持続化給付金をピンハネしといて仕事ができない御用会社の情けなさ - 毒蝮三太夫
※この記事は2020年06月16日にBLOGOSで公開されたものです
俺さ、「コロナは人の真の姿を映し出す鏡」だってことを前に言ったけど、ここのところ次から次にそういう姿があぶり出されてくるね。今度は「持続化給付金」の中抜き問題だよ。経産省からこの事業を受注した「サービスデザイン推進協議会」ってのが、絵に描いたような中抜きで、幽霊法人、お友だち法人、トンネル法人、ドロボウ法人、ペーパー法人、癒着法人・・・ってキリがないね(苦笑)。
この「サービスデザイン推進協議会」って、これまでも経産省の仕事をたんまり請け負ってたんだろ? ええと、「過去4年間で経産省から14件の事業、約1600億円を受注」か。そして今回は「769億円」の事業を請け負って「20億円」を中抜き。ため息が出ちゃうね。
ちょうどプロ野球開幕だから球団の話をするけど、「億」を稼ぐって大変だよ。プロ野球のチームが年間でどれぐらい利益出してるか、ちょっと編集部で調べてくれよ。・・・なに「阪神タイガースは純利益が年間約10億円」・・・1年間であれだけのファンがチケット買って甲子園に詰めかけ、グッズやビールやたこ焼きを買ってくれて、そこから選手やスタッフに年棒払って、収支差し引いて利益が10億円。
この10億円には、選手の汗とか練習とか、ファンの喜んだり悔しがったりする思いとか、球団関係者や球場スタッフの日々の働きとか、色んなものが積み重なって生まれたものだってのを感じるよ。
でも、「サービスデザイン推進協議会」が中抜きした20億円って、誰かがどこかでそれに値する「労働」があったのかって想像ができないんだよな。同じ金なのに。なんだ編集部、「ヤクルトスワローズはずっと赤字続きで、去年やっと1億円の黒字が出てファンも涙してます」・・・同情するよ(苦笑)。俺はジャイアンツファンだけど、たまにヤクルト飲んで売り上げに貢献するよ。長屋のつきあいだ。
五輪延期で稼げなかった電通・パソナへの穴埋め
それにしてもこの「サービスデザイン推進協議会」って、国からずいぶんと大きな事業を請け負う割に、こうして問題になるまでホームページすら無かったんだろ。言われてあわてて急にこしらえたんだってね。そんな団体が、コロナで窮地に立たされてる全国の事業者が今日か明日かと待ったなしで利用したい「持続化給付金」に関わってるんだから複雑な思いだよな。
この団体に実際に関わってるのが「電通」とか、竹中平蔵さんとこの「パソナ」って人材派遣会社だろ。これって、要するに官邸の「御用会社」だよな。電通もパソナも東京オリンピックにからんで今年はたんまり稼ぐ予定だった。だけど五輪延期でこの状態だから、官邸もその穴埋めにコロナ関連の事業を「御用会社」に卸しているわけで、わかりやすい出来レースだよ。
あのさ、「宮内庁御用達」ってあるだろ。あれは天皇家が認めたという大きな信用の証であり、すばらしいブランドになる。だから「宮内庁御用達」となった業者はその看板を守るため、いい加減な仕事なんてできないよ。
国の事業を直で請け負う「御用会社」は「政府御用達」だ。そうなったらその看板に見合う質の高い仕事をするべきであり、貰った分に値するレベルの仕事をしてくれれば何の問題もないんだよ。中抜きしようが丸投げしようが、結果としてきちんと仕事を果たしてくれりゃいいんだ。
ところがこの「サービスデザイン推進協議会」ってのは、国からたんまりと予算を受け取って持続化給付金の事業を請け負っておきながら、「申請して一ヶ月たっても振り込まれない」とか「コールセンターに問い合わせても全然つながらない」とか、仕事がずさんだってことがダメなんだ。
電通ってのは日本一の広告代理店として多くの実績があり、大小様々な事業を仕切る力があるから、官邸や経産省に食い込んで仕事を請け負ってるわけだろ。なのに電通という日本を代表する大企業が「仕事ができない」「使えない」っていうことのほうが嘆かわしいし、大問題だと思う。中抜きや丸投げよりも、「仕事ができない」「使えない」ってことが罪深いね。
竹中平蔵さんとこの会社も同じだよ。中抜きでボロ儲けしてもいいから、それに見合う仕事を迅速にきちんとしてくれって話だよ。
だって給付金の遅い速いが、事業者の資金繰りを左右するんだろ。多くの人の人生を預かる事業なんだからね。
結果的に国は仕事の遅い連中を選んで、そこに仕事を回したわけだ。経産省幹部だか中小企業庁長官だかの前田さんって人にはその責任があるよね。
「いい中抜き」と「悪い中抜き」がある
俺ね、「中抜き」には「いい中抜き」と「悪い中抜き」があると思うよ。いい中抜きは、抜いた分の責任を果たすってことだ。仕事を回した下請け先が、万がいち納期に間に合わないとか、仕事に穴を開けそうだとか、そういうピンチになった時に駆けつけて、きっちりケツ持って仕事を果たす、それがいい中抜き。
