※この記事は2020年06月18日にBLOGOSで公開されたものです

新型コロナウイルスの感染拡大により、繁華街とりわけ銀座の街への風当たりが強くなったのは3月下旬のことだ。都が人混みへの不要不急の外出自粛を要請しているなか、銀座の高級クラブでクラスターが発生。しかし、「なぜ銀座だけがここまで世間から目の敵にされなくてはいけないのか」と、ある銀座クラブのAママは悩んでいる。店を再開したくても、いつになっても開けない。銀座がそんな状況に陥ったのはなぜなのだろうか。

銀座の街を“壊滅”させたのは誰だ

4月7日にデイリー新潮が報じた、『売れっ子ホステスの告白 「夜の街」がコロナまみれになったワケ』では、“ある繁華街”のホステスが衝撃の内容を告白した。そのホステスが働いている大手グループでは、従業員の10%強がコロナ陽性となった。

しかし、同グループはこういった状況を従業員の女性たちや客に伝えることなく、営業を続けた。グループ全店舗が休業になったのは3月26日のこと。この暴挙が大クラスターの原因となったのはいうまでもないが、某週刊誌記者の男性曰く、この“ある繁華街”は銀座だというのだ。4月中旬、Aママに確認を取ってみると、このように返ってきた。

「銀座という街は狭いところですから、すでにその噂は広まっています。店名もすでに回ってきていますが、そのグループは銀座でもかなり大手のところですよ。そういった力のある店が勝手なことをしたせいで、もう銀座は地獄と化しました。怖がって誰も街に来るわけがありません」

Aママの店は3月の下旬にすでに営業を停止。2月、3月と店を開いていたものの売り上げはまったくあがらず、女の子への給料や家賃など合わせて400万円近くがただ出ていくという状態に。街の人出はガクッと減り、ブランド品が陳列されていたショーウィンドウも強盗対策のため軒並み空になった。

銀座のママ「松本人志はなにもわかっちゃいない」

さらに4月5日放送の『ワイドナショー』では、松本人志が「ホステスさんが休んだからといって、(その補填を)我々の税金では、俺は払いたくない」という旨の発言をした。差別的な発言に批判も集まったが、「ボロ儲けしていい生活をしているのだから不必要」という意見もわからなくはない。しかし、Aママは大いに反論する。

「松本さんは銀座の街にあまり行ったことがないんじゃないですか。それか高級クラブにしか行ったことがないか。銀座には現在でも1500店舗ほどのクラブがありますが、そのすべてが大儲けしている? 何を言っているのでしょうか。たしかに一晩に500万円も使うような客が来るクラブもありますが、ほとんどは一般のお客様を相手にしているんです。ましてや日本は長らく不況で企業の接待交際費も落ちづらくなりました。赤字になる月もあるくらいですよ」

一方で、ボロ儲けしているようなクラブでも、店側だけが得をするシステムになっているという。高級クラブと呼ばれる店では、女の子は時給制ではなく売上制(日給+歩合)で働くことがほとんどだ。銀座で広く使われている売上明細書を見るとわかるが、チャージが5種類もある。そして客が支払う総額が大きい店になればなるほど、このチャージ料金は膨れ上がっていく。

しかしこのチャージ料金、女の子の歩合には影響しない。さらに高級クラブともなれば美容院代、衣装代、着付け代など経費もバカにならない。もちろんこの経費は女の子持ちだ。なかには総額に対して「tax」と称し、30%も上乗せするクラブもある。法外な料金のクラブでも、大金を儲けているのは基本的には店側だ。すべてのホステスが贅沢な生活をしているなど、幻想にすぎないとAママはいう。

「この前はあるドキュメンタリー番組に月に1億円を売り上げると銘打って、ある銀座ママが出演していましたが、それがコロナで収入が減ったからといって世間はどう思うでしょうか。これがスタンダードと思われてしまうわけですから、銀座では大ひんしゅくをかっていますよ」

売上制で借金 吉原のソープランドに移るケースも

では一般的な銀座のホステスたちは、どんな生活を強いられているのか。その一例を、銀座でスカウト業を営む男性が教えてくれた。

「時給制で働いている子たちは昼職と兼業している場合が多いから、収入がゼロになるということは少ない。でもみんなそれぞれ事情があって銀座で働いているのだから、ダメージがないわけはないよね。問題は売上制で働いている銀座一本の子たち。歌舞伎町や錦糸町のキャバクラに泣く泣く移ったり、地方で風俗嬢(出稼ぎ)になった子もいる。スカウトマンとしてはこの現状は非常に胸が痛むよ」

また、銀座のクラブホステスの由香さん(仮名・24歳)はこの街の暗い側面を話す。

「売上制で働くことの大きなデメリットは、自分のお客様がツケを払わずに逃げた場合、肩代わりをしなければいけないことです。六本木によくいる半グレたちを綺麗にした感じでしょうか。派手に遊ぶけど、なんの仕事をしているのかはわからない。でもきちっと背広を着ているものですから、騙されてしまう子も多いんです。1000万円単位の借金を背負わされる子もいます。そんなことが山ほどあります」

そういった子たちが向かう先は、吉原のソープランドだ。銀座のクラブと吉原のソープランドが裏で繋がっていることなど多々あり、「1~2年吉原に行ってくる」なんてケースは珍しいことでもなんでもないという。結局、風俗のほうが楽に稼げるといってそのまま吉原から帰ってこないことも。その吉原もいまや危機に陥っているのだから、ホステスたちの不安は計り知れない。

「銀座の有名クラブ“S“は、女の子をソープに落とすことで有名です。ソープからバックももらうので、客が逃げても店としてはむしろ得なんです。その”S“の本丸のオーナーは政治家と絡んだりもしていますから……。

歌舞伎町や六本木の繁華街はなんだか、なあなあになって動き出していますよね。世間も『もうやっていいんじゃないか』という感じになってきました。でも銀座だけは、『銀座の格』とか『銀座のクラブたるもの』など、そんなことを言われる。品格に誇りを持ってコロナが終息するまでは耐え続けますなんて、そんな綺麗ごとでどうにかなるほど綺麗な街ではないですよ」