ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 秋のGIシリーズ後半戦がスタート。今週は、3歳馬と古馬の「統一女王決定戦」となるGIエリザベス女王杯(11月13日/阪神・芝2200m)が行なわれます。

 昨年は上位人気馬が総崩れとなり、3連単で300万円超えの高額配当が飛び出した一戦。世代間の能力比較が難しく、昔から堅い決着で収まることが少ない印象があります。今年も出走メンバーを見る限り、ずば抜けた存在がおらず、波乱ムードが漂います。そういう意味では、馬券的には検討のしがいのあるレースと言えるかもしれませんね。

 本来であれば、一昨年の三冠牝馬デアリングタクト(牝5歳)が断然の存在となるところですが、秋初戦のGIIオールカマー(9月25日/中山・芝2200m)でまさかの6着。思わぬ敗戦を喫して、同馬に対する信頼性が損なわれた感があります。

 前哨戦ゆえ、通常は取りこぼしがあってもそこまで気にしませんが、今回のデアリングタクトに関しては、その負け方が少し引っかかりました。いくらインの前有利の馬場状態だったにせよ、この馬"らしさ"がまったく見られなかったからです。

 道中は流れに乗れず、最後の直線でもグッとくるものが見られずじまい。これだけ無抵抗のまま敗れてしまったのは初めて。僕の目には、馬のピークを越えて下降線に入ってしまったサインのようにも映りました。

 もちろんこれだけの名牝なので、本番でガラッと変わってくる可能性も捨てきれませんが、年齢的なことを考えても、期待よりも不安のほうが大きい、というのが正直な感想です。

 そうなると、3歳馬の勢いに目が向きます。とりわけ、GI秋華賞(10月16日/阪神・芝2000m)で1、2着となった高野友和厩舎の2頭、スタニングローズ(牝3歳)とナミュール(牝3歳)は人気も集めるでしょうし、注目されます。

 今年のGIオークス(5月22日/東京・芝2400m)は、ラスト4ハロンのラップがすべて11秒台で、勝ち時計が2分24秒をきる決着。レースレベルは標準以上で、掲示板に載った馬たちは世代上位の能力があると考えていましたが、秋華賞はそれを裏づける結果となりました。

 現にオークス2着のスタニングローズが勝利し、同3着のナミュールが2着に入って、オークスの上位3頭の着順が入れ替わっただけ。二冠馬で、秋華賞3着のスターズオンアースを含めたこの3頭は、3歳世代でもアタマひとつ抜けており、これらは古馬相手でも通用するのではないかと思っています。

 そこで、高野厩舎の2頭ですが、上積みという点で言えば、秋華賞前に1戦こなしているスタニングローズより、ぶっつけ本番で秋華賞に参戦したナミュールのほうが、今回は余力がありそう。とすれば、エリザベス女王杯ではナミュールが有利かな、と見ています。

 他では、外国人騎手へと鞍上を強化して臨むサンデーレーシングの2頭、ジェラルディーナ(牝4歳)とアンドヴァラナウト(牝4歳)からも目が離せません。

 いずれも重賞タイトルはGIIのひとつだけですが、ともにもともと将来を嘱望されていた良血馬。どちらも前走で、馬体重をキャリハイまで増やしてきている点も好感が持てます。古馬になって体を大きくしてチャンピオンになった牝馬と言えば、クロノジェネシスやリスグラシュー、グランアレグリアなどが思い出されます。

 こうした充実した状態で腕達者の外国人騎手へスイッチするとなれば、かなり大きな相乗効果が見込めそう。彼らの乗り方ひとつで、首位争いに加わってきても何ら不思議ではありません。

 ここまで名前を挙げてきた面々が今年のエリザベス女王杯で優勝争いを演じると見ていますが、一発あるとすれば、ピンハイ(牝3歳)が面白そうです。


エリザベス女王杯での一発が期待されるピンハイ

 春の二冠でどちらも掲示板に載ったのは、二冠を遂げたスターズオンアースとこの馬だけ(桜花賞5着、オークス4着)。400kgそこそこの小柄な馬ながら、とても立派な成績を残しています。

 新馬勝ち後に挑んだGIIチューリップ賞(3月5日/阪神・芝1600m)で2着に入線した時はフロック視していましたが、そのイメージもその後の二冠の走りを見て完全に覆りました。

 デビュー3戦目でのクラシック掲示板となると、同じ3歳の牡馬で言えば、イクイノックスやダノンベルーガらと同様の功績。どう見ても、只者ではないですよね。

 秋華賞は残念ながら除外されて"三冠皆勤"とはなりませんでしたが、同日に行なわれた3勝クラスで古馬牡馬相手に快勝。初コンビだった川田将雅騎手がメンバー最速となる上がり33秒0の末脚を生み出して、新たな一面も引き出されました。

 立場的に"正攻法で受けて立つ"という馬ではないので、今回もおそらく後方から一発を狙う乗り方になると思いますが、その乗り方に専念できるからこそ、不気味です。

 昨年も上位を独占したのは、序盤で後方に待機していた馬たち。今年も前が少しでも流れる展開になれば、後方待機のこの馬に出番があるかもしれません。

 ということで、ピンハイを今回の「ヒモ穴」に指名したいと思います。