備作業に手間がかかり、運用コストの高騰だけでなく、機体自体の疲労も深刻化しています。特に2010年代に中東地域を中心に行われた対テロ戦争では、B-1は爆撃機としての長距離・長時間飛ぶことが可能な滞空性能を買われて地上部隊への航空支援で数多くの任務に用いられた結果、多くのB-1がこのときに重整備を必要とするようになり、稼働率の大幅低下を招いてしまいました。

 2020年には配備していた62機のB-1の内、17機を早期退役させることが決定。とはいえ、このとき退役が決まった機体も、その大部分は現役に残る45機の部品取りとして再利用されています。この配備数削減は、運用機数を絞って、B-1全体の運用期間を延長させる、要するにB-1シリーズ全体の延命を図るための措置だったといえるでしょう。

 アメリカ空軍の爆撃機部隊の中で最も数が多いのは約70機が運用中のB-52「ストラトフォートレス」です。この機体の最初のモデルであるB-52Aは1954年に初飛行しており、登場から半世紀以上も経っていることが話題となる超ベテラン機です。もっとも、B-52自体はその後に改良型がいくつも生産されており、現役であるB-52Hは1961年から1963年の間に納入された後期モデルになります。

 さらに、機内パーツや装備品も、定期的な部品交換や能力向上のためアップグレードを受けており、H型自体が生産当時とはまったく異なる機体に生まれ変わっているといってもいいでしょう。

現代戦への対応が難しくなりつつあるB-52

 B-52は、前出のB-2やB-1と比べるといたって平凡です。ステルス性や超音速飛行性能などがないぶん、B-2やB-1と比べて運用コストは低く、アメリカ空軍が運用するほとんどの航空機用兵器が搭載できるというメリットもあります。

 しかし、半世紀以上も前の機体ゆえに、現代の防空システムに対しては脆弱であり、ステルス機のように敵支配地域へ直接進攻するようなことはできません。そのため、現在では敵側の防空圏外から攻撃できる巡航ミサイルといったスタンド・オフ・兵器と組み合わせての運用が主体になっています。


B-52「ストラトフォートレス」爆撃機。アメリカ空軍機では異例ともいえる長寿機。スタンダードな機体ゆえに使い勝手がよく、アップグレードを行い2050年代まで運用の予定(画像:アメリカ空軍)。

 軍事的に見ると爆撃機の利点は、長距離飛行能力と大きな積載量を活かした多くの兵装からなる高い打撃力であり、敵勢力下に進攻して攻撃するような任務で、その真価を発揮します。しかし、現在のアメリカ空軍でその能力を満たすのはB-2だけであり、その数はあまりに少なく高価です。次点のB-1は機体損耗が激しく、B-52は搭載する兵器の高性能化でなんとか対応している状況です。

 新しくB-21が開発される理由のひとつは、運用面で問題を抱えるB-2とB-1を交代するためです。アメリカ空軍ではB-2とB-1の退役は、B-21の配備と連携するように進めていくようで、B-2とB-1は2030年代初頭にそれぞれ退役させる予定だとか。一方、最も古いB-52については、兵器の発射プラットフォームとしての価値を認めており、エンジンやアビオニクスを換装して大規模なアップグレードを施す計画(B-52Jと呼ばれる予定)で、これによって2050年代まで運用するとしています。

 こうして見てみると、B-21は単なる新型機ではなく、アメリカ空軍の爆撃機部隊の運用に関わる重要な存在といえるでしょう。この機体の配備は既存の運用機数の削減や運用方法の変化にも繋がるものであることから、B-21の開発とその戦力化が滞りなく行えるかどうかは、アメリカ空軍の将来の作戦遂行能力を左右する重要なポイントといえるでしょう。