焦って強硬策に走るトランプ、どこへ向かうのか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗
※この記事は2020年06月19日にBLOGOSで公開されたものです
アメリカから世界へ、人種差別に抗議するデモがまたたくまに広がった。きっかけは、5月下旬にミネソタ州で発生した黒人男性の死亡事件。白人警官に道路上で首を強く押さえつけられて、黒人のジョージ・フロイドさんが命を落とした。事件の背景に、いまも根強く残る黒人差別の問題があるとして、各地で差別に抗議するデモが起きている。「Black Lives Matter運動」と呼ばれるこの動きを、田原総一朗さんはどう見ているのか。話を聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】
トランプの強硬策に国防長官が反発
いまから約50年前、アメリカに取材に行ったことがある。1973年。黒人解放運動のリーダーだったキング牧師が暗殺されて5年後のことだ。
1960年代の黒人解放運動は、黒人対白人の凄まじい戦いだった。しかし、1973年に僕がアメリカを訪れたとき、闘争の拠点はみな、なくなっていた。だから、黒人差別の問題はもうケリがついたのかと思った。
それから36年後、バラク・オバマが黒人初の大統領に就任した。それを見て、アメリカは新しい時代となり、黒人と白人の対立も解消に向かっているのだろうと感じた。しかし、実際はそうではなかった。
今回の問題で驚いたのは、デモに起因する騒乱に対応するため、トランプ大統領が「軍の投入も辞さない」と発言したことだ。
しかしこの強硬姿勢に対しては、国防長官が反対し、前国防長官も強く批判した。結局、トランプは強硬路線を転換せざるをえなくなったが、彼の政治姿勢には白人至上主義的な側面が見える。
そもそも、トランプが4年前の大統領選挙で当選したのは、経済的な苦境に陥っていた白人労働者の支持を得たことが大きい。反グローバリズム、アメリカ第一主義の政策が彼らの共感を呼んだ。
それまでアメリカでは、ヒト・モノ・カネが国境を越えていくグローバリズムが進展し、企業が人件費の安い国外へどんどん出ていった。その結果、かつての工業地帯が廃墟同然になり、多くの白人労働者が失業することとなった。
そんな貧しい白人層は、トランプが唱える「アメリカさえ良ければ、それでいい」という自国中心主義を支持し、大統領選挙での勝利の原動力となった。
トランプは「アメリカが世界のために犠牲になっている」と主張し、グローバリズムを批判する姿勢をとった。移民にも反対で、メキシコとの国境に壁を作ると明言した。
そんな反グローバリズムの主張と今回の問題への強硬姿勢は通じるところがある。
特に最近は支持率が下がり、大統領選挙での再選に黄色信号が灯りだした。トランプは焦っている。そのため、さらに国外でも国内でも、強硬な姿勢を打ち出す傾向が強まっている。
たとえば、WHOと中国政府の関係を批判して、WHOからの脱退を表明した。これもトランプ流の世界分断政策だが、国内外で批判する声は多い。
はたして、トランプはどこへ向かうのか。
新型コロナウイルスの影響で大きく下落したアメリカ企業の株価は、コロナ感染の収束傾向とともに急回復している。トランプの支持率も同様にV字回復するのだろうか。
現在は暗雲が垂れこめている。
差別は日本にもネット上にもある
差別の問題は日本にもある。いま日本人の多くが自信を失っていて、韓国や中国の悪口を書いた本が売れる。差別というのは、弱者がさらに弱いものを叩くときに生まれやすいのだ。
SNSでも誹謗中傷が大問題になっており、若い女性のプロレスラーが亡くなった。彼女は番組の中でヒール役を演じたことで大バッシングを受け、SNSに大量の罵詈雑言を受け追い込まれてしまった。
自粛警察もそうだ。
ちょっとしたことでも、気に入らないことがあると集団で叩く。週刊誌なども誰かを悪者にしてバッシングすることによって部数が伸びる。
いままでは、社会に対して発言できるのはテレビ・ラジオ・新聞などのマスコミだけで、いわばプロだけだった。それがSNSの普及により誰でも社会に向けて発信できるようになった。
僕は個人が発信することによって多様性の時代になると思っていたのだが、なぜか逆の方向へ向かい、同調圧力が非常に強くなってしまったのは残念である。