香川県職員がゲーム規制条例案に異例の反対表明 ウェブ上では共感広がる - 岸慶太

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※この記事は2020年01月22日にBLOGOSで公開されたものです

子どものスマートフォンやゲーム機の利用を平日の1日60分までに制限する条例案を香川県議会がまとめ、「子どもの人権を侵害している」「家族に介入する条例」などと、批判が高まっている。県議会は20日に公表した新たな素案では、対象を「コンピューターゲーム機」に改めたほか、制限内容を定めた文言を弱めるなどしたものの、子どもとゲーム、スマホの在り方をめぐって議論は収束する気配は見えない。

そんな中、香川県庁に勤務する男性職員が実名を明かし、「[意見表明]香川県庁職員の私が香川県ネット・ゲーム依存症対策条例案について思うこと」と題した文章をSNS上にアップし、条例案が家庭内にまで介入していて、子どもの権利条約に矛盾すること、ひいては香川県の衰退を招きかねないと厳しく指摘した。

県議会の条例案に対して、県職員の立場から実名を出して反対の姿勢を示すことは異例で、注目を集めている。

ゲーム・スマホ規制の条例案に批判

今回の条例案をめぐっては、今月10日の検討委員会で内容が明らかになった。素案では、依存症を「ネット・ゲームにのめり込むことにより、日常生活または社会生活に支障が生じている状態」と定義。

その上で、18歳未満の子のスマホやパソコン、1日当たりのゲーム機の使用について、平日は60分、休日は90分)に制限。さらに、中学生以下は午後9時まで、それ以外は午後10時までにやめさせるよう保護者に求めている。努力義務を課したものの、罰則などは無い。

朝日新聞によると、検討委委員長の大山一郎・県議会議長は報道陣の取材に対し、「将来的に国に法整備を求める上で(条例に)時間制限を設ける必要性を感じている。県学習状況調査などを参考に、適切な使用時間を決めた」と説明したという。

こうした素案が報道されると、ネット上などでは「香川県の子どもたちから未来を奪うに等しい」「条例が生活習慣や趣味の範囲に介入すること自体がおかしい」といった批判が相次いだ。

県職員がアップした反対意見に共感広がる

県職員の男性が文章をアップしたのは今月19日付。

文書では、

ネット・ゲームの規制という結論ありきで、当事者たる子どもを交えた議論のないまま委員会内で一方的に話が進められていることに強い危機感を覚え、

として、反対の意思を明確に打ち出している。その上で、以下の4点を反対の根拠として示した。

(a)家庭で決めるべき事項に介入する問題点、自己決定権の侵害
(b)インターネットの利用時間を制限することの非現実性
(c)子どもの権利条約との矛盾
(d)各部局のネット・ゲームを利用した広報・振興戦略との矛盾

問題の本質をはき違えている条例案

(a)については、具体的に条例の素案を引用しつつ、平日60分までなどと時間制限や時間の区切りが設けられたことに言及し、時間帯や長さが問題の本質ではないと指摘している。

親子間で約束を取り決めることが学びにつながる

とした上で、

親子間の主体的な調整や納得を得られないまま一方的に時間制限を押し付ける

ことは、

子どもにとって納得のできる約束を自発的に結び守るという機会を一つ奪ってしまうことになる

と危惧している。

県の施策との矛盾も指摘

(d)では、電子掲示板「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」で生まれた「うどん県」という発想を観光振興に取り入れたり、SNSを使って瀬戸内国際芸術祭のPRをすすめたりしている県の取り組みとの矛盾を指摘している。

YouTubeを使った海洋問題のPRや、ゲームで学ぶ健康づくりなどの施策が、学校を通じずに子どもへとダイレクトに届く取り組みを挙げ、

子どもや若い世代に対してしっかり発信、また啓発し、香川県の魅力を広めることに成功してきただけに、本条例素案の発表はネット上で深い失望を持って受け止められました

と説明。さらには、

情報の大切な受け手たる子どもから情報を遮断するようなネット・ゲーム規制は、先述の各部局の努力を踏みにじり成果を水泡に帰さんとするもの

と厳しく批判。さらにIT人材の養成が期待されている時流を示して、

こうした環境下で香川県内から他県に負けないIT人材が育つと想定することは困難です

と切り捨てた。

“条例案の是非考えて” 男性職員の願い

条例案をめぐっては、県議会検討委員会が素案を決定するまでの過程で、使用制限の対象を「スマートフォンなど」から「コンピューターゲーム」に変え、具体的な時間制限について「基準とする」との文言を加えた。さらには、保護者の義務について「順守させるよう努めなければならない」と弱めるなど、修正を加えた素案が今月20日に決定された。

男性は取材に対し、こうした変更案についても「努力義務になり一見規制が緩くなったように見えるが、上限でも目安でも家庭で決めるべき事項に介入していることは本質的に変わらない」と厳しい。

男性は「時間制限を課すこの素案がいかにひどいものかと驚くと同時に、たとえこの条例が通っても自分は初めからこれに反対していたことを将来に残せるように意見をまとめ始めた」と投稿のきっかけを振り返る。服務規程を確認した上で職場を明らかにして投稿したといい、県からの聴取といった動きは今のところは無いという。

県議会は23日から、素案への意見を一般の人に募るパブリックコメントを始める。その上で、2月の県議会に条例案を出し、4月からの施行をめざしている。