「ゴネる知事」を演じた小池百合子氏 税金で払ったマラソン経費の取り立てを - 毒蝮三太夫
※この記事は2019年11月09日にBLOGOSで公開されたものです
東京五輪のマラソンと競歩は札幌開催で決まったね。結局さ、IOCには逆らえないんだよ。小池都知事も何のかんのと愚痴を言うだけで、交渉らしき交渉にならなかったよ。先月17日にIOCのトーマス・バッハ会長が「IOC理事会と大会組織委員会は札幌市に移すことに決めた」って、いきなり決定の発表をしてたけど、大会組織委員会のトップである森喜朗さんは最初から無抵抗のイエスマンだ。招致に関わったラグビーワールドカップが盛り上がって自分の株も上がってるからね。ヘタな立ち回りは一切しない。森さんはラグビーの旗は振るけど、いざとなったらタックルしない(笑)。小池都知事に丸投げのパスを回しちゃったね。
小池さんも当初は森さんに対して「丸投げかよこのジジイ!」って思ったろうけど、そのバックにバッハさんというさらに面倒なジジイがいて、結局逆らえないのがわかったから、あとは都民の顔色ちらちら見ながら「あくまでも東京開催を」という役柄のお芝居をしてたんじゃないの?
だって小池さんっていざとなると、もっとじたばたするじゃない。前にもあっただろ、東京湾のベイエリアにボートとかカヌーの会場を作るのに建設費が高額過ぎるって問題があがったときは、いきなり宮城のほうのボート場を視察に行ったりしてさ。ここは自分が有利だって匂いを嗅ぎつけると急にスタンドプレーで張り切るんだよ。
だから、今回の札幌移転案にホントに交渉できる余地があって、IOC相手に勝負が出来そうだったら、小池さんは「私の見せ場だわ」って張り切るよ。もっと粘るよ。ほら、築地が豊洲に移転する時の小池さん見ただろ。やたらと粘ってただろ。
でも結局、思わせぶりなことを言うばかりで、落としどころも見失って、時間の浪費でたっぷりと税金を無駄遣いしてたけどね。あの強引な粘りを発揮するのが本来の小池百合子さんなんだからさ(苦笑)。
それがさ、相手がIOCで勝ち目無しってわかるから2週間で「合意なき決定」なんて言ってケンカにならない。ゴネてるように聞こえるけど、あれはIOCの一座の中で、愚痴る東京都知事っていう役柄を演じてただけだね。
札幌移転で責任逃れしたい面々
改めて俯瞰するとさ、東京から札幌へのマラソン・競歩の移転という一連の動きは、「責任逃がれ」をしたい人達がスクラムを組んだ見事なチームになってたよ。まずIOC。ドーハの世界陸上で女子マラソンが深夜0時スタートでも暑すぎて68人中28人棄権。棄権率4割以上って大会運営として大失敗だよ。あれは主催がIAAF(国際陸上競技連盟)か。ああいう大失敗をもしオリンピックで起こしたら、その非難の大きさは世界陸上の比じゃないよ。IOCのバッハさんは責任を問われて進退問題になりかねない。これは自分のクビに関わって来るぞって肝を冷やしたんだよ。
IOCの会長って最近誰がやってるかわかる? ファン・アントニオ・サマランチさん(1980年~2001年)に、ジャック・ロゲさん(2001年~2013年)か。そのあとがバッハさん(2013年~)だな。バッハさんは就任してまだ6年、できればロゲさんと同じ2期12年は会長をやりたいはずだ。
だから、6年かそこらで引きずり降ろされたくないんだ。猛暑の中でマラソンを決行すれば、失敗が目に見えている。もはやオリンピックの開催都市がどうこう言ってられない。IOCとバッハさんは東京五輪の開催を決めた責任、東京の猛暑問題を放置していた責任を取りたくない、その「責任逃がれ」で、強引に札幌案を作り出したんだな。
次に森さん。東京五輪パラ五輪の大会組織委員会トップである森さんは、ここでIOCの考えに楯突けば、東京五輪でのマラソン&競歩に何かが起きたとき「IOCの提言があったのに、ほら失敗した」となって自分が責任を負うことになる。それにもうご高齢で抵抗する気力もないみたいだよね。「IOCのおっしゃる通りで」と長いものに巻かれて「責任逃がれ」だよ。
そして都知事の小池さん。ここでIOCと森さんの考えに楯突いても、札幌移転という結論ありきが引っくり返らないし、開催地の首長なのにその相談も無かったわけで、すっかりコケにされちゃったんだよな。だけど、IOCには逆らえないのを政治家としてわかってる。IOCと東京都民の間に挟まれて、外ヅラは「IOCの考えには合意できない」としてるけど、内ヅラはIOCに従うしかない。今さらどうしようもない、お手上げですっていう「責任逃がれ」だよ。そのお芝居が「合意なき決定」って話だ。
札幌への移転費用を誰が負担するかっていうお金の問題が焦点になっていたけど、あれも芝居だろ。だってIOCは幾らでも金あるよ。出そうと思えば出せるんだよ。だけど最初からすんなり出したら、森さんや小池さんが「何かしら交渉しているように見せる」という芝居が出来なくなっちゃうからね。費用の負担はどうしようか、っていう場面を白々しく残したんだ。
そうして、「札幌移転の費用を東京都は負担しない」ってことを、さも小池さんが交渉勝ちしたみたいに見せてたけど、別に胸を張って言えることじゃないよね。だって東京都はこれまでマラソン開催の為にけっこうな経費をかけてきたわけだろ。人とモノ、かなりの大金を費やしてきたわけだ。これみんな税金だ。その中には札幌に移ることによって、ただの捨て金となってしまう経費がたっぷりある。その賠償をどうするって話だ。