悪い中抜きは、抜くだけ抜いてあとはヨロシク、何かあってもケツ持たないで責任だけ押しつける。しかも手柄が出た時に現れて「あれはウチがやらせたんですよ」とか言って手柄を横取りするヤツ(苦笑)。
中抜きって、よく言えば「紹介料」「仲介手数料」「中間マージン」。俗に言うなら「ピンハネ」か。黙ってかすめ取るってことだな。あらかじめ話をつけてあとから吸い上げるのが「キックバック」。似てるけど、黙って取っちゃうピンハネのほうがタチが悪いかな。
寄席演芸の世界ではピンハネすることを「ぎる」って言うよ。「あのプロモーターがギャラをぎりやがった。ホントは10万円の仕事なのに俺にくれたの3万だよ。7万もぎりやがった」なんてね。金を「握る」って処から来た言葉らしい。
それから「かする」って言葉もよく使われてたよ。「物をかすめる」「かすりとる」って処から来てるんだろうな。ちょっと抜き取るんじゃなく、丸々取ってっちゃうのを「あのヤロウ、そっくりかすりやがった!」なんて言うの。
まあ、昔はそういう「ぎる」「かする」が日常茶飯事だったよ。寄席演芸の世界は芸人だろうとマネージャーだろうと興行師だろうと、その仕事を持ってきた人間が幹事で、ギャラを払ってくれる人なんだ。今と違って現金が右から左にそのまま動くからね、「ぎる」も「かする」もその人の胸先次第。
だから元の依頼主からたっぷり予算が出てる時に、「いいスポンサーだから、いつもよりギャラはずむから頼むよ」なんて正直な人もいれば、「わりぃ、いつもより渋いけど頼むよ、なっ」なんて拝みながらウラで「ぎって」、拝んだ手の平に万札隠してるヤツがいたりとかね(笑)。
中でもとくにタチが悪いヤツは「ケツケバ」なんて言ったな。ケツの毛羽まで引っこ抜いちゃう強欲ってことだ。そういう噂は仲間内ですぐに伝わる。「あの事務所のマネージャーはケツケバだから、仕事誘われても受けないほうがいいぞ」なんてさ。
立川談志に「ぎられた」思い出
昔の話だけど立川談志に誘われて日活の映画に出たことがあったんだ。談志と監督が知り合いで撮影してて、俺はワキ役で出番もそこそこ、にぎやかしみたいなもんだった。終わって談志から1万円ぐらい貰ったのかな。まあ、お車代に色がついたようなもんで身内価格だよ。高い安いなんて別に気にもしなかった。仲間の仕事をちょっと手伝ったって感じでね。で、撮影のあとに談志が「助かったよ」なんて言ってさ、美味いものご馳走してくれたの。ケチな談志にしては気前がいいなって思ったんだ。
しばらくして談志に会った時に「こないだご馳走になったな、ありがとよ」って言ったらさ、「ああ、あれなら気にするな、どうせお前のギャラだから」って言うの。聞いたらさ、談志は監督からワキで呼ぶ役者のブッキングも任せられて、その予算を何十万って貰ってたの。普通だったら俺も5万か10万か貰えてたんだ。それを何食わぬ顔で1万円で済ませて、ぎりやがってた(笑)。
談志に「ひでえな」って言ったら、「お前がギャラをもっと寄こせって言ってりゃ、こっちはあるんだから出したんだ。要求しないほうが悪い」だって(笑)。談志らしいよ。でも、あいつが可笑しいのはそういうことを自分から言うんだよな。「お前のギャラをぎってやった」って。だからこっちも笑っちゃうしかないんだ。
その談志が新宿末廣亭にトリで出てた時の話があるよ。人気者だったから二階席まで連日満員、談志は高座から客席眺めながら「これはすごいワリが出るぞ」って期待してたんだって。寄席のギャラは「ワリ」と言って、客の数が多ければ多いほど上がる。言うなれば歩合制だな。舞台から客席を見てればどれぐらい客が入ってるか見当がつくからざっくり皮算用できるんだ。
そうしてトリの高座を10日間終えて、当時のお席亭だった北村銀太郎さん、芸界では名物だった重鎮のお席亭から談志はワリを受け取った。そしたら思っていたより少ない。明らかに見合う分が入ってない。すかさず談志は文句を言った。「ちょっと待ってくれ、いくらなんでもこのワリは少ねぇ、ひでえよ!」。すると銀太郎さんが辺りを伺って声をひそめ、談志にだけ聞こえる声で「あのな、俺には囲ってる女が何人かいて金がかかるんだ・・・」って言った。談志も談志で「ううう、わかった、そりゃしょうがねえ」って(笑)。金よりもシャレを優先する談志も粋なもんだよ。
俺は談志に「シテヤラレタ」。だけど銀太郎さんは、筋金入りのしみったれで通ってたあの談志を「シテヤッタ」。上には上がいたってことだ(笑)。
ぎったりぎられたり、それが単に金にがめついだけの話ではなく、人間くささがあってなんだかいいよな。
だけど今の日本で起きているのは別の話。国民の血税に関わることだからね。仕事ができるならともかく仕事ができないのに金だけ抜いてく連中は許しがたいよ。国民にとってそれは只の「盗賊」だよ。
(取材構成:松田健次)