なぜ自民党は安倍首相のイエスマンばかりになったのか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗
※この記事は2020年02月28日にBLOGOSで公開されたものです
新型コロナウイルスの問題で社会が混乱する中、国会では「桜を見る会」をめぐる疑惑の追及が続いている。さらに東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題が加わり、安倍内閣は防戦に追われている。「政権の末期症状」との指摘もあるが、なぜこのような事態になっているのか。ジャーナリストの田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】「いいかげんさ」が極大化している自民党
「桜を見る会」をめぐる疑惑は、昨年11月に共産党の田村智子議員が参議院予算委員会で「安倍首相が後援会の関係者を多数招待しているのではないか」と追及したことに端を発する。それまで野党もマスコミも取り上げなかった問題に、共産党が斬り込んだ。それがきっかけとなって、安倍内閣は厳しい追及を受けるようになった。
内閣支持率も低下している。産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が2月24日に発表した世論調査では、支持率が36.2%なのに対して、不支持率が46.7%となり、1年7カ月ぶりに不支持率が支持率を上回った。国民の多くは、安倍首相の説明に納得していない。
先日も、「桜を見る会」前日の夕食会が開かれた「ANAインターコンチネンタルホテル東京」の領収書をめぐって、安倍首相の答弁とホテル側の回答が食い違っていることが明らかになり、国会が大混乱となった。
いまや安倍首相が説明しようとすればするほど、ボロが出てしまうという展開になっている。
昨年の秋、共産党がこの問題を取り上げた直後、自民党の幹部たちに問いただしたことがある。いったいなぜ、こんなことが起きたんだ、と。
かつての自民党ならば、共産党が究明する前に、党の内部で自己規制して、ここまで問題は大きくならなかっただろう。ところが、いまは自民党内の「いいかげんさ」が極端になりすぎているのではないか。
自民党の幹部からは、反論も弁明もなかった。
桜を見る会は、政府が公表している開催要項によれば、参加資格がかなり限定されている。しかし実際には、それとは関係のない安倍首相の後援会の人間も多数招待されている。
民主党政権のときも、政治家が自分の後援会の人間を招待しようという動きはあった。しかし、第二次安倍政権になって、その規模がどんどん大きくなった。「いいかげんさ」が極端になって、歯止めが効かなくなったのだ。
本来ならば、自民党の実力者が「そのようなことはやめよう」と言わないといけないのに、むしろ自分たちの後援者もどんどん招待しようという動きになった。もはや神経が麻痺しているとしか思えない。
自民党内では、安倍首相がおこなっていることに対して「やめたほうがいい」とストップをかける抑止力が働かない。チェック精神が全くなくなってしまった状態だ。
根本的な問題は「小選挙区制」の弊害にある
問題の根本的な原因はどこにあるのか。僕は「選挙制度」にあると考えている。つまり、中選挙区制から小選挙区制への変更がいまの事態を招いている。小選挙区制になって、自民党の候補は一つの選挙区から一人しか立候補できなくなった。当選するためには、党の公認をもらうことが不可欠だ。そのため、自民党の議員たちは党執行部のご機嫌を取らないといけない。
その結果、どの議員もみな、自民党総裁である安倍首相のイエスマンになってしまう。さらに、議員も官僚も安倍首相の意向を「忖度」して、先回りして動くようになる。
たとえば、森友学園の問題では、国有地を不当に安い値段で払い下げたことが追及されたが、安倍首相自身が「値段を下げろ」と指示したわけではない。周囲の人間が忖度して動いている。
自民党の議員も官僚も、安倍首相のやりたいことを「忖度」して、実現させてしまう。
かつての自民党は、そうではなかった。党内に反主流派や非主流派の議員がいて、主流派と激しい論争をしていた。多くの首相は野党との戦いに敗れて退陣したのではなく、反主流派・非主流派との論争に負けて、その座を追われることになった。
ところが、いまの自民党には論争が一切ない。この異常事態を作り出している根本原因は「選挙制度」にある。
このような事態を変えるために、選挙制度を小選挙区制から中選挙区制に戻すべきではないか。そんな問いを自民党の幹部に投げかけたことがある。第二次安倍政権の幹事長経験者である石破茂と谷垣禎一の二人だ。
しかし、二人の答えはいずれも「中選挙区制に戻すことは反対だ」というものだった。中選挙区制にすると、どうしても表に出せない金が必要になる。つまり、かつてのような金権政治が復活してしまう、というのだ。
実は、野党からも「中選挙区制に戻したほうがいい」という声はなかなか出てこない。現在の議員は小選挙区制で当選した議員だから、そもそも選挙制度を変えようという意見が出にくいという面がある。
マスコミも、金権政治の防止や政権交代の推進のために「小選挙区制の導入」を支持したという過去がある。そのため、中選挙区制に戻せという論調が大きくならない。
しかし、森友・加計問題から「桜を見る会」疑惑まで一連の動きを見ると、小選挙区制が大きな弊害をもたらしているといわざるをえない。選挙制度の改革を真剣に考えるべきときではないか。