不倫の経済効果は5兆5000億円 不況になると不倫が増える人間の性 - 田野幸伸
※この記事は2020年02月12日にBLOGOSで公開されたものです
不倫、してますか?連日報道される、有名人の不倫。
週刊誌の売上を支えているのは不倫ネタといっても過言ではないでしょう。
そんな不倫がもたらす経済効果は年間約5兆5000億円。日本のGDPの約1%に相当するというから驚きです。中高年の性愛事情に詳しいエコノミストの門倉貴史氏に、不倫とお金の関係についてじっくり伺いました。【取材:田野幸伸 撮影:弘田充】
不倫の経済効果は5兆5000億円
ー不倫の経済効果が5兆5000億円もあると知り驚いています。不倫は道徳的に認められるものではない、ということが大前提ですが、かなりのお金が動いているのは紛れもない事実で、5兆円を超える経済規模になっています。
ーどのようなお金が使われることで、5兆円という規模になるのでしょうか。
まず、不倫をしている人の年齢別構成が出ているのですが、男性の場合、40代から60代の不倫率が高く、40代で26%、50代で28.9%、60代で23.8%が現在進行形で浮気や不倫をしていると答えています。
日本人の50代くらいですと、収入はかなり上がっている。年功序列賃金は崩れてきてはいるものの、それでもある程度は経済的に余裕があり、既婚の人が多いということで、この世代の人たちが不倫にお金をいろいろ使っているわけです。
映画やテーマパークなどのデート代やプレゼント代、飲食費やホテル代などをあわせると、月2回の不倫で6万円、年額で72万円の出費となります。
ー不倫はお金がかかるんですね。
これは平均値なので、かなりばらつきもあります。余裕のある人はもっとプレゼントにお金を使っていますね、車とかマンションとか。
40代から60代の既婚男性の人数に不倫率を当てはめると、500万人弱が不倫をしていて、その人たちが年間72万円使うと、3兆5000億円を超える計算になります。
ホテルやレストラン、テーマパークなどにそのお金が支払われることで、企業の収益が上がってきます。そうすると、そこで働いている従業員の給料に回って、その人たちが消費を増やしてくれる。そういった二次的な経済波及効果も計算に入れると、5兆円を超えてくるわけです。
さらに、この数字は計算が甘いところがあって、これは男性側だけの数字なんです。
ダブル不倫の場合を除いて、既婚の女性が独身の男性と不倫しているケースはこの数字に含まれていません。実際の金額はさらに大きくなっていると考えられます。
ーお金に余裕のあるマダムが若い男性と付き合っているパターンもありますね。
そういったケースも実際に増えてきているんです。
景気が悪くなると不倫が増える
ー景気が不倫に影響を及ぼすことはあるのでしょうか。景気との関係で言いますと、景気が悪くなると不倫が増える傾向にあります。
景気が悪くなってくると、会社の業績が悪くなり、リストラされたり給料が下がったり、あるいはサービス残業させられたりと、なにかとストレスが溜まってきます。
家に帰ってくると今度は奥さんから「甲斐性なし」と言われ、家でもストレスを抱えることになりがちです。そのストレスのはけ口として、不倫に走りやすくなってしまうのではないでしょうか。
女性の方も不景気になって旦那さんの給料が減ってくると、旦那さんに対するリスペクトの念がだんだん薄れてきて、他の男性の方が魅力的に見えてきてしまい、不倫が始まる。
男女ともに不倫が増えやすいというわけです。
逆に言うと、不景気の時に不倫が増えるということなので、ある程度不倫が景気を下支えする効果もあるかもしれません。消費が増えますから。
ー景気が悪くて懐が寒いから不倫してる場合じゃない、とはならないんですね。
不倫の単価は下がってきますが、不倫する人の割合が増えるので、全体で見ると金額は大きくなります。
不倫の経済効果が5兆円だとすると、日本のGDPは500兆円くらいですから、1%に相当します。これは日本の平均的な成長率くらいになります。
