※この記事は2020年06月30日にBLOGOSで公開されたものです

東京は都知事選の真っ只中。コロナ感染者の推移も心配だけど、4月あたりはこんな閉じこもりでまともな選挙が出来るのかと思ってたから、普通に選挙が進んで良かったよ。

とはいえ、街頭演説とか人を集めたいけど密集できない、この板ばさみがもどかしくて大変だな。そのぶんテレビやラジオのマスコミで都知事候補たちの中身が知れるよう、いつも以上にやってほしいね。

報道にケチつけた安倍首相 テレビ局が委縮

選挙期間になると途端にマスメディアは「放送法で政治的な公平を守らないといけないんです」なんてさ、俺もこれまでテレビやラジオの現場で「告示期間は候補者の名前はいっさい口にしないでください」なんて釘刺されたよ。腫れ物に触るみたいになるんだよな。

これさ、何年か前に安倍さんがニュース番組に出て、番組の内容に文句つけたときがあったよね。あれからますますマスコミが委縮してんだよな。あれはいつだったっけ編集部? ええと、2014年11月の「NEWS23」(TBS)か。詳しくはどういう流れだった内容?

なになに、――安倍さんが「NEWS23」に生出演。番組が「景気回復の実感はありますか?」という質問を東京と大阪の街頭でインタビューしたVTRを流したんだな。すると「景気が良くなったとはあまり思わない」「アベノミクスの恩恵は感じてない」「大企業しか実感がわからないのでは」と安倍さんに厳しい意見が多く並んだ――。

ああ、そうだったな、――そしたら安倍さんがむくれて、「これは私に批判的な意見を意図的に多く放送している、そうでない意見ももっと流すべきだ」って抗議したと。要するに賛否両論それぞれを公平に取り上げるべきだと――。

これさ、「賛否両論を公平に取り上げるべき」っていうのが、一般論としてはなるほどその通りだなって思えるかもしれないけど、なんのことはない、「アベノミクスはどうですか?」って街で聞いたらただ単に「効果がない」って意見が多かったってことだろ?

なんだ編集部? そのとき「NEWS23」で街頭取材を実際にしたスタッフが後に明かした話があって、実際のインタビューでは「アベノミクスの実感がない」「景気わるい」って批判の意見がホントに多くて、放送ではむしろ批判の意見をかなり削っていた・・・。アハハハハ。安倍さんに気を使ったのに、安倍さん怒っちゃったんだ。

その「NEWS23」のひと悶着があってからだよ、自民党の高市早苗さんが総務相でさ、国会でテレビ局脅したんだよな。――「テレビが政治的に公平性を欠いた発言を繰り返せば、電波停止もありうる」とか言ってな。あれで各局がビビっちゃったんだ。

なんでそんなことになるかっていうと、結局は電波って免許事業だからさ、お上に許可された民放ってすごく旨味があるんだよ。安い電波料を国に払って、高い収益を上げている。お上に逆らったらその旨味を取り上げられちゃうって。

そうしてますます官邸や総務相の顔色を窺い出して、「政治を公平に伝える」ってことが、政治を「国民に向けて」公平に伝えるから、政治を「政権向けて」公平に伝えるほうにずるずる傾いていったんだな。

「公平」ってとても大事。だけど重要なのは、それが誰にとっての「公平」なのかって話だよ。

泡沫候補を取り上げない都知事選報道

そこで、あらためて都知事選の話だけど、やっぱりマスコミは「公平」をカタチだけ装っているんじゃないの? 全部で22人が立候補してる。そこで有力候補と泡沫候補で線引きをして、その扱いはまったく別ものになってる。

極端に言えばバッサリと区別して、有力候補数人の動向だけを等分に伝えればOK、泡沫候補は十把ひとからげで一瞬だけ映しておけばOKとなってる。扱う量がまったく違う。それが放送法の公平なのかい? そして、そういう放送を見続けている視聴者もそれが普通なんだ当然なんだと思い込んでる。

俺は泡沫候補の肩を持つわけじゃないよ。なにしろ、泡沫候補と言われるような候補者には理解しがたい変人もいる。まじめにやれコノヤロウ! って、後ろからゲタで引っぱたきたくなるような候補者もね。

でも、有力候補と泡沫候補をまるで当然のように区別する習慣って、力のない人の声は聞かなくていい、少数派は切り捨てても仕方ない、なんだかそういう考え方を無言のうちに広めてるような気がするんだよ・・・。どうかな?

