キャラ立ちまくり観光列車「時代の夜明けのものがたり」に乗る 中は“宇宙船”そのワケは
JR四国の観光特急「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」。週末に高知〜窪川間を1日1往復します。高知行き「開花の抄」に乗ってみましたが、車両デザインもおもてなしも、高知県らしさにあふれていました。
高知行き「開花の抄」に乗車
JR四国の観光特急「ものがたり列車」は、通年で高乗車率を誇ります。松山〜伊予大洲・八幡浜間で運行される「伊予灘ものがたり」の年間乗車率は90%だそう。そして2020年7月に登場した「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」は75%だといい、四国の左下、高知〜窪川間という決してアクセスが良好とはいえない地域にも関わらず、その人気ぶりがうかがえます。
高知〜窪川間の観光特急「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」(2022年9月、安藤昌季撮影)。
「ものがたり列車」には専属アテンダントが乗務し、地元食材の料理や地域のおもてなしを体験できるのも魅力です。では「時代の夜明けのものがたり」にはどんな特色があるのか、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は高知行き「開花の抄(かいかのしょう)」に乗車してみました。
高知県四万十町にある窪川駅は、JR土讃線と予土線の接続駅。予土線は0系新幹線風の「鉄道ホビートレイン」など、様々な観光列車が走る路線です。「開花の抄」にはラッピングトレイン「鬼列車」が接続します。
「時代の夜明けのものがたり」は、キハ185系ディーゼルカーを改造した2両編成です。車体には土佐の英雄・坂本竜馬が大きくラッピングされ、ヘッドマークも坂本家の家紋の外縁を引用しつつ、夜明けの太陽をイメージしています。「時代」を表す12方位があしらわれ、時計風のデザインとなっているのがユニークです。
車両のデザインを担当した、JR四国 営業部 ものがたり列車推進室長の松岡哲也さんによれば「竜馬の起用は、同じ区間を走っていたトロッコ列車『志国高知 幕末維新号』を踏襲しました。『幕末維新号』も私が担当しましたが、運行終了後に観光列車の機運が高まったことで『時代の夜明けのものがたり』を実現できたのです」と話します。
文明開化? 宇宙船?
いよいよ車内へ。1号車は「KUROFUNE」の愛称でレトロなデザインです。木目調の室内で特に目立つのは、車両の中心に置かれ、レール方向に伸びる長テーブルです。
多くのこういった列車では中央に通路があり、左右にテーブルが置かれています。日本の鉄道でこうしたテーブル配置は、明治時代の食堂車と「オリエント急行’88」くらいですから、とても斬新なデザインといえます。一部の席は窓に向けられており、中央配置と窓向きの席を可変できます。この「変形機能」は、コロナ禍で「窓向き席を増やす」などの形で活用されているとのことです。
1号車車内(2022年9月、安藤昌季撮影)。
松岡室長によると「坂本竜馬が黒船を見て、高揚した未来への気持ち」を表すために、あえてSF調の要素を取り入れ「レトロフューチャー」にしたとのこと。照明器具のデザインなどに未来感があります。船を思わす舵輪もありました。
車端部は運転席と完全に仕切られていますが、壁面がスクリーンとなっており、乗車時には前面展望が映されていました。地元の伊野商業高校ツーリズムコースの学生が車内ガイドを行う際にも活用されるようです。
続いて2号車へ。愛称は「SORAFUNE」で、1号車とは対象的な「白い空間」でした。「レトロSFの宇宙船」をイメージした内装で、未来的だけど懐かしさもある雰囲気です。デザイナーが高知駅舎をデザインした際、「あえて困難に挑むのが高知らしさと知った」そうで、ありきたりではない「宇宙にまで広がるデザイン」としたのだそう。
随所に見られる配慮
筆者が感心したのは、2両編成なのに共用トイレと女性用トイレが分けられていることです。「女性客が多いので、揺れる車内でお待たせさせないため」の配慮だそうですが、トイレの内装も「宇宙」が広がっているようで、目を見張りました。トイレットペーパーも一般的なものではなく、土佐和紙の技術を生かした透かしのある美しいデザインです。
2号車車内(2022年9月、安藤昌季撮影)。
客室内にはカウンターと窓向きテーブルが備えられていました。ほかの「ものがたり列車」との違いはここで、「時代の夜明けのものがたり」ではアテンダントから個別に会計ができません。これはほかの列車が3両編成で7〜8名のアテンダント乗務であるのに対し、2両編成で5名乗務のため。フルサービスではない分、少し安いグリーン料金となっています。
カウンターには地酒を含むアルコール類や「日高村のトマトソースパスタ」「かつおの腹んぼ」など、地域色を感じさせるメニューが並びます。事前予約制の食事も高品質でしたが、予約不要のメニューも豊富で、販売を待つ行列ができるほど。
先述の通り窓向き座席は「テーブル変形機能」に対応し回転するため、出入りも楽です。「通路幅が規定されている中で座り心地のよい座席とするべく、苦労した」そう。沿線で多数見られる地元の方々のおもてなしにも、手を振り返しやすい配置でした。
ユニークなのは、窓と窓の間にモニターが備えられていて、そこに前面展望が映し出されることです。1号車にはステージもありますが、そこで催し物がある場合にはその光景も映せます。
おもてなしの熱意 名古屋から通い詰める人も
出発後は料理が振舞われますが、美しい料理に目をやる暇がないほどの「おもてなし密度」です。多くの観光列車では沿線の人たちが手を振ってくれますが、「時代の夜明けのものがたり」では列車を追いかけ、全力のおもてなしを受けます。筆者はその熱意に感動しました。同乗した別の乗客に話を聞いたところ、「このおもてなしが好きで、名古屋から年間十数回乗っています」という方までいらっしゃいました。
沿線でのおもてなし(2022年9月、安藤昌季撮影)。
中でも須崎駅(高知県須崎市)での「おもてなし」は度胆を抜かれました。沿線の人々がホームで合唱するところから始まり、乗客も交えたダンスに発展。にこやかで賑やかな停車の後は、船のような銅鑼の音で出発時刻が告知されます。これはJR四国の半井会長が発案したそうで、「列車を船に見立てているなら、銅鑼だろう」と導入したとのこと。
アニメ『竜とそばかすの姫』の舞台にもなった伊野駅(高知県いの町)では、列車交換のため長時間停車。特別な駅名標や駅舎内でのアニメ解説も楽しめました。
車窓も、雄大な太平洋や日本的な田園風景などが美しく、2時間の乗車時間はとても短く感じられました。全国でもトップクラスに“キャラクターが立っている”観光列車「時代の夜明けのものがたり」、一見の価値ありでしょう。