新東京タワーと周辺地域のイメージイラスト(提供:東武鉄道)

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新東京タワー建設地に決まった墨田区。2006年11月にはデザインも決まり、現・東京タワーが開業50周年を迎える08年には着工、地上デジタル放送に切り替わる11年の開業を目指す。同区は東京の東部に位置し、情緒あふれる下町の風景が残っている地域だ。生活必需品中心のものづくりが長らくこの街の基幹産業となってきた。

 大学がない同区では、新タワー誘致前の03年から早稲田大学と産業、教育、文化、まちづくりなど包括的な分野で産学官連携に取り組んでいる。その一環で、必ずしも一年間で成果を求めずに、長期的な視野で地域の活性化に取り組む、一風変わったゼミが区内で進行している。友成真一・同大理工学術院教授の「地域経営ゼミ」だ。

新タワー誘致に成功したけれど

 六本木、お台場、汐留、表参道──。ここ数年都内で行われた大規模開発の大半は、港区周辺の街で行われた。第二次大戦前、東京の繁華街といえば、浅草や両国といった東京23区の東側に位置する街がほとんどだったが、戦後は新宿、渋谷をはじめとする西側に中心が移ってしまった。近年の再開発でその勢いは加速する一方だ。

 新タワーの事業主体である東武鉄道の東京の玄関口は古くからの繁華街・浅草。街の活気が都内で「西高東低」であることを憂慮した東武は、05年に同区とともに新タワー誘致に参戦。わずか1カ月の誘致運動で新タワー建設「優先候補地」の座を勝ち取り、その1年後の06年3月には「建設地」に決定した。

 新タワー誘致に成功したことで、同区は従来の製造業中心から観光都市への脱皮を図る。高度成長期に同区の財政を支えた製造業だが、近年は工場が地方や海外へ転出。跡地がマンションに変わった状況では、企業誘致は難しい。一方で、“下町情緒”というキラーコンテンツを持つ同区にとって、新タワーが強力な集客ツールになることは間違いない。

 地元では新タワー誘致を歓迎する声が聞かれる一方、街の活性化に疑問を投げかける声もある。新タワー併設の商業施設に進出が予想されるのは、東武系列をはじめとする大手のショッピングセンターやレストラン。結果として潤うのは再開発地域の中だけで、地元商店街や他の観光地への波及効果は乏しいとの見方も根強い。

 「今は静かな住宅地だけど、タワーが出来たらどうなるんだろう」──。新タワー建設地近くで居酒屋を営む男性は、期待と不安が入り交じる思いを語った。新タワーの完成で周辺地域は住宅地から観光地に一変する。住環境の変化や商店の客層の変化を不安に思う人がいるのも事実だ。新タワーを起爆剤に「観光都市すみだ」へ転換を図りたい同区や、日光や鬼怒川温泉と並ぶ新たな沿線観光地に育てたい東武と、地元の間には意識にズレがあるように見える。

地域が持つ資源を最大限に生かす

 早大の地域経営ゼミでは、地域が元来持っている良さ、人材などの資源をフル活用して「価値の最大化」に取り組む。これは地域を「経営する」という視点で活性化を捉えているからだ。今年度で4年目を迎えた同ゼミは、例年2倍から4倍の競争率となる人気講座の一つ。

 さまざまな学部から集まった25人の学生たちは、新タワー建設地周辺の居酒屋や、下町情緒あふれる商店街などを舞台に、地元の人を巻き込んだ活動を行ってきた。学生の多くは、ゼミ終了後も何らかの形で「すみだ」に関わり続けている。

 もともと、地域活性化は短期間では大きな成果は見込めず、最低でも5年から10年の歳月を費やして初めて形になるものと言われる。果たして、学生たちはどのような「活性化のタネ」をまいたのだろうか。(全4回・つづく

■特集・地域活性化は誰のために
第4回 新タワーは地域のDNAになるか
第3回 商店街が子どもを育てる!
第2回 高校生とまち歩きで地元再発見

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墨田区・早稲田大学産学官連携事業
Rising Eastプロジェクト(東武鉄道・新東京タワー)