浦和レッズとの試合のメンバー表を見れば、10代の選手がずらり。スタメンには15歳の選手も名を連ねていた。「2006年12月3日生まれ」と記されているから、レッズがJリーグで初優勝を遂げた翌日に生まれた選手ということになる。

 昨季のヨーロッパリーグ(EL)を制し、今季のチャンピオンズリーグ(CL)ではラウンド16進出を決めている。ブンデスリーガでも現在4位と好位置につけるドイツの強豪フランクフルトだが、この日の彼らは趣(おもむき)が大きく異なった。


浦和レッズの黄金期を支えた長谷部誠が凱旋

 鎌田大地、マリオ・ゲッツェら主軸は各国の代表としてワールドカップに参戦し、FWのランダル・コロ・ムアニも、来日後にフランス代表に追加招集され、急遽カタールへと飛んでいる。11月13日にアウェーでのマインツ戦をこなしたチームが来日したのは、試合前日のこと。しかも当日は渋滞で会場入りが遅れ、アップの時間もほとんどなかったのだから、シーズン中断期間の調整試合に多くを期待するにはあまりに酷な状況だった。

 一方で、すでにシーズンを終えた浦和にとっては、2年間チームを指揮したリカルド・ロドリゲス監督の送別試合の意味合いが強かっただろう。前後半で大きくメンバーを入れ替え、実に21人がピッチに立っている。各々がこれまでの教えを体現しようとピッチを駆け、卓越したパスワークと連動性を発揮し、4-2と快勝を収めた。

 もっとも勝敗などは二の次で、この試合の焦点は浦和から羽ばたいたレジェンドの凱旋にあった。長谷部誠、38歳──。今なおヨーロッパのトップシーンで活躍し続けるこの男の一挙手一投足に注目が集まった。

 藤枝東高から浦和に加入したのは2002年のこと。6年間の在籍期間で、ナビスコカップ、天皇杯、リーグ優勝、ACLとすべてのタイトルをもたらした、まさにクラブの歴史を築いた偉大なるプレーヤーである。

 2007年を最後にドイツへと渡った長谷部は、その後、日本代表として埼玉スタジアムで何度も試合をこなしたが、アウェーチームの選手としてプレーするのは当然初めての経験だ。

将来の監督に向けて着々と...

 もっとも10月にひざを負傷した長谷部は、多くの時間をタッチライン際でのウォーミングアップに費やした。ようやくピッチに立ったのは、1−3と2点のビハインドを追いかける75分のこと。大きな拍手で迎えられた背番号20は、コンディションを考慮して無理をしない程度のプレーに終始した。

 それでもパスカットがそのまま決定機につながり、終了間際には枠を捉えるミドルシュートも放っている。決して目立ったシーンはなかったとはいえ、そのプレーからは数々の経験を積み重ねてきた大ベテランの貫禄が漂っていた。

「今日は浦和が勝利に値したと思います。自分たちはブンデスリーガを代表してきているので、もう少しいいサッカーをしなければいけなかった。もう1試合ありますし、そこではもう少し調整できると思うので、大阪ではさらにいい試合をしたいです」

 試合後、長谷部は反省の弁を述べ、11月19日に行なわれるガンバ大阪戦への意気込みを語った。

 わずか15分間に終わったとはいえ、浦和サポーターの前でのプレーには感慨深い想いもあっただろう。

「試合後にグラウンドを一周した時に、浦和時代のものだったり、日本代表だったり、今のアイントラハト(・フランクフルト)だったり、自分のユニフォームを多くの人が掲げてくれていたことに感動しましたし、こんなに幸せなことはないと思います。ここに来れてうれしかったです」

 対峙した後輩である浦和の選手たちのプレーの感想を問われると、「多くの選手が日本人としての強みを持っているなと感じました。監督とも試合が終わったあとに、あの選手よかったねという話をしたんですけど、(どの選手かは)ちょっと秘密にしておきます」と、会見場の笑いを誘う余裕も見せた。

 まもなく39歳を迎える長谷部は、すでにドイツで指導者講習プログラムを受講するなど、将来への準備を着々と進めているという。

 フランクフルトのオリバー・グラスナー監督は「私の目から見て、現在でもプレーする監督に近い。今は選手ですけど、若い選手たちにコーチとしての助言もするし、ゲームを作っていってくれるし、選手たちを鼓舞してくれている。必要な質というものは備えていると思います」と太鼓判を押す。

ブンデスリーガで生き残る術

 一方で、長谷部もEL制覇に導いたオーストリア人指揮官を心酔している様子だ。「彼の分析力だったり、戦術だけではなく、メンタルのところへのアプローチは勉強になります。本当にすばらしい監督で、学ぶことは多いですね」と、指導者の道が念頭にあるのは間違いないだろう。

 それでも、それはまだまだ先のことなのかもしれない。長谷部は最後に現役プレーヤーとしての矜持を示した。

「負けたくない、うまくなりたい、勝ちたい、とかそういう気持ちがなくなったらサッカーを辞めるべき。その気持ちは年々強くなっているので、この歳でもサッカーをやれているんだと思います」

 屈曲な選手が揃うブンデスリーガで、決してフィジカルに恵まれていない長谷部は、頭脳と経験、そして類(たぐい)まれなるリーダーシップを武器に15年にもわたって闘い続けてきた。チーム内にとどまらず、ブンデスリーガでも最年長プレーヤーは、果たしてどこまで走り続けるのか。驚異の38歳のさらなる挑戦に期待したい。