前に誰かさんが選挙のときに、考えの違う一派に対して「排除いたします」って言って波紋を呼んだろ。「排除」ってなんだか冷たい言葉だなって印象をみんな抱いたよね。「排除」とは表立って言わないけどマスコミの選挙報道って「排除」の上に成り立ってるよ。

マスコミが「政治を公平に伝える」っていうなら、候補者全員をもっとありのままに映す機会を増やしてほしいね。だったら政見放送があるじゃないか、って声が聞こえてきそうだけど、あれは自己紹介だから初めの一歩、レベル1だよ。

次のレベル2は、ほら「候補者に聞く」とか言って、各局の女性アナウンサーが候補者を個別にインタビューしたりするのがよくあるだろ。女性アナウンサーが相手の公約をなぞるだけで、候補者を持ち上げてちっとも切り込まないやつ(苦笑)。あれはアナウンサーのせいじゃないから責めないよ。局の方針でやってるんだもんな。ああいう「候補者に聞く」というインタビューでいいから、候補者の痛い処をどんどん突っこんで、相手を困らせるようなインタビューをしてほしい。

候補者同士が噛みつきあう公開討論が見たい

それからレベル3で見たいのはやはり公開討論。それぞれの公約や政策を、候補者同士が互いに突っつきあう。国政選挙だと報道番組で党首討論がたまにあるけど、あれって、せっかくみんな揃ってるのに司会者が時間の「公平」を仕切り過ぎて、みんな個々に発言してるだけなんだよな。「続いては経済対策についてお聞きします」なんて、ひとつのテーマを出しちゃあ、それに個々が回答してるだけ。あれは討論じゃない。単なる一問一答。政見放送で済む情報だ。

俺が見たいのは司会者を飛び越えて候補者同士が自由に噛みつきあうヤツ。司会は仕切るんじゃなく煽る! そうして言い合いになると、集まった候補者たちが、自己主張だけの人物なのか、相手の意見を聞ける人物なのか、政策の勉強をしている人物なのか、ただの役立たずなのか、意外にも感心できる人物なのか、自然と見えてくる。

今回の都知事選、公開討論ってネットの番組でやるぐらいでテレビでは皆無なんだって? ホントにそれでいいのかね? 民放テレビって、朝からずっとワイドショーと再放送だろ。BSも通販番組と再放送が多いよ。選挙期間にこそそういう公開討論を「朝まで生テレビ!」みたいに時間をたっぷりとって放送してほしいよ。

人ってさ、集まって顔を突き合わせてフェイストゥフェイスで話しあうと、人柄や人間性がより見えてくるんだよ。俺はそういうラジオを50年以上やってるからわかるよ。だから候補者たちがワイワイとやりあって、揉みあって、つかみあって、つばぜりあいになる、そういうバトルロイヤルから候補者の中身や本質が出てくる様子をじっくり見たいよ。

選挙期間のマスコミには、色んな都合の上に成り立った「浅い公平」ではなく、有権者の為にもっとたっぷりと踏み込んでくれる「深い公平」を目指してほしい。

・・・そうそう、俺の知りあいに「公平」って名前のヤツがいたなぁ・・・。きっと親が「この子は誰にでも公平ないい子になりますように」って願ってつけた名前だと思う。だけどそいつ、上にはヨイショで下には厳しく、女の好みも細かくて、どう見ても「不公平」なヤツだったよ(笑)。全国にはそんな不公平な公平さんが他にもいそうだな(笑)。

ふう、ちょっと語り過ぎたかな。ここで一服するか。これを「コーヘーブレイク」という、なんつってな(笑)。

(取材構成:松田健次)