連載・新タワー候補地を″経営″する(1)
新東京タワー建設地の最終候補地となった墨田区。週末の29日には恒例の隅田川花火大会が催され、大勢の人でにぎわう。同区では2011年の新タワー完成を機に、これまで区を支えてきた生活必需品中心のものづくりに加え、観光を新たな屋台骨に育てようと模索中だ。
また、同区では新タワー誘致前から早稲田大学と共同で地域活性化に取り組んでいる。墨田区とはどのような区で、大学との連携で何を目指すのか。
なぜ“隅田区”ではなく“墨田区”なの?
墨田区は1947年3月15日に、北部の旧向島区と南部の旧本所区が一つになって誕生した東京東部の特別区。“墨田”の由来は、隅田川の堤防の通称“墨堤”から「墨」、“隅田川”から「田」を選んで名付けられたからだ。
区の形は、東西の長さは約5キロメートルに対し、南北は約6キロメートルと少し長く、面積は13.75平方キロメートルとなる。東京23区の中では17番目の広さだ。人口は23万6920人、世帯数12万0018世帯(7月1日現在)。山崎昇区長は同区役所職員、助役を経て99年に就任し、現在2期目を務める。
ものづくりの街・すみだ
01年10月の事業所・企業統計調査で、同区の事業所数を産業別で見ると、製造業が5645カ所でトップ。卸売・小売業5316カ所、サービス業2337カ所と続く。ものづくりというと、都内では大田区や品川区の名が挙がることが多いが、墨田区も盛んな地域だ。同区地域振興部の小川幸男・商工担当部長によると、太田・品川両区は第2次世界大戦中の軍需産業を経て電機など大型工業が栄えたのに対し、墨田区は軍服などの軍装品から、戦後は石けんやプラスチック製品などの生活必需品が製造業の中心になったという。
同区の産業の柱である製造業は、高度成長期に区の財政を支えたが、その後は地方や海外へ移転してしまった企業も多い。工場建設のコストや工業廃水などの関係で再誘致は難しく、区外への流出を止めるのが精一杯という。このため、同区では製造業に加えて観光を中心産業として育成していく方針を打ち出した。
区内の中心的な街として、映画館などが集まる錦糸町、国技館のある両国や新タワーからほど近い向島の花街(料亭街)が挙げられる。観光都市を目指すにあたり、区内には伝統的な下町文化が薫る街がある一方、お台場や六本木、表参道にみられるような強力な集客力を持つ施設があまり見当たらないのが実情だ。
なぜ新タワーを誘致したか?
新タワーの建設候補地は、東武伊勢崎線の押上・業平橋両駅の周辺地区で、広さは約6万4000平方メートル。現在墨田区が「広域拠点」として区画整理事業を進めている。押上駅には東武伊勢崎線のほか、京成押上線、都営地下鉄浅草線、東京メトロ半蔵門線の4路線が乗り入れる。
この地域に新タワーを誘致した理由として、山崎区長は宅地化や企業の生産コスト削減による区外への工場流出など、同区の産業の中心である製造業を取り巻く環境の変化を挙げている。「この状況が10年、20年、30年と続いたら墨田区の活力がなくなってしまう。区に多くの人が来てもらう観光しかない」と早稲田大学の学生との討論会で述べている。
一方、観光客を呼び込むにあたり、新タワーはその拠点となるが、周辺地域との共生を目指している。山崎区長は、東京東部全体の活性化を新タワー誘致時から掲げており、隣接する区の観光担当との連絡会を7月に設立した。9月には「観光」と「防災」を柱とした将来のまちづくりの姿を明確にする「グランドデザイン」を発表する。18日には、対象地域の名称を「すみだ中央エリア」とし、「下町文化創成拠点」をコンセプトとするなどの中間報告が公表された。
早大生が地域活性化に挑戦
同区では新タワー誘致開始以前の02年12月に、早稲田大学と事業連携協定を締結した。03年4月からは「地域を経営する」をテーマにした友成真一教授(同大理工学術院)の「地域経営ゼミ」が、区職員や地元企業、商店街を交えた地域活性化の産学官連携に取り組んでいる。
4月から7月までの前期は、学生が同区内の中小企業や区の施設を訪れたり、まちづくりの専門家らが地域経営プロジェクトを進める上で必要な知識を学生に教える形で行われた。5月には区長と学生が「30年後の墨田区」などについて1時間半におよぶ“ガチンコ”討論も行った。
同時に、後期から本格的にプロジェクトを始動する学生が、班分けや活動内容の話し合いなどを行ってきた。来年1月には同区内で行われる報告会で、研究成果を区民に発表する。
◆ ◆ ◆
新タワーを中心とした観光振興を目指す区と、タワーの活用以外のやり方も含めて地域活性化のカギを探る学生たち。4月からの3カ月間で、学生たちはこの地域にどんな印象を持ち、今後どう関わっていきたいと感じたのかを追った。(全4回・つづく)
■連載・新タワー候補地を"経営"する
(4)新東京タワーを建てる意義は?(2006/7/28)
(3)学生それぞれの「すみだ」(2006/7/27)
(2)デザインは相手への思いやり(2006/7/26)
■関連記事
地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ通期の特集・2007/1/24)
新タワー以外の墨田も知って(2006/7/24)
新タワーは"下町文化創成拠点"(2006/7/18)
新タワーと江戸情緒の両立を(2006/5/12)
新東京タワー、墨田区に決定(2006/3/31)
■関連リンク