学費返済に困ってパパ活を始める学生も
ーここ数年で耳にするようになった「パパ活」が経済に与える影響はどうでしょうか。パパ活の明確な定義は「肉体関係がない」ということになっていますが、現実には肉体関係にまで踏み込んでいるケースも少なからずあると聞きます。
女性側で言うと、学生がパパ活をやっていることが多いと思うのですが、学費が上がってきていて、奨学金を受けている人などが返済していくのが厳しくなっている現状があります。
これまではキャバクラなどで働けば、簡単にお金を稼げるというのがあったんですけれども、若い男性の「お酒離れ」や「恋愛離れ」といった草食化が進んでいて、キャバクラに行く人数がすごく減ってきている。
そのため、キャバクラが供給過剰になり働き口がなくなってきています。
そこで安易にお金を稼ごうということになると、手っ取り早いのが「パパ活」とか「ギャラ飲み」。そんなインセンティブが強まってきている気はします。
ーパパ活が成立するということは当然パパがいるということですよね。
パパ側は不倫と同じく40代から60代ぐらいの男性が多いのですが、平均的な収入はアベノミクスが始まってからも上がっていません。一方で格差が広がっているため、勝ち組と負け組の差が大きくなっています。
勝ち組の人にとってみると、相当な金銭的余裕がある上に、この世代の人は肉食系が多いんですね。そうすると需要と供給がマッチして、パパ活のパパになってくれる人は結構出てくるのかなと。
入ってきただけ使ってくれる港区女子
ーパパ活もそうですが、「港区女子」という言葉もよく聞きます。こういった女性が経済に与える効果はいかがでしょうか。港区女子にも年齢の幅がありますが、若い時に味わったセレブ体験が結婚した後もずっと忘れられない方が多くいらっしゃいます。
行動経済学で「ラチェット効果」と言うのですが、1回生活水準を上げてしまうと、収入が下がっても生活水準が高いレベルのまま続いてしまう、ということがあります。
小室哲哉さんが収入が落ちたのに生活水準を下げられず、金銭的に困窮して詐欺容疑で逮捕された事件がありましたよね。人間はそういうことが起きやすいのです。
ちょうどバブル期に就職していた方が、今50代前半ぐらいなんですが、世代別に消費性向を調べると、どの年代になってもバブル期の成功体験があった方の消費性向はめちゃくちゃ高いんです。そういった生活を維持するために、不倫で援助してもらうようなことがあったりするのかなと。
バブル後の世代でも港区女子は消費性向が高いので、もらったお小遣いでブランド品のバッグとか高級品をバンバン買う。そういったお金が回りまわって景気を刺激する効果はありますね。
ーお金が入っただけ使ってくれる。
デパートなんかはこういう方々の恩恵を受けている部分があるのではないでしょうか。百貨店は今消費がどんどん落ち込んできているので、インバウンド頼みになっているんですが、不倫で入ってくるお金っていうのもバカにできないのかなと。
不倫でコスパを意識するのは女性側
ー不倫ってそもそもコストパフォーマンスが悪くありませんか。年間72万円も払うならたくさん風俗に行けると思うのですが。不倫でコスパを意識される方もいるとは思うんですが、収入がダントツに高い層の不倫率が高いでしょうから、そういった裕福な方は風俗には行かず、むしろお金にものを言わせて楽しむ方を選ぶのではないでしょうか。
ーダントツの勝ち組はコスパとか考えないんですね…。
逆に不倫する女性の方が結構コスパを気にする部分というのがあって、女性は不倫をするかどうか悩んだときに、不倫から得られるメリットとデメリットを比較する人が多い傾向にあります。経済学的に考えると、不倫をすることのメリットがデメリットを上回るから人は道徳上許されない不倫に走るのです。
最近では、このデメリットの金額が下がってきているんです。
