※この記事は2020年03月07日にBLOGOSで公開されたものです

「倒産件数は4年ぶりに増加」アパレル不況は拡大しているのか

帝国データバンクによると、

1 アパレル関連企業の倒産件数は、前年比2.4%増の252件となった。2016年以降、3年連続で前年を下回る減少基調で推移していたが、2015年以来4年ぶりに前年を上回った

2 負債総額は前年比92.4%増の579億9100万円で、2014年以来5年ぶりに増加した。負債規模「1億円未満」の小型倒産が減少している一方、「50億円以上」の大型倒産が3件発生しており負債総額を引き上げた

3 業態別にみると、倒産件数は「卸売業」が前年比3.8%増の109件、「小売業」が同1.4%増の143件となった。また、負債総額は「卸売業」が同43.7%増の256億7800万円、「小売業」が同163.2%増の323億1300万円となった

アパレル関連企業の倒産動向調査(2019年)

とのことです。

この結果だけをみて、2019年が特別に売れない年だったということには簡単には結び付きません。企業が倒産するのは多くの場合、そんなに急激ではないからです。何年間かの不振が重なって倒産するので、2019年に倒産件数が増えたというのは、それまでにダメージが蓄積していたアパレルが多かったということになります。

また、増加に転じたといっても件数は2・4%増と微増ですので、それほど増えていませんが、負債総額は50億円以上の大型倒産が3件発生したため、大幅に伸びています。ここだけをみれば、何年間かにわたるダメージを蓄積していた大手が2019年にはついに支えきれなくなって倒れたと考えられます。

一方、アパレル小売市場規模は、ここ数年大きく変化していません。2019年度の統計はまだ発表されていませんが、2013年から2018年までは9兆3000億円台~9兆2000億円台で推移し続けています。2019年の市場規模にもそう大きな変化はないと思われます。市場規模がほぼ横ばいで推移しているので、全体的な売れ行きは不調とも好調ともいえません。

しかし、世間的には「アパレル不況」と認識されていますし、例えば三陽商会やライトオンなどのような著名企業が苦戦しています。また、売上高が伸び悩んでいたり減少しているアパレルも珍しくないため、「アパレル不況」という実感を強く持ってしまいます。

ここから導き出される可能性は2つあります。

1、 負け組と勝ち組の格差が激しくなっている。一部の勝ち組と大多数の負け組とに分かれる。
2、 売上総数が減っていないということは、アパレル業界の企業数が減っていない。

という2つです。

ユニクロ、しまむら…売上の大半を大手が占めるアパレル業界

まず、1について考えてみましょう。

アパレル業界での売上高1位は、ユニクロとジーユーを擁するファーストリテイリングです。2位は、売上高5500億円前後のしまむらとなっています。

ファーストリテイリングの売上高は、海外の売上高を含めると 2兆2000億円を超えます。国内の売上高をみてみるとユニクロは約8700億円、国内店舗がほとんどを占めるジーユーも2000億円超となっており、この2ブランドだけで国内売上高は2兆円を超えます。

また、近年足踏み状態が続くしまむらですが、海外店舗数は少なく、5500億円のほとんどは日本国内で稼いだ売上高です。ユニクロとジーユー、そしてしまむらの売上高を合計すると1兆5000億円となり、国内の市場規模の6分の1を占めます。如何にこの上位2社の売上高が大きいのかがわかります。

ユニクロはともすると成長率の鈍化で「不振論」を唱えられやすいですが、国内売上高が8500億円を超えてもまだ売上高が伸び続けているという点は驚異的といえます。成長率の鈍化が問題視されますが、金額ベースでいえば100億円、200億円という規模で売り上げを伸ばしているのです。

100億円、200億円規模といえば、アパレル業界でいえば大手の一画とみなされます。また、1年間で100億円、200億円の増収を見込めるアパレルはほとんどありません。どれほどユニクロの強さが圧倒的かおわかりになるのではないでしょうか。そして、ユニクロとは補完関係にあるジーユーも売上高2000億円を超えました。

この2社に加えて、この10年で成長が目覚ましい「現在の」アパレル大手の売上高をみてみると、グローバルワークやローリーズファームを展開するアダストリアは売上高2200億円規模に到達、ユナイテッドアローズは売上高約1600億円、アースミュージック&エコロジーなどを展開するストライプインターナショナルはグループ全体では売上高1200億円規模、チャオパニックやスリーコインズのパルグループは約1300億円となっています。

多くの売れていない負け組アパレルと、売上高を寡占化する勝ち組アパレルの格差は開くばかりです。そのため、負け組アパレルがいくら不振に陥っても一握りの勝ち組の売上高は増えているので、市場規模は横ばいという結果になると考えられます。貧困率は高まっていても一握りの富豪によって各国のGDPが押し上げられているのと似た構造だといえます。

