マスクだらけの東京→フィリピン渡航 新型コロナウイルスの脅威実感 - 清水駿貴

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※この記事は2020年02月03日にBLOGOSで公開されたものです

2日、新型肺炎により、フィリピン内で中国・武漢出身の44歳の男性が死亡した。世界保健機関(WHO)によると、新型肺炎による中国国外での死者は初めてという。

このニュースが伝えられる前日の1日、私はフィリピンに取材にいく機会を得て、成田国際空港から日本を発った。

自宅から空港までの電車内で見かける光景はいつも通りだったが、ターミナルに到着して驚いた。

見渡す限りマスク、マスク、マスク…

文字通り、老若男女、国籍を問わず空港利用客が顔を覆っている。

日々のニュースで中国・武漢から発生したとされる新型コロナウイルスが猛威を振るい、日本を含む世界各国で死者・感染者の数を増やしていることは知っていた。でも、「大変なことになってしまったな」とは思えども、「自分の日常生活にはあまり関わらないこと」という考えが頭のどこかにあった。

空港の入り口を通った瞬間、5~6人の客室乗務員が団体で通り過ぎた。パステルカラーの華やかな制服に全員がマスク。そのコントラストが異様だ。父親が引く大きなスーツケースにまたがっている小さな女の子はずれ落ちたピンク色のマスクを母親に直してもらっていた。

昔、日本に留学してきていたシンガポール人の友人に「日本のマスクの多さに慣れない。病気が流行っているわけでもないのになんでつけるの?」と聞かれたことがあった。「予防のためでもあるし、日本では普通だよ」と答えたが、あの時、彼女が連想したのはこういう風景だったのか、と今さらながら思う。

多くの人が予防に力を入れているのを目にして、感染症への不安を実感する。

成田国際空港のロビーではマスクをつけていない人のほうが浮き上がっていた。

マスクなしのスタッフに疑問

目が慣れてくると、今度はマスクをつけていない少数派に目がいく。肌感覚では9割以上の人がマスクをしていたように思えた。

チェックインカウンターで対応している航空会社のスタッフも極小数だがマスクをつけていない人がいた。

新型肺炎が流行するなか、マスクをせずに一日中、様々な土地から来た多くの人と接するのは危険ではなかろうかと心配になってくる。以前、接客サービスの従業員にマスク着用を禁止にして話題になった企業があったが、今回はそれとは逆に、感染のリスクが落ち着くまで、企業がマスク着用を規則化するべきではないか。チェックインの列に並びながら、そんなことを考えていた。

約5時間のフライトを経て、フィリピン・マニラのニノイ・アキノ空港に到着した。

3列×3列のシートはマスク姿の乗客で埋まっていたが、フィリピンに降り立ってからは少しずつその数が減っていった。

空港スタッフの3分の1ほどはマスクをつけていない。日本以外から到着したと思われる乗客になると、その数はさらに上がった。「みんなマスクつけていて面白いね」と英語で話している旅行客もいるほどだった。

「あなた中国人じゃないの?」とマスクを外される

午後6時過ぎ、入国審査を終え、空港の外にでた。初のフィリピンだ。

この日、マニラの最高気温は30度で最低気温は22度。2月は乾季に入ると聞いていたが、冬の日本から来た身としては、ムシムシと湿気を感じる。この環境でマスクは辛い。

ホテルに向かうために乗車したタクシーの男性運転手もマスクをしていた。「新型コロナが不安だからですか」と尋ねると、「そうだよ。これはウイルスから保護してくれるんだ」と丁寧な返事が。

「タクシーのメーター、ちゃんとつけてます?」と聞いたときは、「ハハハ」としか反応しなかったのに、などと考えていると、「どこから来たの?」と聞かれた。「日本です」と答えると「なんだ中国人じゃないのか。失礼しました」と言って、つけていたマスクを助手席に放り投げる。慌てて「いえ、つけていて大丈夫ですよ」と言っても「ごめんね」となぜか拒否された。

その後もかたくなにマスクを外したままをキープ。時々、咽せているのか、咳なのか、ゴホゴホと喉を鳴らすものだから、到着するまでの20分間、こちらは気が気ではなかった。

メーターは予想通り作動していなかった。

ドラッグストアには「マスク売り切れ」の張り紙 ホテルスタッフ「必ず全て良くなります」

普段、マスクをつける習慣のない海外ではマスクが足りていない状態が続いていると聞いた。

フィリピンではどうか、とホテルの近くにあるドラッグストアに立ち寄った。

ガラス戸には「temporary out of stock(一時的に品切れ)」の文字が。店員は「在庫がなくて、マスクを求める人には代わりに消毒用のアルコールを薦めています」と説明してくれた。

ホテルでも男性のフロントスタッフが青いマスクをつけていた。

ホテルはいろんな国の人が集まる場所なので、従業員は着用するようにしています。フィリピン人は普段、マスクはしないので非常事態ということです。

しかし、鍵を渡すころには「大丈夫です。必ずすべて良い方向に向かいますよ」と笑顔を浮かべて励ましてくれた。

翌日、フィリピン内で死者が出たことを地元メディアが伝えた。このことについて女性スタッフに聞くと「本当に怖いことです。私たちにできることはお客様の健康と私たち自身の安全のためにも、マスク装着や消毒などを徹底していくことです」とコメント。

感染の流行を懸念した地方自治体が大きな祭りを中止するなど、国内には動揺が広がっている。