大学ラグビー2022注目選手インタビュー
明治大・石田吉平(4年/WTB)

 大学ラグビーが佳境を迎えようとしている。11月20日、開幕から5連勝中の帝京大と明治大が東京・秩父宮で激突。この試合で今季の大学ラグビーの趨勢が見えるだろう。

 ラグビーファンが見守る大一番で注目したい選手が、大学ラグビー界唯一のオリンピアンとして明治大を引っ張るキャプテンWTB(ウィング)石田吉平(4年)だ。

 高校時代からセブンズの日本代表として活躍してきたスピードランナーは、99代目のキャプテンとなった責務を果たすため、4年になった今季、初めて明治大でのラグビーに集中している。大学生随一のランナーに現在のチーム状況を聞きつつ、個人の将来の目標にも迫った。

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明治大の99代目キャプテンを務める石田吉平

―― 11月6日に行なわれた「慶明戦」は、メンバー外で給水係をやっていました。

「はい。(10月2日の)立教大戦でケガをしましたが思ったより回復が早かったので、慶應大戦をターゲットにやってきました。『試合に出られます!』とコーチ陣に直談判したのですが『今回はみんなを信じろ!』と言われ、渋々『はい......』という感じでした」

―― 12月4日に国立競技場で9シーズンぶりに開催される「早明戦」の前に、11月20日には帝京大との大一番が控えています。

「まずは帝京大戦です。負けると帝京大を勢いづかせてしまうので、僕らが勝って対抗戦で1位になり、大学選手権にいい形で臨みたい。夏は(19−54で敗戦して)いいレッスンをしてもらいましたが、今回負ける気はさらさらありません。続く『早明戦』は学校同士のプライドが激突し、気持ちの入り方も違う特別な一戦。明治大の誇りをかけて戦いたい」

―― 昨季の大学選手権の決勝でも敗れた帝京大に勝つため、なにがカギとなりますか?

「慶應大戦ではフィジカルで相手に勝てましたが、帝京大はもう一段、レベルが上がってきます。ふたりでタックルに入ったり、リロードを早くして、ミスやペナルティを少なくすることが大事。

 帝京大に余裕を与えてしまうと、いろんなことをされてしまう。なので、ディフェンスのラインスピードを上げて80分、相手にプレッシャーをかけ続けたい。また、自分のプレーも研究されていて、相手は『石田吉平!』とフルネームで呼んで(味方同士で)動きを確認してくるので(笑)、アタックでは『隠し球』をいろいろ用意しています」

―― 帝京大では誰を警戒していますか?

「SO(スタンドオフ)高本幹也(4年/大阪桐蔭→)などを筆頭に、僕らの代の『超エリート』が帝京大に進学しました。関西の高校出身者や高校ジャパンに選ばれていた選手も多く、ほとんどが知り合いです(石田は兵庫県尼崎市出身)。

 FWは頑張ってくれると思いますが、帝京大戦では互角もしくは劣勢になるかもしれません。ただ、BKにはいいランナーが揃っていてディフェンスでも引っ張っていけるので、FWを鼓舞してチームで勝っていきたい」

―― 一方、早稲田大との対戦で楽しみにしている選手は?

「やはり『早明戦』で通算3回対戦しているWTB槇瑛人(4年/國學院久我山→)ですね。高校ジャパンでも一緒でしたし、"トイメン(向かい正面)"の相手には負けられません! また、高校時代にユース五輪でチームメイトだったSH(スクラムハーフ)小西泰聖(4年/桐蔭学園→)との対戦も楽しみです」

―― 石田選手は「FWがウリ」の明治大としては珍しいWTBのキャプテンです。

「みんなが僕のことを支えてくれているので、楽しいと感じています。昨季までの僕はあまり自分から発信するタイプではなく、円陣でも後方にいました。しかし、今季はいろんなことを話さないといけないので、個々の選手の意見を聞いて成長できていると感じています。

