「今こそアニメに恩返しを」山田太郎議員が語る“MANGAナショナルセンター法案”の重要性と直面する廃案の危機 - BLOGOS編集部

写真拡大

※この記事は2019年11月30日にBLOGOSで公開されたものです

超党派の国会議員でつくる「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」が、今国会への提出を目指していた「メディア芸術ナショナルセンター」に関する法案の成立が難しい状況に立たされている。

メディア芸術ナショナルセンターが実現の意義とは何か、そして設立がもたらすものとは何か。漫画、アニメ、ゲームといったジャンルのファンから支持を集め、長年、同法案の成立に奔走している山田太郎参議院議員に話を聞いた。

アニメ、ゲーム、特撮などを保管する場所がない

-改めて、メディア芸術ナショナルセンターの目的と意義について教えてください。

「メディア芸術ナショナルセンターの整備及び運営に関する法律案(略称:MANGAナショナルセンター法案)」は、文字通りメディア芸術ナショナルセンターを作るための法律です。この施設は、簡単に言えばマンガ、アニメ、ゲームなどを保管して、そうしたものを利活用できる拠点になります。また、人材育成の場としての機能も持つと考えています。

よく「アーカイビングをするなら図書館でやればいいのでは」「いろいろなマンガ図書館だってあるだろう」という指摘を受けますが、それはマンガだったらできる話で、動画であるアニメーションの保存は現在の法律ではできません。アニメーションなどのデジタルデータを複製し、国立国会図書館以外が保存することは著作権法の違反になります。つまりアニメーション、ゲーム、特撮といったものは形がないゆえに、もう一度見たいと思ってもできないという状況になっています。

-そうしたデジタルデータの管理が、メディア芸術ナショナルセンターでは可能になるんですね。

著作権法上、国立国会図書館だけが除外されているので、その機能を使った施設を作らないとデジタルデータの保管はできません。今回の法律でメディア芸術ナショナルセンターが設立されれば、それが可能になります。アニメに関して言えば、原画、音楽、声優…と様々な著作権がついていますが、国立国会図書館がその施設内範疇で使う分には自由フリーとされています。そのため、利活用したり、研究したりといったことが可能になり、それが人材の育成にもつながります。こうした意味でメディア芸術ナショナルセンターというのが必要なんです。

当面はマンガ、アニメ、ゲームなどに限られたナショナルセンターですが、いずれは今回の首里城のように歴史的遺産が焼失したような場合に、デジタル化された三次元データや、そこで管理していた所蔵品などを保管する施設にできればいいと考えています。いま世界的に見て、デジタル情報を文化遺産として保管する機関がないのは日本くらいなんです。そういう状況がある中で、特にアニメーションやゲーム、特撮などの保管の重要性を議論しているんです。

アニメの原画やセル画が散逸している状況

-ここ最近でも、アニメやマンガ資料が失われるという話がいくつも聞かれました。

先ほど申し上げたような議論を長くしてきましたが、つい先日の台風19号でも川崎の市民ミュージアムが水没するという出来事がありました。収蔵庫が地下にあったため、1階まで浸水して60万点を超える貯蔵品が全てダメになってしまった。マンガ、アニメ、ゲームについては、単価が安いため、ほぼ全てが破棄することになるといいます。1枚、何十万円を超えるような高額なものから修繕するため、一冊の金額が小さいマンガなどは修復しないんです。

7月に起きた京都アニメーションの事件では、デジタルデータが1階のサーバーに置かれていて、たまたま部屋の壁が頑強だったために焼失を免れました。もしこのサーバーがなくなっていれば、京アニは多くの優秀な人材に加えて、デジタル資産も失うことになり復活は不可能だったと思います。こういうことが現実的に起こっているんです。

-メディア芸術ナショナルセンターがあれば、そうしたものも保存しておける、と。

また、制作会社の人たちがよく話していることですが、実物としてのセル画や原画の管理はもうできないそうなんです。管理にコストがかかり、保存しておく場所もないので捨てるしかない、という話になっています。このナショナルセンターができれば、そうしたものを引き受けることができるので、それを頼りに2、3年待ってもらっている状況があります。もしも廃案になれば、その瞬間にそうしたものも全て捨てられてしまいます。