不倫のデメリットというのは、不倫がバレた時に旦那さんから離婚をつきつけられるとか、不倫相手側から慰謝料を請求されるとかなんですが、不倫が発覚してもうちの旦那は離婚を切り出さないんじゃないか、と楽観視する人が増えています。
専業主婦の不倫の値段は以下の式で計算します。
これに実際の数字を当てはめると、
不倫が露見する確率:5%×夫が離婚に踏み切る確率:32.8%×[45歳から49歳の平均年収629万円(2014年)+不倫慰謝料の平均額534万円(婚姻期間15年~20年)]=19万732円
デメリットは年間19万円とかなり安いのです。不倫のメリットが年19万円以上あると思えば、不倫をするという判断になるんですね。
不倫が見つかる確率がかなり低く見積もられているように思いますが、女性にはバレないようにできるという自信があるのだと思います。
ーセックスレスも不倫に踏み切る要因になりますか。
例えば旦那さんが働きすぎて、精神的・体力的に疲れ切ってしまい、インポテンツになってしまうことがあります。それに不満を持った奥さんが不倫に走ってしまうというケースが考えられます。
また、夫婦間はセックスレスでも、夜の生活はダブル不倫で別々にパートナーがいるというパターンもあります。
不倫できる人とできない人の二極化が進む
ー不倫は勝ち組の特権のように感じてきました。勝ち組は年収がもともと高く、そもそも高学歴の方が多いんです。こういった方というのは、結婚の時期が早い。
結婚の条件に「三高」と言われた時代がありましたよね。高収入・高学歴・高身長。
女性が結婚したい相手に該当すると思うので、引く手あまたになって若いうちに結婚するケースが多いんです。
だんだんと年を取ってきても、年収が高い状態は続きますし、肉食系の方が多いので、不倫やパパ活をしやすいという傾向にあります。
逆にずっと独身でいる方というのは、年収がそもそも低く、なかなか結婚ができない。将来結婚をしても生活が成り立たない不安があるので結婚しない。
そして女性はそういった方を結婚対象として選ばないので、ずっと独身の状態が続いてしまいます。
不倫も当然できないですし、遊興費に回す余裕もない。そういう形で二極化が進んでいるのかなという気がしています。
時系列で恋愛と経済の関係を見ていくと、若い男性はどんどん恋愛から離れていっています。恋人のいる人の割合を定期的に調査しているデータがあるんですが、2015年の最新調査では18歳から34歳の独身男性の7割くらいが「恋人はいない」と答えており、恋人がいないのが当たり前になっているのです。
なぜそうなるのかと言うと、経済的な余裕がないことが一番大きい。年金への不安、社会保障制度への不安が強いので、収入があっても消費ではなく貯蓄に回す。それが若い世代の特徴です。
【関連記事】恋愛が若者にとって「コスパが悪いもの」に変わったのはなぜ?グラビアアイドル倉持由香が中央大学山田昌弘教授に聞いた
「若者の○○離れ」とかよく出てきますけども、若者は消費にあまり興味がなく、恋愛にも興味がない。恋愛に興味がないから、デート代も出てこないし、プレゼント代も出てこないという形で、恋愛に使うお金の比率というのはすごく減ってきています。
逆に上の世代の方は収入も安定しているし、ある程度経済的にも余裕がある。年金制度もまだ持つだろう、自分たちは逃げ切れると思っているんですね。
ですから将来に対する不安もあまりなく、恋愛にも強気と言いますか、奥さんはいるんですけれども、それプラスアルファで不倫も楽しもうと。
もちろんそういった人のなかでも、格差は開いているので、勝ち組のなかでも上の層の人たちは不倫やり放題と言ったら語弊があるかもしれないですけれども、自由にやれると思います。
ーそこから生まれている経済効果が5兆5000億円あるというのが現実。
不倫は道徳的に問題ではあるんですが、現実にお金が出ていってるわけで、消費で世の中の景気を良くしている側面は事実としてあるのかなと。
お金で買える愛の値段は281万円?
