※この記事は2020年01月30日にBLOGOSで公開されたものです

世界有数の歴史観光都市・京都のリーダーを決める京都市長選が2月2日に投開票される。4選を目指す現職に対し、新人2人が挑む全国でもありふれた構図だが、例年にない盛り上がりを見せているという。

過去には28年にわたって革新府政が続くなど、伝統的に“左派”勢力が強い影響力を持つ京都。各紙の情勢調査では現職が「先行」と伝えている。ただ、非共産系の票が分裂する見通しで、共産が推薦する候補が当選する可能性も捨てきれないようだ。

「反共」を訴えた新聞広告が賛否を呼び、Twitter上で候補者同士の批判の応酬が繰り広げられるなど、“場外戦”も目立っている。

候補者はどんな人?

今回の市長選への立候補者は次の3人(いずれも無所属)。

門川大作氏(69)=公明、自民府連、立憲民主府連、国民民主府連、社民府連推薦
福山和人氏(58)=共産、れいわ新選組推薦
村山祥栄氏(41)

門川氏は京都市中京区出身。市立堀川高校を卒業後、市教育委員会に採用。その後、立命館大学二部法学部を卒業し、教育長、市教委総務部長などを歴任した。2008年に京都市長選に初当選し、現在は3期目。

福山氏は京都市伏見区出身。立命館大学法学部卒業後、2001年に弁護士登録。京都法律事務所に所属し、15年に京都弁護士会副会長に就任した。労働事件を多く担当し、大飯原発差し止め訴訟にも取り組む。

村山氏は京都市左京区生まれ。専修大学法学部在籍中に衆議院議員・松沢成文氏の秘書。リクルートに入社後、2003年に京都市議選に初当選し、2~5期目までトップ当選を続ける。地域政党「京都党」前代表。

保守が分裂した2008年の構図に酷似 共産に勝機?

観光客が急増したことで市民生活に悪影響が及ぶ「観光公害」が、一つの争点となった今回の市長選。共産勢力に向き合う保守勢力が分裂した2008年市長選の構図に酷似している点がよく指摘されている。

当時の開票結果を見てみる。

158,472 門川大作氏=自民、公明、民主党府連、社民党府連推薦
157,521 中村和雄氏=共産推薦
84,750 村山祥栄氏
24.702 岡田登史彦氏

いずれも新人の4候補が激突し、門川氏は共産が推す中村氏にわずか951票差で辛勝した。

その後の12、16年の市長選では非共産勢力が相乗りで推薦する門川氏と、共産推薦候補の事実上の一騎打ちが続き、門川氏が安定した当選を続けた。ただ、今回は村山氏の出馬により保守票が分裂する見通しで、門川氏の不安材料だ。

村山氏は、京都党の支持者に加え、学生時代に秘書を務めた縁で維新支持層の一部も取り込む見通しという。自民や公明などにも支援を呼び掛けており、門川氏への票の一部を食う可能性がある。

“反共”の広告を京都新聞に 「汚いやり方」と現職批判に

門川氏は、市中心部の四条通の歩道拡幅など3期12年の成果をアピールするが、市民からは多選への批判も聞こえる。自民、公明の国政与党に加え、立憲、国民民主、社民の野党からの推薦を得て組織力で抜きんでるものの、ある新聞広告が“命取り”になるとの声が上がる。

「大切な京都に共産党の市長は『NO』」と大々的に記された広告が、今月26日付の京都新聞朝刊に掲載された。他にも、「わたしたちの京都を共産党による独善的な市政に陥らせてはいけません。」「国や府との連携なしには京都の発展は望めません。」などと共産党への批判が記されていた。

さらに、門川氏の候補者広告も合わせて掲載され、広告主は支持母体である「未来の京都をつくる会」とされていた。ネット上などでは「共産ヘイト」「赤狩り」などの批判が上がったが、事態はこれで収束しなかった。

広告の中で、「ONE TEAMで京都の未来を守りましょう」との題字とともに、京都の著名人9人が賛同者のような扱いで顔写真とともに紹介された。ところが、こうした人の中から「許可なく無断で掲載されたことは大変遺憾」といったコメントが相次ぐこととなった。

京都の選挙事情に詳しい京都府警OBの1人は「今回は、福山候補が勝つ可能性が十分にあるし、それを最も警戒していたのが門川候補の陣営だ。京都市は共産へのアレルギーがはっきりと分かれる稀有な土地で、広告によって反共票を固めようとしたのだろうが、『やり方が汚い』と墓穴を掘る結果になるかもしれない」と指摘する。

山本太郎氏の応援も追い風に 左派色の強まり過ぎは懸念材料

今回の広告に限らず、福山候補の追い風はまだある。れいわ新選組の推薦を得たことで、ネット上などで人気が高く知名度が抜群の山本太郎代表の人気にあやかれそうなことだ。福山候補の街頭演説に山本氏が駆け付けると、多くの人だかりができるという。

さきの府警OBは「共産の固定票に加え山本氏個人への支持の恩恵を受けられるだろう。京都には外交や国防など共産の国政でのスタンスには反対だが、地方議会での活動には理解を示す人は少なくない。ただ、山本太郎氏が加わったことで、“左派色”が強まって敬遠する人もいるのかもしれない」と推測している。

京都市では、1981年に自民、社会、公明が推薦し、共産、民社、社民連が支持した今川正彦市長が当選している。仮に、今回の市長選で福山氏が当選した場合、共産が推薦・支持する市長の誕生は39年ぶりとなる。

京都では、日本社会党所属の蜷川虎三氏が1950年の府知事選で初当選。続く府知事選では共産の推薦を得るなど7期28年にわたって革新府政が続いた。

京に根付く「歯向かってなんぼ」の精神

「京都大や立命館大などリベラルな大学が多く、マルクス経済学など左派思想を研究する土壌が長く根付いていた。さらに、『お上には歯向かってなんぼ』という精神もあり、市民の権利に対する意識も高い」とある有権者は語る。

そんな京都のリベラルな雰囲気は今はどの程度なのか。少なくとも、今回の市長選は、その試金石になりそうだ。

かつては東京、大阪、横浜でも 革新自治体の今昔

京都以外では、東京都で共産や社会の推薦を受けた美濃部亮吉氏が知事を務め、1967年から79年まで革新都政が続いた。大阪府でも、黒田了一が共産の推薦で71年から79年まで知事を務め、63年には社会党公認の飛鳥田一雄氏が横浜市長に当選し、78年3月に辞任する3カ月前には日本社会党委員長に就任している。

現在は、岩手や山形、沖縄で、共産、社民から支持や推薦、支援を受けた知事がいる。埼玉県蕨市や、兵庫県市川町、秋田県湯沢市などで、首長に共産に党籍がある、もしくはあった。兵庫県宝塚市の市長、東京都世田谷区の区長はいずれも元社民党の衆議院議員が務めている。

日本共産党のホームページによると、共産党が与党の自治体は今月9日時点で、全国に63ある。都道府県議会の単位では、岩手、沖縄の両県で、政令指定都市、県庁所在地では仙台市、那覇市、東京23区では世田谷区、中野区でそれぞれ、市長、首長を支援、推薦している。63のうち9自治体が沖縄県に集中している。