その部分で公表された合意が「すでに東京都、組織委員会が支出した2種目(マラソン・競歩)の経費は精査・検証の上、都が別の目的に活用できないものは都に負担させない」って話だ。つまりIOCが賠償するってことなんだけど、文言がタマムシ色だよな。これまで出費したもので、オリンピック以外であろうが別の目的に使えるものならIOCは払わないってことだ。
冗談じゃないよ、オリンピックの為の支出だろ。だから支出の為の予算が認められたんだ。都議会だって別の目的だったら予算通さないよ。都民の血税だもん。これまで使った分はたっぷりきっちりIOCから取り立てないと。「合意なき決定」よりも、「合意がどうあれ経費取り立て」だ。小池さん、それが都知事の仕事だ、よろしく頼むよ。
石原都政で始まったオリンピック招致
東京での五輪、そもそも猛暑の東京でマラソンするのは無理があった。だけど開催が決まった。そこで東京五輪のマラソンは、まだ気温が上がらない朝6時スタートで実施することを最大の猛暑対策に掲げた。だったらそれを実際にリハーサルしてみるマラソン大会を今年の夏に実施してれば、今回みたいなことにならなかったんじゃないの? このリハーサル大会で新たな改善点を見つけて、2020年の本番にのぞむっていう段取りをしてれば、ドーハはドーハの失敗として扱われ、東京がどうこうって話にならなかったと思うよ・・・。
しかし、大丈夫なのか東京五輪。いざとなると責任を転嫁しあって、誰も責任を取らない責任逃がれの大会になりそうだよな。そうならないように、誰が何をやったのか忘れずに覚えとかないとな。
とにかく元を辿れば石原慎太郎さんが都知事の時代に「オリンピックを呼ぶぞ」ってところから始まったんだよね。2007年頃だよ。長年続く不景気な日本に何か大きな刺激が必要だろうって。それを最初に言い出した時、何言ってんだ石原さんはってけっこう冷ややかに見られてたよ。リオ五輪が決まった時の開催候補に名乗りをあげて落とされたりしてさ。
それが石原さん、東日本大震災を経てから「復興五輪」とか言い出してね。東北の復興を世界にアピールするとか言って。そこに森さんがぬっと出てきて石原さんの背中を押したりしてさ。そのあと都知事が猪瀬直樹さんになって「お・も・て・な・し」で東京開催が決まった。
そうして今に至って、すでに全競技の会場が発表されてるけど、東北方面での開催ってどこになった? サッカーで「札幌ドーム」「宮城スタジアム」「茨城カシマスタジアム」、野球とソフトボールで「福島あづま球場」か。どこもメダルが決まる試合はやらないんだろ。やるのは予選とかだよな。やらないよりはマシだけど、なんかおこぼれみたいな感じだよね。
えっ、猪瀬さんが最近の朝日新聞で復興五輪に関して話してたのか・・・何言ってた? 「東京五輪が決まって、社会が明るくなった。必ずしも被災地に競技会場をつくることではなく、閉塞感に光をともし、復興へ向かうということだった」・・・なるほど、「復興」はあくまで大義名分というお題を拝借したまでよ、って話か。
その結果、東北の会場で一部競技の予選をやることはやる・・・、どう見ても復興というお題の大きさに比べて分け前は少ないね。全世界の注目が集まる競技の決勝戦をやるぐらいじゃないとね。「復興五輪」という名目に釣り合わないよ。
東北で復興マラソンをやればいい
だからさ、すでにマラソンと競歩は札幌に移るって決まってしまったけど、東京でやらないなら東北でやればいいと俺は思ってたよ。普通に考えたって東北は東京より北なんだから、気温は低いよ。ちょっと編集部、各地の8月の気温ってどうなってる? 平均気温のデータがあったら教えてよ。なになに・・・東京 27・3度
いわき 24・8度
仙台 24・2度
札幌 22・2度
※(いずれも1981年~2010年での8月の平均)
ほらほら、札幌は確かに低いけど、福島も宮城も東京より涼しいだろ。復興五輪を名乗るなら、札幌よりも福島や宮城でマラソンやれば、世界に向けて「復興五輪」の大きな意義が示せるんだけどね。
あのね、1964年の東京オリンピックも復興五輪だったんだよ。戦後、日本はここまで成長しましたって姿を世界に見せる、復興のオリンピックだったよ。首都高を作ったり新幹線を開通させたり、オリンピックに向かって東京は一気に大都市へと変貌していったんだ。
だけど今のところ、2020年の東京オリンピックは問題ばかり次々に出てくるよな。新国立競技場の建設案変更とか、エンブレムのデザインが盗作っぽいとか、東京湾の水質が汚くてどうにもならないとか・・・。なんだか復興五輪の意味が、すっかり準備トラブルからの復興になってるよな(苦笑)。
あーあ、マラソン競歩は札幌移転か。今更ながら小池都知事には粘ってほしかったな。俺にひとついいアイデアがあったんだよ。東京の中で場所を変えて開催するんだ。新たなコースは豊洲市場。あの建物の中をぐるぐる走るの。豊洲は今の東京を象徴する最新施設だし、世界に向けて江戸前の魚をしっかりとアピールできるだろ。
選手も嬉しいはずだよ。ばっちり冷房効いてるし、でかい冷蔵庫も冷凍庫もたくさんあるし、施設の中は猛暑一切関係なしだ。鮮魚ファーストを利用したアスリートファースト(笑)。札幌よりも豊洲ってことで小池さんに宣言してほしいね、「豊洲に移転します!」ってね。
それで引っ越し祝いにサバを配ったらいいよ。「引越しサバ」ってね。おっと、ありゃソバか・・・、ま、魚河岸だからサバでいいじゃねえか、アハハハ。バカだねオレは!
(取材構成:松田健次)