「チームとしてのつながりのようなものが、ほとんど感じられなかった。コンビネーションを使ったサッカーができていない。あくまでテストであり、多くの選手は開幕のドイツ戦の先発ではないのかもしれない。しかし、メンバー構成からして噛み合っていなかった」

 レアル・ソシエダなどで長年にわたり要職を務めてきたスペインの目利き、ミケル・エチャリはそう言って、日本がカナダに1−2で敗れた試合を振り返っている。

 エチャリはこれまで森保ジャパンに対して、建設的な意見をしてきた。しかし最近は、自陣での軽率なファウルが多いことなど、チームとして破綻しかねない状況を憂慮している。南アフリカW杯でのアンカー採用というアイデア、ブラジルW杯での攻撃偏重への警鐘、そしてロシアW杯での躍進など、日本代表について予想を次々に的中させてきた名伯楽は、カタールW杯の前哨戦をどう分析したのか。

「個人的には、原口元気と大迫勇也のメンバー外は驚きだった。とくに原口は戦術的なプレーヤーとして、このチームに必要な気がしたが......」

 エチャリはそう残念がり、試合について語り始めた。

「試合は序盤、日本がペースを握っている。戦力的な優位性と試合にかける意気込みが出たか。敵陣でプレーする時間が長かった。

 そして9分、相手のロングボールを回収後、柴崎岳が裏へ抜け出た相馬勇紀にタイミングよくパスを送ると、相馬はコースを変え、先制に成功した。悪くない立ち上がりだった。

 しかし、これで受けに回ってしまう。久保建英が自ら持ち込んで狙う場面などはあったものの、攻撃はどれも単発。先制以降は、徐々にカナダにペースを奪われていった。


カナダのセットプレーのシーンで、日本はたびたびピンチを招いていた

 カナダは、チームとして戦術的なデザインが見えた。4−4−2でサイドバックが常に違う高さを取ることで、幅を作りながら日本を幻惑し、崩そうとしていた。組織的なライン作りができているだけに、挽回するのは必然だった。圧力を与え、セットプレーも増えていた。

課題と収穫を手にしたのはカナダだった

 そして21分、コーナーキックからエリア内でアティバ・ハッチソンが合わせ、さらにスティーブン・ヴィトーリアが詰めて同点に追いついた。

 セットプレーの際の日本の守備は改善の余地がある。失点シーンも、キックの瞬間までマークについていたが、ボールが来る時には外してしまっており、立て続けに合わせられている。伊藤洋輝は完全に背中を取られていた。

 本大会でも、コーナーキックの守りは気になるところだ。実際、その後もGK権田修一が非常に悪い飛び出しを見せ、混乱が生じていた。コーナーキックのたびに失点の匂いがしたし、押し込まれる状況を作っていること自体が問題だった。

 日本はダブルボランチの柴崎と田中碧がそれぞれを生かし合っておらず、ちょくちょくサイドを変えている。ボールを失う場面もあって、彼ら自身も手探りなのだろう。そのせいで、チーム全体にリズムが生まれず、カナダを押し返せない。久保が下がって無理に守備をし、ファウルでフリーキックを与えて......という悪循環だった。ロングボールを狙って酒井宏樹がダイナミックに突っ込み、敵陣に迫ったシーンなどは悪くなかったが」

 エチャリはポジティブな側面を探そうとしていた。しかし、不安要素が多いゲームだったことは間違いない。

「後半になって、日本はほとんどチャンスを作り出せていない。前線に入った上田綺世がポストに入って、南野拓実のチャンスシーンなどを演出したが、シュートは力なく阻まれる。他は長いボールを蹴るだけになった。

 カナダは攻守がオーガナイズされ、お互いの動きでスペースを生み出していた。自然と調和が生まれ、尻上がりに内容がよくなっていった。彼らはテストマッチでしっかり課題と収穫を手にすることができただろう。

 対照的に日本は、必然的にボールを失い、ファウルせざるを得ず、もはや攻撃を組み立てられなくなる。交代で入った鎌田大地がひとりで強引にボールを奪い、そのまま持ち上がり、展開し、再びシュートへ、という場面では、個人の能力の高さが出た。しかし、それはチームとしてうまくいっていない兆候でもあった。

 そして終盤、森保監督は南野を吉田麻也に代え、5バックを採用している。違うポジションの選手の交代でフォーメーションも変更する時、監督は明確に何らかの意図を持つべきである。その結果は、サイドを崩されての不必要なファウルでのPK献上だった。それもパネンカ(強く蹴るフリで浮かすキック)がやや失敗したのを、GKは止めきれなかった」

 エチャリはできるだけ丁寧な言葉を使いながら苦言を呈し、最後はW杯本大会での戒めとエールを送っている。

「本大会では自陣でのファウルを戒め、そうならない展開を作るような布陣を望みたい。セットプレーの対応に不安も残ったが、メンバーも違うはずだし、修正はできるだろう。今はただただ、日本の健闘を祈りたい」