LGBTウェディングが業界救う?結婚式離れが進むなかで増える需要 - 川島透
※この記事は2020年02月10日にBLOGOSで公開されたものです
近年、結婚離れ、結婚式離れが進んでいる。結婚式を挙げるカップルの数は2016年から18年の3年間だけでも1割弱減った。
そんななか、今後のブライダル業界が盛り上がるカギとなるかもしれないと注目を浴びるのが「LGBT結婚式」だ。自治体のパートナーシップ制度が広がるなど徐々に社会の理解も広がり始め、LGBT向けの結婚式を受け入れる企業も増えてきているようだ。
LGBTウェディングの現状について、関係者に話を聞いた。
問い合わせ増えるLGBT結婚式需要
東京・目黒区の邸宅で開くハウスウェディングを運営する株式会社JASMACでは、2015年頃から、LGBT当事者からの相談、問い合わせが増えてきたという。同社の丸江みゆきさんによると、当時は渋谷区などで同性パートナーシップ条例が施行され、テレビなどのメディアでLGBTが取り上げられることが増えた時期だったという。
丸江さんは「特に弊社が提供しているようなハウスウェディングは、プライベートな空間で式を行う形態であるため、LGBT当事者の方のニーズに合っていたのではないでしょうか」と話す。
大手を含めた他社でもLGBT向けの事業部を立ち上げる動きがみられるといい、最近では他の式場から「LGBT当事者から相談を受けているがどう応じればいいか」「断ってしまったが、どうすればよかったのか」など同社に協力や相談を仰がれることも少なくない。
同社は昨年末にはブライダル業界向けに、実例に基づいた対応の仕方を紹介するセミナーを開催するなど、業界全体が門戸を開けるように働きかけている。
丸江さんは、「『どういう相手であれ、その方が望まれる結婚式を提供したい』という考えのもと積極的に受け入れ、当事者それぞれが抱える事情にできる限り応じていきたいと思っています」と話している。
【関連記事】“終活”へ恋愛楽しむお年寄りでにぎわうシニア婚活市場 子の理解は
国内外で結婚式をトータルプロデュースする株式会社テイクアンドギヴ・ニーズでも、LGBTの結婚式を受け入れている。
同社広報の吉原祐太さんは「LGBTQの方々を含め、性別・国籍・障がいの有無等に関係なく、幸せになりたいすべての方を積極的にお手伝いしたいと考えております」と説明する。多様な個性のひとつと捉えているため、LGBT当事者の結婚式と一般の結婚式の件数を区別した形では把握していないというが、店舗への問い合わせ件数は年々増えているという。
同社では、2014年から希望者に対して研修を開始。17年からはe-learningによる研修に形を変え、より多くの社員が学びやすい環境になったという。吉原さんは「研修で学べるのはあくまでも基本です。それぞれのお客様と都度一緒に考えて結婚式を作り上げています」と話す。
結婚離れの時代 LGBTの挙式拒否はもったいない
「式場を運営する大手企業のホームページを見ると『すべてのカップルが幸せに』と書いてあるのに、実際に問い合わせたら普通に断られることも当たり前のようにありました」
当事者カップルの挙式を支援する活動を行い、約350組の式を手伝ってきたという「Novia Novia Wedding」代表の熊倉ももかさんは話す。自身も当事者だという熊倉さんは2011年からLGBT向けのメディアを立ち上げ、ウェブ、紙媒体での発信を行っていた。当事者にインタビューをしていくなかで、いつか結婚式を挙げたいが実現する方法が分からない、という声を聞くことが多かったという。
「これから式を挙げたいという気持ちのカップルが、『無理です』と門前払いのような対応をされたら、傷つくだろうし、絶望してしまうと思いました。
なので、まず私たちが式を挙げたい当事者と式場の間に入って、カップルからの問い合わせに対して、希望に合う会場探しをすれば、傷つく人を減らせるかなと」(熊倉さん)
社会全体でみると、「結婚式を挙げる必要がない」とナシ婚を選ぶ人たちが増えてきている。また、結婚式を挙げるケースは2016年から18年の3年間だけでも約7%減少しているという(経済産業省:特定サービス産業動態統計調査)。さらに結婚式のみならず結婚自体をしない人も増えており、50歳時の未婚割合は2010年の男性20.1%、女性10.6%から、2015年には男性23.4%、女性14.1%と上昇(総務省「国勢調査」)している。
結婚式離れが進むなか、結婚式を挙げたいという潜在的な需要があると思われるLGBTの挙式がまだまだ一般的にならない現状に、熊倉さんはもどかしさを感じている。
なぜLGBTの挙式は断られるか
「初めて挙式を断られた!!」
「結婚式ランキングでも○○(式場の名前)は上位だから行くの楽しみにしてたのに、少し残念」
2019年7月に、あるLGBT当事者の「挙式を断られた」というSNS投稿が話題になった。その式場の責任者は、「LGBT研修を受けたがゆえに、受け入れる体制や配慮が整っていないため、かえって嫌な思いをさせてしまうかもしれない」と理由を説明したという。
一方、LGBTに対する理解が社会で広がりつつあるのになお、結婚式場が挙式を断るのはなぜなのだろうか。
熊倉さんは、「傷つけてしまうかも」と考えてくれること自体は真摯な対応だと受け止めている。なぜなら、LGBT当事者にとってデリケートな問題もあることは間違いない話だからだ。
まず、スタッフにLGBTに対する知識を付けてもらうことが重要だ。
あるケースでは、式場で話を進めるなか、個人情報を書く段階まできたところで書類上の表現が”新郎新婦”となっていたことで、カップルの方に「本当に分かっているんですか?」と聞かれてしまったという。
さらに、配慮はハード面でも必要な場合があるという。
そのひとつが「トイレ」だ。トランスジェンダーが出席する場合、会場の規模によっては十分な対応ができない式場も出てくる。
「でもそういう問題は、後で発生するもの。受け入れてもらった後に打ち合わせをするなかで、希望があれば当日だけこうしましょうと、色々やりようはあるのではないかと思います。
少なくとも受け入れた上で『それはできないけれど、これなら可能』などと歩み寄ってくれることと、最初から断られてしまうのとでは意味が違います」
また、一般的に結婚式というと地元で挙げる人も多いが、LGBT当事者は逆に、「地元では挙げたくない」という声が多いという。
それは、「カミングアウトしてない知り合いに会いたくない」という気持ちがあるためだ。友人、親戚から職場の人まで招待する人もいるが、職場にカミングアウトできていなかったり、親に認めてもらっていなかったりという事情で、招待客が限られる人も少なくない。
「ホテルや大きな式場では、関係者以外の人とすれ違ってしまったときの視線を、当事者の方は気にしてしまいます。なので、地元を離れた場所で、かつ結婚式場内で参加者以外に会う可能性の低いハウスウェディングなどが好まれる傾向があります」
法的に家族になれない現実「せめて式を」
困難があってなお結婚式を挙げたいというLGBT当事者の強い思いはどこから生まれるのか。
熊倉さんは、「法的にも家族になりたい気持ちがあるが、日本では法的に結婚できないから結婚式を挙げたい」と考える人が多いと説明する。
「以前は多くのカップルがフォトウェディングを希望されましたが、『式を挙げられる』という認識が当事者のなかでも浸透してきて、挙式は確実に増えてきています。
それでもまだ、式場に足を向けるカップルは不安が大きくて”マイナス”からのスタートというイメージです。式場側として対応に難しさはあると思いますが、まずは”歓迎してくれる”ということが一番の理想かもしれません」