ウマ娘では、バンブーメモリーが憧れるオグリキャップ。史実の2頭は初対決のマイルCSで伝説の激闘を演じた
メディアミックス作品「ウマ娘」のスピンオフコミックである「シンデレラグレイ」(集英社)。その主人公であるオグリキャップのカサマツトレセン学園時代からの物語が描かれた『週刊ヤングジャンプ』での連載は、ついに今週で100話に到達する。連載では、2度目の天皇賞・秋でスーパークリークとの激闘が佳境を迎えているが、モチーフとなった現実においても、この5歳(現4歳、以下旧表記)秋シーズンの激闘が、オグリキャップの名を高めたとも言われている。
1989年のマイルチャンピオンシップを制したオグリキャップと南井克己騎手
GI4戦1勝、2着2回、5着1回。
一見すると、ウマ娘での秋シーズンの出走数か、あるいは、ある馬の生涯におけるGIでの成績にも見える。
ソーシャルゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」では、例えば、秋シーズンに芝GIを4〜5戦することも可能だ。しかし、現実の競馬では3戦でも多い方とされ、近年は実績馬ほど出走するレースを絞り込む傾向が顕著だ。
ところが、5歳の秋、競走馬のオグリキャップは天皇賞・秋(東京・芝2000m)、マイルチャンピオンシップ(京都・芝1600m)、ジャパンカップ(東京・芝2400m)、有馬記念(中山・芝2500m)のGI4戦をフィクション顔負けのローテーションで走り抜き、上記の結果を残したのだ。もっと言えば、この秋は9月にGIIIオールカマー(中山・芝2200m)、10月にGII毎日王冠(東京・芝1800m)にも出走し、それぞれ勝利しているのだ。
この年の春シーズンは脚部不安のため、予定していたレースをすべて回避して休養に充てた。それが功を奏し、秋は予定を繰り上げてオールカマーで復帰し快勝。続く毎日王冠で、この年の天皇賞・春、宝塚記念の勝ち馬イナリワンをハナ差で下した。しかし、天皇賞・秋ではスーパークリークにクビ差及ばず2着に敗れてしまう。
そうして向かったのがマイルチャンピオンシップだ。ここにも強力な同世代のライバルが待ち構えていた。春にオグリキャップが出走予定だった安田記念(東京・芝1600m)を勝利し、秋初戦のスワンS(京都・芝1400m)を制してここに臨んできたバンブーメモリーである。
そのあと何度も対戦することとなる両馬にとって、これが初顔合わせ。オグリキャップが4歳の有馬記念で初GIを獲得すると、その半年後にバンブーメモリーはGI馬となり、5歳の秋になって、ようやくこの両馬が交わることとなった。
「ウマ娘」作中でもオグリキャップはバンブーメモリーにとって憧れの存在として描かれている。
そして、レースはファンの予想以上の、双方の能力と戦術をバチバチにぶつけ合う歴史的一戦となった。
1枠1番のオグリキャップと、3枠4番のバンブーメモリーはそれぞれ単枠指定。
ナルシスノワールが先行する流れを、オグリキャップは最内の6〜7番手で追走し、バンブーメモリーは同じインコースで、そこから2馬身離れた位置でオグリキャップをマークするように続いた。
この日のオグリキャップは、道中でも盛んに鞍上の南井克己騎手の手が動いており、いつもよりも行きっぷりが悪かった。それとは対照的にバンブーメモリーは3コーナー付近から馬なりで進出を開始し、絶好の手応えでオグリキャップの外に並びかけていく。そして、ここで絶妙だったのは、バンブーメモリーに騎乗していた武豊騎手の進路取りだ。
先行勢が壁となり、外に進路を取りたいオグリキャップに対し、スッとその進路を先んじて確保して、オグリキャップを馬群に抑え込んだのだ。直線に向くと、その勢いを活かしてそのまま先頭へ。
一方のオグリキャップはもがきながら、どうにかインに進路を見つけると、ようやくそこからエンジンがかかる。だが、残り200mでバンブーメモリーは2馬身前方。完全にしてやられた。誰もがそう思った。
ここからが伝説となる。
鞍上のムチ連打に応えるように、一歩ごとにインから差を詰めるオグリキャップ。バンブーメモリーも決して脚が上がったわけではない。2馬身がやがて、1馬身、半馬身、クビ、アタマと差が詰まる。ゴールに向けて観客の歓声はみるみるボリュームを増し、両馬の鼻面が揃ったゴールの瞬間、大絶叫に換わる。
内か、外か。
「負けられない南井克巳、譲れない武豊!」
関西テレビの杉本清アナウンサーの言葉は、現在でも名実況として語り継がれている。
競馬で勝っていたのはバンブーメモリーだった。しかし、軍配はオグリキャップに上がった。前走の敗戦を悔いていた鞍上の南井騎手は、レース後のインタビューで涙を浮かべながらオグリキャップを讃えたあとに、こう続けた。
「オグリにまだ借りは半分しか返せていないんで、来週のジャパンカップで倍にして返したい」
競馬史に残るこの激闘は、まさかの連闘で挑むジャパンカップの死闘によってさらに存在を強めることとなるが、この話はまた別の機会に。