現在は、手塚先生の時代からの原画から様々なものが散逸していて、捨てられたり、外国人に買われたりしています。昔の歌麻呂の浮世絵の多くは、現在海外にあって、最近はキュレーターが買い戻すような動きがありますが、このままだと日本のアニメも同じような事態になりかねません。それに対して、いち早く準備しておく必要があるだろうと考えています。

-なるほど。アニメの原画などを保存する施設として機能することで、最近よく言われている海外への散逸といった問題の対策にもなるんですね。

アニメの原画を保存することに関して、現在、AIを使ってアニメーション動画の途中のセルを埋める技術ができつつあるとも言われています。現在は全て手で書く必要がありますが、人工知能を使って2枚の原画を描けば間はモーションで埋めることができるようになる。

そのためには、これまでに作られた大量のアニメーションから、動きをコンピューターに学ばせる必要があります。保存したデータはその学習材料としても使うことができるんです。活用できるデータが大量にあって、こうしたソフトが完成すれば、いま生産的ではない二次動画作成に関わる人の数は減って、もっとオリジナル性の高い原画やストーリーの方にアニメーションの仕事を移すことができようになります。

人材を育成して国際競争力を強化

-先ほど話していた「人材育成」についてもう少し詳しく教えてください。

今、動画を作るアニメーターがとても安い給料で働いている現状があり、その待遇の改善をしなければならないと考えています。動画職だと月に10万円、年収120万円程度の収入しかもらっていない人もいますが、なぜこうしたことが起きるのかと言えば「やりがい詐欺」のような状態があると思っています。

アニメ制作に関わるためには経験が求められますが、経験を積もうと思っても実物に触れることはできません。マンガであればマンガ図書館に行ったり、古本で昔の本を入手したりできるけど、アニメやゲーム、特撮などは触れられるものがないんです。例えば、何か描きたいものがあったしても、参考になるものを見ることすらできないのが現状で、ましてや借りるなんてもってのほかです。こういう事情があって、実際に制作現場に関わる以外に実物に触れる方法がないんです。だから、アニメーション制作の現場に入って、給料が安かろうとどんな仕事だろうとやるしかなくなってしまう。

-この施設では現物に触れることで、人材に育成にも繋げられるんですね。

何かを勉強する時には、実物を手に入れて真似をするのが普通ですよね。でもアニメなどのジャンルでは、それが全くできないんです。でも、メディア芸術ナショナルセンターでは、たくさんの原画を保管することになるので、大作家のものでも、自分の好きな作家のもので、手に取ることができるようになります。

-設立の理念として「国際競争力の強化につなげる」という目標も掲げられています。

人材を育成することで国際競争力を強化し、アニメーションを産業としてもっと輸出するということです。今は国内向けにさえ維持できず、足りないから中国に発注している状況さえあります。日本には現在アニメーションに携わる人が4000~5000人もいないと言われているように、現場で働く人たちが激減しています。ご飯を食べていけないし、仕事も不安定なので。それが、より付加価値の高いアニメーション制作に注力して、一方で原画や作画をもっと簡単に勉強することができるようになれば人材も育ちます。

自民対野党の構図に利用された法案

-今国会での法案成立の見通しが難しくなっていることが伝えられています。

前回、昨年の通常国会は参議院選挙前だったため、政局含みになってしまい成立まで至りませんでした。内閣が提出する閣法と議員立法のうち、閣法の議論が先になり、議員立法はどうしても後回しになってしまう。結局、時間切れで出すことができなかったという経緯があります。

今回は途中まで順調に進んでいたものの、国会自体が「桜国会」のような状況になり、文科委員会も何度か飛んでしまいました。そもそも審議時間が短くなっているなかで、野党が11月14日に「記述試験中止法案」という法案を出したことが、メディア芸術ナショナルセンター法案の今国会での成立が厳しくなった背景にあります。