墨田区・早稲田大学産学官連携事業(平成18年度「地域経営ゼミ」上半期レポート)
墨田区
早稲田大学
また、同区では新タワー誘致前から早稲田大学と共同で地域活性化に取り組んでいる。墨田区とはどのような区で、大学との連携で何を目指すのか。
墨田区は1947年3月15日に、北部の旧向島区と南部の旧本所区が一つになって誕生した東京東部の特別区。“墨田”の由来は、隅田川の堤防の通称“墨堤”から「墨」、“隅田川”から「田」を選んで名付けられたからだ。
区の形は、東西の長さは約5キロメートルに対し、南北は約6キロメートルと少し長く、面積は13.75平方キロメートルとなる。東京23区の中では17番目の広さだ。人口は23万6920人、世帯数12万0018世帯(7月1日現在)。山崎昇区長は同区役所職員、助役を経て99年に就任し、現在2期目を務める。
ものづくりの街・すみだ
01年10月の事業所・企業統計調査で、同区の事業所数を産業別で見ると、製造業が5645カ所でトップ。卸売・小売業5316カ所、サービス業2337カ所と続く。ものづくりというと、都内では大田区や品川区の名が挙がることが多いが、墨田区も盛んな地域だ。同区地域振興部の小川幸男・商工担当部長によると、太田・品川両区は第2次世界大戦中の軍需産業を経て電機など大型工業が栄えたのに対し、墨田区は軍服などの軍装品から、戦後は石けんやプラスチック製品などの生活必需品が製造業の中心になったという。
同区の産業の柱である製造業は、高度成長期に区の財政を支えたが、その後は地方や海外へ移転してしまった企業も多い。工場建設のコストや工業廃水などの関係で再誘致は難しく、区外への流出を止めるのが精一杯という。このため、同区では製造業に加えて観光を中心産業として育成していく方針を打ち出した。
区内の中心的な街として、映画館などが集まる錦糸町、国技館のある両国や新タワーからほど近い向島の花街(料亭街)が挙げられる。観光都市を目指すにあたり、区内には伝統的な下町文化が薫る街がある一方、お台場や六本木、表参道にみられるような強力な集客力を持つ施設があまり見当たらないのが実情だ。
なぜ新タワーを誘致したか?
新タワーの建設候補地は、東武伊勢崎線の押上・業平橋両駅の周辺地区で、広さは約6万4000平方メートル。現在墨田区が「広域拠点」として区画整理事業を進めている。押上駅には東武伊勢崎線のほか、京成押上線、都営地下鉄浅草線、東京メトロ半蔵門線の4路線が乗り入れる。
この地域に新タワーを誘致した理由として、山崎区長は宅地化や企業の生産コスト削減による区外への工場流出など、同区の産業の中心である製造業を取り巻く環境の変化を挙げている。「この状況が10年、20年、30年と続いたら墨田区の活力がなくなってしまう。区に多くの人が来てもらう観光しかない」と早稲田大学の学生との討論会で述べている。
一方、観光客を呼び込むにあたり、新タワーはその拠点となるが、周辺地域との共生を目指している。山崎区長は、東京東部全体の活性化を新タワー誘致時から掲げており、隣接する区の観光担当との連絡会を7月に設立した。9月には「観光」と「防災」を柱とした将来のまちづくりの姿を明確にする「グランドデザイン」を発表する。18日には、対象地域の名称を「すみだ中央エリア」とし、「下町文化創成拠点」をコンセプトとするなどの中間報告が公表された。
早大生が地域活性化に挑戦
同区では新タワー誘致開始以前の02年12月に、早稲田大学と事業連携協定を締結した。03年4月からは「地域を経営する」をテーマにした友成真一教授(同大理工学術院)の「地域経営ゼミ」が、区職員や地元企業、商店街を交えた地域活性化の産学官連携に取り組んでいる。
4月から7月までの前期は、学生が同区内の中小企業や区の施設を訪れたり、まちづくりの専門家らが地域経営プロジェクトを進める上で必要な知識を学生に教える形で行われた。5月には区長と学生が「30年後の墨田区」などについて1時間半におよぶ“ガチンコ”討論も行った。
同時に、後期から本格的にプロジェクトを始動する学生が、班分けや活動内容の話し合いなどを行ってきた。来年1月には同区内で行われる報告会で、研究成果を区民に発表する。
◆ ◆ ◆
新タワーを中心とした観光振興を目指す区と、タワーの活用以外のやり方も含めて地域活性化のカギを探る学生たち。4月からの3カ月間で、学生たちはこの地域にどんな印象を持ち、今後どう関わっていきたいと感じたのかを追った。(全4回・つづく)
■連載・新タワー候補地を"経営"する
(4)新東京タワーを建てる意義は?(2006/7/28)
(3)学生それぞれの「すみだ」(2006/7/27)
(2)デザインは相手への思いやり(2006/7/26)
■関連記事
地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ通期の特集・2007/1/24)
新タワー以外の墨田も知って(2006/7/24)
新タワーは"下町文化創成拠点"(2006/7/18)
新タワーと江戸情緒の両立を(2006/5/12)
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墨田区・早稲田大学産学官連携事業(平成18年度「地域経営ゼミ」上半期レポート)
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