※この記事は2020年02月03日にBLOGOSで公開されたものです

2020年の通常国会が始まった。「桜を見る会」やIR汚職など多くの疑惑がクローズアップされ、「疑惑国会」との声もあるが、どこに注目すればいいのか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】

疑惑追及にまともに答えない元大臣たち

今の政界には全く緊張感がない。

通常国会が1月20日に開会し、多くの国会議員が登院した。その中には、公選法違反の疑惑で辞任した河井克行・前法務大臣や菅原一秀・元経産大臣も含まれていたが、疑惑についての説明責任を果たそうとする姿勢はなかった。

河井前法務大臣については、その妻である河井案里参院議員が疑惑の対象だ。昨年7月の参院選で、陣営がウグイス嬢に法定上限の2倍の報酬を払い、買収したのではないかと疑われている。この疑惑は事実なのか、違法だと知っていたのか、河井議員は一切答えていない。

菅原前経産大臣も選挙がらみの疑惑で辞任した。選挙区の有権者にカニやメロンを配ったり、秘書が香典を渡したとして、公選法違反の疑いが指摘されている。しかし、その疑惑について一切答えていない。

この国の政治家は、嘘をつくのが当たり前になったみたいだ。

モリカケを突破できたから何をやってもいい

このような風潮は、3年前に政権を揺るがした森友・加計問題のときから顕著になった。かつてならば政権が崩壊してもおかしくないほどのスキャンダルだったが、安倍晋三首相らは疑惑にはっきりと答えないという姿勢に終始した。

森友学園問題のときは、財務省が決裁文書を改ざんしていたことが発覚した。民主主義の国では到底許されないことだ。ところが、政治家が誰一人として責任を取らなかった。本来ならば麻生太郎財務大臣が責任を取るべきなのに、辞任しなかった。

加計学園問題にいたっては、当事者たちがみな嘘をついている。

安倍首相は加計学園の加計孝太郎理事長と長年の友人と公言していたが、問題が明るみに出ると「そのことは知らなかった」と否定した。その直前に何度も一緒にゴルフをしているのに「知らない」というのは不自然だった。

安倍首相が嘘をつくから、「本件は首相案件」と言ったとされる柳瀬唯夫首相秘書官や加計理事長まで、みな嘘つくことになった。嘘がまかり通って、誰も責任を取らない。そんな異常事態が続いている。

森友・加計問題で政権は批判にさらされたので、安倍内閣も気を引き締めるだろうと思っていた。

ところが、いま問題になっている「桜を見る会」の疑惑をみると、「モリカケを突破できたから何をやってもいいんだ」と開き直っているように思える。

疑惑が起きても嘘をつくのがまかり通っている

「桜を見る会」の疑惑はむちゃくちゃだ。

開催要綱によると、招待範囲は、皇族や各国大使、衆参両院議長、閣僚などのほか、「各界の代表者等」と定められていた。しかし実際には、各界の代表者といえるのか疑わしい安倍首相の後援会の会員が多数出席していた。

参加人数も、要綱では「計約1万人」となっているのに、実際は約1万8000人が出席していた。それにともない開催費用も年々膨らみ、約1700万円の予算に対して、支出が約5500万円と3倍以上になっている。

国民の税金で安倍首相の後援会の会員らを接待していた、といってもいい状態だったわけだ。

さらに問題なのは、疑惑が発覚したとたん、招待客の名簿がシュレッダーにかけられたことだ。名簿がシュレッダーで細断されたのは、共産党の宮本徹議員が国会質問のために資料提出を要求した1時間半後。これは「証拠隠滅」に等しい行為だ。

紙の名簿が細断されてしまっても、デジタルデータがあるはずだが、菅義偉官房長官は「データはサーバから削除されて復元が不可能」「バックアップデータは公文書ではないから資料要求の対象ではない」と説明し、招待客の名簿を明らかにしようとしなかった。

理解に苦しむ説明だ。嘘をついているとしか思えないが、こんな対応がまかり通っている。

与党は首相のイエスマンばかりになった

新聞を開くと「疑惑国会」という言葉が踊っている。本当にそうだと思う。桜を見る会、大臣の不祥事、そして、IR汚職。これはもう「疑惑がありすぎる国会」だ。

この中で一番問題なのは「桜を見る会」だろう。野党はIR汚職のほうが追及しやすいから、そちらから入るかもしれない。だが、IRの問題を深く追及しても安倍首相はあまり関係がない。

IRの参入の中心は、トランプ大統領と近い米国のカジノ企業だ。現在問題となっている中国企業やその関係議員が摘発されても、安倍首相は大きなダメージを受けない。むしろ矛先が「桜を見る会」からそれて、ホッとしているのではないか。

この「疑惑国会」で、野党はどこまで安倍首相を追及できるのか。正直なところ、野党の追及だけでは限界がある。

もともと日本の政界は、野党の力によって政権が代わってきたわけではなく、与党・自民党の反主流派・非主流派の批判によって、歴代の内閣が倒されてきた。

ところが、選挙制度が小選挙区制を中心にしたものへと変わり、当選するためには党の公認が不可欠となったため、自民党の議員たちがみな官邸の意向を気にするようになった。

森友・加計問題にしても、桜を見る会にしても、安倍首相の責任が厳しく問われるべきだが、自民党内から安倍首相を批判する声はほとんど出てこない。みな、安倍首相のイエスマンになってしまっている。

「安倍さんは辞任すべき」という意見が出てもいいはずだが、出てこない。唯一批判しているのは、石破茂元幹事長ぐらいだ。ただ、その石破氏は国民の間での人気は高いが、党内では孤立している。

嘘をつくのが当たり前の首相や大臣。異論を口にできない与党の政治家。疑惑だらけなのに、そんな状況を政権奪取のチャンスとして生かしきれない野党。

いま日本の政治は大変な危機に陥っている。