 春季大会中は『この練習で日本一になれるのか』『もっと言ったほうがいいのか」と、めちゃくちゃ悩みました。それを神鳥裕之監督に相談すると「自分のパフォーマンスをすることでチームを鼓舞することが大事」と言われて吹っ切れました。

 その後は、自分に矢印を向けてチームに還元できればと思い、夏はひたすら個人トレーニングに精を出しました。あまり考えすぎずに、自分から行動することも心がけました。時間ができたら、グラウンドやウェイト場に足を運んでコミュニケーションを取ったりもしました」

―― 個人の話も聞かせてください。石田選手は大学生で唯一、セブンズの日本代表として昨年の東京五輪に出場しました。

「東京五輪に出場することはできましたが、『チームに貢献できたのかな?』というレベルでした。ただ、考えるスタンダードが変わって世界基準になったかも。(バーベルを上げる)クリーンやスナッチで瞬発力と体幹を鍛えたことが、昨季終盤のパフォーマンスにもつながりました。

 現在、体重は74〜75kgくらい。僕とあまり身長が変わらない南アフリカ代表WTBチェスリン・コルビも体重が80kgくらいなので、80kgになってもスピードを維持したら世界基準になれる。だから体重は(スピードが落ちない)ギリギリまで攻めたい。

 たとえば、東京五輪時は(GPSの数値で)時速34kmくらいでしたが、スピードトレーニングを続けていて今は約35km。WTB松井千士(横浜イーグルス)さんやWTB松島幸太朗(東京サンゴリアス)さんは時速36kmくらいなので、僕もそこを目指していますし、コルビなどを模範としながら自分独自のステップを切れるようにもなりたい。

 来春からリーグワンのチームに所属する予定ですが、オリンピックに出場した経験を活かしたいですし、次のパリ五輪への覚悟・想いも大きい。パリ五輪まではセブンズに専念するつもりです。そしてラグビーをやっている限り、15人制でも日本代表に選ばれたい」

―― 同じ年齢のSO李承信(リ・スンシン/大阪朝鮮→神戸スティーラーズ)はすでに15人制の日本代表として活躍しています。

「承信、すごいですね! 中学の兵庫選抜時代、一緒にプレーしていました。同い年のWTB/FBメイン平(御所実→ブラックラムズ東京)もユース五輪でチームメイトでしたし、WTB根塚洸雅(法政大→スピアーズ東京ベイ)は同じ尼崎ラグビースクールの先輩。幼稚園のころから知っている幼なじみで、刺激をもらっています。2個下の帝京大のSH李錦寿(リ・クンス/2年/大阪朝鮮→)も尼崎ラグビースクールで一緒でしたね」

―― 明治大の99代目のキャプテンとして、どんなプレーをファンに見せたいですか?

「アタックでは絶対ゲインし、タックルでは絶対ドミネイト(圧倒)する。そして相手に突破されても自分が一番走るなど、あきらめないプレーを見せたい。

 大学3年時まではセブンズの日本代表に招集されていましたが、4年時は明治大のキャプテンになったこともあって参加を断りました。今季は初めて明治大のラグビーに専念しています。キャプテンの役割はチームを日本一に導くことだと思うので、それを果たしたい」

―― 大学でのラグビー生活も、残り2カ月となりました。

「(4年間は)早かったですね! 明治大はラグビーの環境面が揃っているので、自分に向き合うことができました。もともと僕は地元愛が強く、関西の強豪大学志望でした。ですが、大学生活を東京で過ごした父から「東京で独り立ちしたら必ず成長する。いろいろ発見があるから行ってこい!」と言われ、明治大への進学を決めました。

 今では地元愛より、明治にかける思い『明治愛』が強くなりましたね! 中学時代はチームとして日本一になりましたが、大会直前で骨折してしまいました。明治大に入ってからも大学選手権で優勝できていないので、学生最後に日本一になりたいです!」


【profile】
石田吉平(いしだ・きっぺい)
2000年4月28日生まれ。兵庫県尼崎市出身。2019年、常翔学園高校から明治大学に入学。ポジション=ウィング。身長167cm、体重74kg。