コンサルタントの河合拓さんは

これに対してアパレル業界は、(従来は別分類されていた小売りも含めた衣料品販売という括りで統計すると)某コンサルティング会社の試算によると、2018年度、上位10社で市場全体の40%を占め、残りの60%は約2万社弱がひしめき合う超ウルトラ・ロングテール産業で、さらに、その上位10社の中でファーストリテイリング 1社が約20%も占めている。

と、記事中で書いておられますが、統計データはないものの、状況証拠から分析すれば、国内のアパレル業界の構造はそれと近い物になっているといえるのではないでしょうか。

倒産で企業数が増えるアパレル業界の構造

2つ目の問題を考えてみましょう。

上位何社かの成長で市場規模が横ばいを保たれているという可能性について考えてみましたが、それでも河合さんの言葉を借りれば残り60%の負け組がいるわけですから、ここが激減すれば市場規模全体も幾分か縮小するはずです。

しかし、現状ではそうなっていないということは、倒産件数が増えてもプレイヤーである企業総数は変わっていないのではないかと考えられます。

アパレル企業総数は減るどころか、逆に増えているのではないかというのが個人的な感想です。

理由はこれまた2つあります。

まず1つ目ですが、アパレル業界は昔から倒産が日常茶飯事でした。そして倒産すれば、アパレルは分裂して増えるのです。業界に馴染みのない方はいささか面妖に感じられるかもしれませんが、それがアパレル業界の特性なのです。

例えば、Aという大手アパレルが倒産したとします。Aは5つのブランドを展開していたと仮定します。

この場合、倒産後どうなるのかというと、残党とも呼べる社員がそれぞれ独立して小さなアパレル企業を設立します。場合によっては、5つのブランドがそれぞれ独自会社として独立することもあります。

そうなるとA社が1社なくなった代わりに、新たに5社のアパレル企業が増えたということになります。アパレル業界というのはそういうことを何十年も前から繰り返してきました。

その習性は今でも色濃く残っており、倒産すれば残党がそれぞれ会社を作るということの繰り返しです。そのため、企業総数は減るどころか増えている可能性が考えられるのです。

インターネットの普及で新規ブランドが乱立

2つ目ですが、アパレル業界の参入障壁が異常なまでに低い点が挙げられます。

アパレルは、美容師や歯医者などと違って、独立開業するために必要な資格は一切ありません。そのため、カネさえあれば、ド素人でもすぐさま参入できます。それでも昔は商品の製造先を探すのに一苦労しました。縫製工場も探さねばなりませんし、服を縫うための生地を買う先も探さねばなりません。

しかし、インターネットの普及によって、縫製工場や生地の買い先を探すことも昔に比べれば容易になりました。また、「ヌッテ」や「シタテル」といったインターネットを活用した製造とのマッチングサービスも数多く出現し、製造先を探すことはより一層容易になったといえます。

またOEM・ODMを請け負う企業も数多くありますから、そこにとっかかりができるだけでオリジナル商品を誰でも作れるようになったのです。

また、こうした業界状況に加えてSNSの発達によって、多数のフォロワーを集める「インフルエンサー」が、素人であってもオリジナルで服を作りやすくなったため、さらに新規参入が加速。D2Cブームも手伝って毎日数多くの新規ブランドが誕生しています。

消費増税、新型コロナ拡大で2020年のアパレル倒産件数に懸念も

2000年頃にも、タレントや読者モデルが立ち上げたブランドが多数乱立しましたが、その当時と今では異なる部分があります。当時は、タレントブランドのほとんどが、アパレル企業のバックアップで成立していました。有名なところでは、ジュンが展開した梨花さんのメゾン・ド・リーファーでしょう。

しかし、今のインフルエンサーブランドはアパレル企業がバックアップするのではなく、IT企業などの異業種がバックアップしています。どうしてそういうことができるようになったのかというと、先にも述べたようにインターネットを介したマッチングサービスの発達とOEM・ODM企業の林立です。

もともと低かった参入障壁がさらに低くなり、今では無いに等しい状態だといえます。

勝ち組と負け組の格差の激化と、参入障壁の異常な低さによるプレイヤーの増加、この2つが今のアパレル企業が置かれている状況だといえます。

何も大きな出来事がなければ2020年も横ばいだったと考えられますが、消費税増税による消費意欲の低下と、新型コロナウィルス騒動によって、2020年のアパレル倒産件数も負債総額も増えるのではないかと思われます。果たしてどうなることでしょう。