「地域経営では地域の資源を最大限に生かすことが大切」と語る友成真一教授=5月25日、早稲田大学で(撮影:吉川忠行)

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ものづくりを中心とする街から「ものづくり+観光」の街へ向け、かじを切った墨田区。2011年完成予定の新タワーは「観光都市すみだ」の中心的な役割を担い、強力な集客力を発揮することが期待されている。都内で来訪者が多い街は、新宿や渋谷、表参道など西部地域に集中しており“西高東低”の様相を呈している。墨田区が新タワーを誘致した背景には、新タワーの完成で、同区だけではなく浅草を擁する台東区など、周辺地域との連携で東京東部を活性化したいという思いがある。

 一方、新タワー完成で、本当に周辺地域が活性化するかについては、疑問の声もある。建設予定地は押上・業平橋両駅に隣接しており、新タワーを中心とした再開発地域の外にある周辺の商店街に立ち寄る必然性が生じない。地域経営ゼミ(友成真一・早大理工学術院教授)の学生たちは「すみだ」そのものの魅力を引き出すことで、タワーに依存しない地域活性化の道を探っている。

地域の“モノ”や“ヒト”をどう使う?

 「地域経営をやりたいと大学側に持ちかけたんです」。友成教授は、同大と墨田区が産学官連携に至ったいきさつをこう振り返る。大学と地域の連携というと、大学を誘致するやり方が思い浮かぶが、地域経営ゼミのように、地域の人たちと学生が関係を築いていくほうが有意義な連携だと話す。

 同ゼミでは、来店するだけで客が得をするポイントシステムを商店街で導入するなど、その地域にすでにある“モノ”や“ヒト”をどう利用し、発展させるかを主眼に置き、学生が地域活性化策を検討している。この考え方は、同教授が経営について「持てる資源を最大限に活用し、目的達成を極大化する行為」と定義しているところから来ているようだ。

 ゼミが始まって間もない5月、財団法人本庄国際リサーチパーク研究推進機構の佐々木滋生さんは「地域住民がどうしたいかを考慮しないで専門家が絵を作ってしまった」と、従来のまちづくりの問題点を指摘した。地域住民がどういう街にしたいかを、住民自身が提案できるようにしていくのが、今後のあり方ではないかと述べた。こうした失敗を防ぐために佐々木さんは「個人と個人の交流がいかに広まるか」が重要だと語り、友成教授も現場で人と人とが接する「超ミクロの世界」の大切さを強調する。

 地域活性化の取り組みは、最低でも5年、10年の単位で考えていく性質のもので、1年間で結果を出すことは不可能に近い。政治経済学部4年の佐々木知範さんは「何かを変えるのは継続性が必要だと思う。せめて波を起こして終わらせたい」と語った。

新タワーを建てて何をしたいのか

 墨田区は新タワーを中心とした観光都市の育成を進めている。しかし、同区や事業主体となる東武鉄道と地元の3者で、今後計画が進むにつれて思惑が異なってくる可能性がある。

 「新タワーを建てて何をしたいのか」という目標設定が、観光で活性化したいという視点にとどまらず、これをどう掘り下げていけるかによって、新タワーが一時的な観光名所で終わるか、真の意味での地域活性化の起爆剤になるかが分かれてくる。

 東京東部の活性化を成功させるためには、形式的な地域と企業・自治体の話し合いではなく、ひざ詰めの議論をしていく必要がある。新タワーのデザイン監修についても、建築家の安藤忠雄氏と彫刻家の澄川喜一氏だけではなく、墨田区にゆかりのあるデザイナーを交えれば、また違った見方が加わり、新タワーと地域の新たな関係性が生まれてくるのではないだろうか。

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 新タワーによる地域活性化が、既存の“箱モノ”による活性化とは違った結果を出すためには、地元地域が持つ資源を最大限に活用し、新タワーを誘致した意義を常に問い続ける必要があるだろう。【了】

■連載・新タワー候補地を"経営"する(全4回)
(3)学生それぞれの「すみだ」(2006/7/27)
(2)デザインは相手への思いやり(2006/7/26)
(1)なぜ新東京タワーを誘致した?(2006/7/25)

■関連記事
地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ通期の特集・2007/1/24)
新タワーと江戸情緒の両立を(2006/5/12)
新東京タワー、墨田区に決定(2006/3/31)

■関連リンク
墨田区・早稲田大学産学官連携事業(平成18年度「地域経営ゼミ」上半期レポート)
墨田区
早稲田大学