-記述試験中止法案とバーター取引のように考える野党議員の発言も見られます。

私たちが進めているこの法案は、超党派のマンガ議連が進めてきたものです。各党では党議が終えて、正式に決まったものです。あとはどのタイミングで文部科学委員会に出すかという段階まで来ていたのに、記述試験中止法案と取引にされてしまった。記述試験を通すなら、メディア芸術ナショナルセンターを通すというようになって、日にちばかりが経ってしまった。

両方とも進めればいいと思われてしまいそうですが、期限があと半月しかない中ではどの党も党議が間に合いません。現実的にどうやっても1週間から2週間はかかってしまうので、絶対に飲めないものをぶつけられてしまったということになります。そもそも、与野党合意している超党派の法案と野党が一方的に出してきた政局法案とぶつけてくるのはおかしいと思います。これに関しては、野党のマンガ議連の議員さんにも頑張ってほしいと思っています。自分たちも党内では了承を得るなどして、野党のメンバーもMANGAセンター法案は実現が重要かつ大切な法案ということで進めてきたのに、自分の党でそんなことをやっているのはおかしいでしょう、って。与自民党と野党側が対立するような構図にするのは違うと思います。

-成立が来年になると、非常に苦しい事態になるといいます。

もし、成立が来年になってしまうと、これまで一緒にやってきた民間のメンバーが任期などで交代してしまうという事情もあります。例えば、実際にこのメディアナショナルセンターが実現した際には、PFI(民間の資金や運営能力を活用して行う事業)で進めることになり、公募を行い、どこかの組織が受注することになります。現実には、このプロジェクトを受けられるのは公的な大学などの組織は限られていて、そうしたところで一緒にやってきたメンバーが任期で交代してしまうため、これを支えられるのは今季がギリギリだと言われています。

もう一つはアニメーション提供を待ってくれている民間の人たちが、これ以上はもう待てないという状況にあります。だから、もし法案が通って実行に移そうと思っても、時間がかかればかかるほど、その足場を失ってしまう可能性が高いわけです。

アニメに恩返しをしてクリエイターを支えよう

-別のところでは、来年の国会成立も現時点では楽観視できないと、お話されていました。

もし今回まだダメだったとして、来年になれば本当に通るのかという問題があります。来年は五輪があって、さらには解散含みの国会になります。予定通りの選挙しかなかった昨年に通せなかったので、衆議院選挙があるかもしれない、大きな知事選があるかもしれない、という状況になれば議員立法は極めて難しいと言わざるをえません。

そうすると次のターゲットは来年の臨時国会になりますが、それも五輪前に解散していなければまた解散含みの国会になることが予想されます。

-今国会での成立は難しい公算が強まってますが、今現在はどのようなことを行なっていますか?

この法案を通さないとメディア芸術センターを実現することはできないので、一両日中に通してもらうよう文教委員会の野党側の筆頭理事にお願いするしかないですよね。あとはその他の野党の議員にも、働きかけてくれとお願いするしかない。これは自民だ、立憲だ、という話ではなく、超党派で進めてきたものなんです。いわば、アニメ・ゲーム、漫画をこよなく愛してる若い人たちの期待を背負っているんです。

-先ほどアニメ業界の衰退の話がありましたが、ユーザーやアニメのファンは今、そして今後どのように関わっていくべきだと思いますか?

もっとアニメーションを盛り上げていきましょう、と言うことしかできませんね。いま、我々が毎日楽しんでいるアニメ産業がなくなるなんて想像できないと思いますが、実際に支えている人はどんどん減っている。夢だけでは食っていけないので、結婚を機に辞める、30歳になって辞める、という人も多いと聞きます。

こういった人たちに支えられて、私たちが当たり前のように楽しんでいるアニメーションがあるんです。苦しい時や悲しい時を支えてくれたアニメーションが、誰しもあると思いますが、今こそ「恩返し」をしてほしい。アニメやマンガに助けてもらったことがあるなら、今こそ、それを後世まで続くように、そして支えてくれている人たちを助けるために恩返しをすべきタイミングだと思います。