ー愛の値段を試算したデータがあるとか。これはアクサ生命が行った試算なのですが、結婚相手に求める理想の年収から、本当に好きな人だったら年収いくらまで妥協できますかという金額を聞いて、その差額を「愛の値段」としています。その平均金額が281万7000円。
理想の年収も下がってきてはいるんですけれども、最低ラインで500万円以上欲しいという人は多い。ですが実際には格差が開いているので、年収500万円なんて到底届かない人がたくさんいるんです。条件に届かない人は結婚のスタート地点にすら立てない。
ー男性の平均初婚年齢が31.1歳。30歳で年収500万円超えてる人ってだいぶ減ってますよね。
かなり減っています。格差が広がっているので、平均年収はそんなに変わらなくても、非正規雇用などでどんどん下の人数が増えていっている。
年収500万円を早い段階で達成している人は引く手あまたで結婚していって、そういった人は経済力もあるので余ったお金で不倫する可能性が高いのです。
ー年収が高いということは、仕事ができる人の可能性が高いですよね。ビジネスで結果を残せる人はアグレッシブな人が多いイメージがあります。
男性ホルモンのテストステロンが多い人は競争心が強く、結果を残すことや勝つことにとても強いこだわりがあります。なのでそういった人は仕事でも成功する可能性が高いと考えられています。また、テストステロンは性欲を高める効果があるので、夜の生活もかなり貪欲と言いますか、競争心が強いので他の男性が連れてる女性を奪ってやるとか、そういう気持ちも強いのかなと。
ー動物としてはそうですよね。猿山のボスザルじゃないですけど。
生物学者の方は、生物学的には一夫多妻制が自然なスタイルだと言います。オスは自分の遺伝子をできるだけたくさん残そうというのが生物としての本能なので、お金があればそれができてしまうのかなと。
ー昔の王様を見ても、権力者を見てもそうですね。それを倫理や道徳など、いろいろな理屈でがんじがらめにしてルールを作ってきただけで。
人類の歴史的に言うと、一夫一妻制というのはかなり特殊なケースなんですよ。一夫多妻制の方が強い遺伝子がどんどん残るので。
ー令和時代の恋愛と経済はどうなっていくとお考えでしょうか。
二極化の傾向がさらに強まってくるのではないでしょうか。新自由主義では格差は広がるもの。政府が何らかの政策を打たないと、格差はどんどん広がっていきます。
そうすると、勝ち組の人が不倫をするという流れは変わりません。不倫人口はどんどん増えていくのかなという気がします。
リーマンショック型の大きな経済不況がまた起きれば、さらに不倫は増えると思います。実際にリーマンショック後の世界恐慌で、イギリスでも不倫がすごく増えた。金融機関の方がストレスでめちゃくちゃ不倫していたそうです。
アメリカにデトロイトという財政破綻した街があるんですけれども、リーマンショック後に「隣の芝生不倫」と言うんですが、隣近所の奥さんとお金をかけない不倫が増えた。
不景気の時に不倫が増えるのは他の国でも同じです。
風俗産業の売上高をずっと調べているんですが、景気が良くても悪くても安定している部分があって、景気がいい時は余ったお金を風俗で使う人が増えてきて、不景気になると今度はストレスで風俗に来る人が増える。
人間の本能的な欲望に基づくお金というのは景気の良い悪いに関わらず出ていくものなのです。
ー愛とお金は切っても切れない関係なんですね。大変勉強になりました!
プロフィール
門倉貴史(かどくら たかし)エコノミスト。BRICs経済研究所代表。1995年慶應義塾大学経済学部卒業後、浜銀総合研究所の研究員となり、社団法人日本経済研究センター、東南アジア研究所へも出向。
2002年に第一生命経済研究所に移籍し、経済調査部主任エコノミストとして、アジアやBRICs諸国についての論文を数多く発表。2005年から現職。 フジテレビ「ホンマでっか!?TV」などにも出演中。