連載・新タワー候補地を″経営″する(2)
早稲田大学の地域経営ゼミ(友成真一・同大理工学術院教授)は2003年から始まり、4年目の今年は25人の学生が受講。例年2倍から4倍の競争率となる人気ゼミだ。
ゼミ生のほかに以前受講し、現在はゼミ生を引っ張っていく役割を担うコーディネーター8人と、学部生を補助するTA(ティーチング・アシスタント)の大学院生2人の計10人がゼミの牽(けん)引役となる。合計35人の学生は「すみだ大サーカス」、「コンタクツ」、「ドスコイ墨田」、「かすみだ関」の4班に分かれ、区職員との打ち合わせや商店街での調査など、学生が自発的に活動している。
質問はコミュニケーションだ
同ゼミは、さまざまな学部から学生が集まる学部横断型を採っている。理工系の学生だけでは質問が出にくいものが、他の学部生を交えることで意見交換が活発になる、と友成教授はメリットを指摘する。「質問はコミュニケーション。わからないことを聞くことだけが質問ではない。質問することを楽しいと思って欲しい」。相手に何かを尋ねることの大切さを理解してもらうのが狙いのようだ。
講師の話が終わると必ず「質問タイム」が設けられ、毎回10人近い学生が手を挙げる。もっとも良かった質問を講師が「ベスト・クエスチョン」に選び、講師の個性が感じられる賞品がプレゼントされる。
意見のやりとりは授業の場だけではない。メーリングリストや、チャットで話し合った履歴を議事録として使うなど、顔を合わせられない試験期間中も、さまざまな形で意見が飛び交っている。
すみだを肌で感じる
前期のゼミでは、中小企業の経営者やまちづくりの専門家、区職員を講師に迎え、地域活性化に直結する内容から、地域経営に求められる問題解決に必要な思考力を鍛えるものまで、多様な講義が行われた。
また、医療機器や携帯電話、F1マシンのエンジン部分など精密メッキを手がける「深中メッキ工業」や、京成曳舟駅近くの「キラキラ橘商店街」、区が運営協力する工場アパート「テクネットすみだ」など、区内の企業や商店街を訪れ、学生たちは現場を肌で感じた。
8月には合宿も行われ、班ごとに区内の人へインタビューを行う予定。後期の本格始動をめざし、地域活性化の具体案策定へ向け、余念がない。
“社会をデザインする”デザイナー
講師として登場したのは、墨田区ゆかりの人。中でも記者が学生に尋ねたアンケートで、「もっとも印象に残った人」との質問で回答が多かったのが、現在も同区を拠点に活動している地元出身のデザイナー、マサミデザイン代表の高橋正実さんだ。社会科学部4年の吉川幸絵さんは「デザイン=相手への思いやり、すべては相手への思いやりという考えに惹かれた」という。
高橋さんは、点字と数字が印刷されたCDが入るサイズの組立型カレンダーを、「ユニバーサルデザイン」という言葉が無かった10年前に作った。デザインを良くすることで、点字のイメージを変え、多くの人にデザイン小物から点字に触れてもらおうという思いがあったという。その後、視覚障害を持つ人の中で点字を読める人は10人に1人という現実を知り、新聞の書体を作っている人と共同で、視覚障害者用文字のデザインもボランティアで取り組んだ。
パッケージとして考えるのではなく、その先まで考える─。“社会をデザインするデザイナー”と自らを位置づける高橋さんが、パッケージをデザインする際のポイントだ。ある会社からシャンプーとリンスのパッケージデザインを頼まれた際、高橋さんは商品名を容器に書かれた文字の中で一番小さくし、「シャンプー」「リンス」の文字を大きくした。「使う人がお風呂場で知りたいのは商品名ではなく、シャンプーかリンスではないのか?」。一方、店頭では商品名で探す買う側の視点を考え、外箱の商品名は大きくした。
「『デザインする』という事の奥深さ、そして高橋さんの物事に対する感じ方、考え方を知って衝撃を受けた。同時に、自分にクリエイティブな仕事はできないと悟った」と自嘲(じちょう)気味の感想を寄せたのは商学部3年の平野峻さん。「背筋があんなに長い時間ぞくぞくしたのは初めて」。理工学研究科修士1年の立川経康さんは、講義で受けた衝撃をこう振り返る。
高橋さんをはじめ、学生たちは「すみだ」で出会った人々からさまざまな影響を受けたようだ。前期の経験から、彼らはどのような“地域経営”を考えていくのだろうか。(つづく)
■連載・新タワー候補地を"経営"する
(4)新東京タワーを建てる意義は?(2006/7/28)
(3)学生それぞれの「すみだ」(2006/7/27)
(1)なぜ新東京タワーを誘致した?(2006/7/25)
■関連記事
地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ通期の特集・2007/1/24)
新タワーと江戸情緒の両立を(2006/5/12)
新東京タワー、墨田区に決定(2006/3/31)
■関連リンク
マサミデザイン
深中メッキ工業
キラキラ橘商店街
墨田区・早稲田大学産学官連携事業(平成18年度「地域経営ゼミ」上半期レポート)
墨田区
早稲田大学
ゼミ生のほかに以前受講し、現在はゼミ生を引っ張っていく役割を担うコーディネーター8人と、学部生を補助するTA(ティーチング・アシスタント)の大学院生2人の計10人がゼミの牽(けん)引役となる。合計35人の学生は「すみだ大サーカス」、「コンタクツ」、「ドスコイ墨田」、「かすみだ関」の4班に分かれ、区職員との打ち合わせや商店街での調査など、学生が自発的に活動している。
同ゼミは、さまざまな学部から学生が集まる学部横断型を採っている。理工系の学生だけでは質問が出にくいものが、他の学部生を交えることで意見交換が活発になる、と友成教授はメリットを指摘する。「質問はコミュニケーション。わからないことを聞くことだけが質問ではない。質問することを楽しいと思って欲しい」。相手に何かを尋ねることの大切さを理解してもらうのが狙いのようだ。
講師の話が終わると必ず「質問タイム」が設けられ、毎回10人近い学生が手を挙げる。もっとも良かった質問を講師が「ベスト・クエスチョン」に選び、講師の個性が感じられる賞品がプレゼントされる。
意見のやりとりは授業の場だけではない。メーリングリストや、チャットで話し合った履歴を議事録として使うなど、顔を合わせられない試験期間中も、さまざまな形で意見が飛び交っている。
すみだを肌で感じる
前期のゼミでは、中小企業の経営者やまちづくりの専門家、区職員を講師に迎え、地域活性化に直結する内容から、地域経営に求められる問題解決に必要な思考力を鍛えるものまで、多様な講義が行われた。
また、医療機器や携帯電話、F1マシンのエンジン部分など精密メッキを手がける「深中メッキ工業」や、京成曳舟駅近くの「キラキラ橘商店街」、区が運営協力する工場アパート「テクネットすみだ」など、区内の企業や商店街を訪れ、学生たちは現場を肌で感じた。
8月には合宿も行われ、班ごとに区内の人へインタビューを行う予定。後期の本格始動をめざし、地域活性化の具体案策定へ向け、余念がない。
“社会をデザインする”デザイナー
講師として登場したのは、墨田区ゆかりの人。中でも記者が学生に尋ねたアンケートで、「もっとも印象に残った人」との質問で回答が多かったのが、現在も同区を拠点に活動している地元出身のデザイナー、マサミデザイン代表の高橋正実さんだ。社会科学部4年の吉川幸絵さんは「デザイン=相手への思いやり、すべては相手への思いやりという考えに惹かれた」という。
高橋さんは、点字と数字が印刷されたCDが入るサイズの組立型カレンダーを、「ユニバーサルデザイン」という言葉が無かった10年前に作った。デザインを良くすることで、点字のイメージを変え、多くの人にデザイン小物から点字に触れてもらおうという思いがあったという。その後、視覚障害を持つ人の中で点字を読める人は10人に1人という現実を知り、新聞の書体を作っている人と共同で、視覚障害者用文字のデザインもボランティアで取り組んだ。
パッケージとして考えるのではなく、その先まで考える─。“社会をデザインするデザイナー”と自らを位置づける高橋さんが、パッケージをデザインする際のポイントだ。ある会社からシャンプーとリンスのパッケージデザインを頼まれた際、高橋さんは商品名を容器に書かれた文字の中で一番小さくし、「シャンプー」「リンス」の文字を大きくした。「使う人がお風呂場で知りたいのは商品名ではなく、シャンプーかリンスではないのか?」。一方、店頭では商品名で探す買う側の視点を考え、外箱の商品名は大きくした。
「『デザインする』という事の奥深さ、そして高橋さんの物事に対する感じ方、考え方を知って衝撃を受けた。同時に、自分にクリエイティブな仕事はできないと悟った」と自嘲(じちょう)気味の感想を寄せたのは商学部3年の平野峻さん。「背筋があんなに長い時間ぞくぞくしたのは初めて」。理工学研究科修士1年の立川経康さんは、講義で受けた衝撃をこう振り返る。
高橋さんをはじめ、学生たちは「すみだ」で出会った人々からさまざまな影響を受けたようだ。前期の経験から、彼らはどのような“地域経営”を考えていくのだろうか。(つづく)
■連載・新タワー候補地を"経営"する
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(3)学生それぞれの「すみだ」(2006/7/27)
(1)なぜ新東京タワーを誘致した?(2006/7/25)
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地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ通期の特集・2007/1/24)
新タワーと江戸情緒の両立を(2006/5/12)
新東京タワー、墨田区に決定(2006/3/31)
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墨田区
早稲田大学