「居酒屋で政治の話をしたいとすら思っていない」若者の投票率はなぜ上がらないのか【原田謙介×たかまつなな対談】 - BLOGOS編集部

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※この記事は2019年11月07日にBLOGOSで公開されたものです

投票率50%を割った今年の参議院選挙。選挙に行く方がマイノリティという状態で、10代の投票率も大きく落ち込んだ。この状況を全国の学校で出張授業「笑える!政治教育ショー」を開いているお笑いジャーナリストのたかまつなな氏と、「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動を続け、岡山選挙区から参院選に出馬した原田謙介氏はどう見たのか。旧知の2人にじっくりと語り合ってもらった。 【撮影:弘田充 聞き手:田野幸伸 構成:蓬莱藤乃】

たかまつ:原田さんに今回是非とも聞きたかったんですが、なぜ7月の参議院選挙に出たんですか? 本当にびっくりしました。

原田:たかまつさんも俺と一緒で、投票率を上げるのがゴールじゃないでしょ?

たかまつ:投票率を上げる目的は「社会を良くしたい」ということです。

原田:俺で言えば次の世代に負担を回さないようにしたいけど、どうも政治がその方を向いていない。18歳選挙権が出来て、投票率を上げようという動きは出てきたけれども、果たしてそれで本当に政治が変わったのか? という思いが強くて。

たかまつ:今まで自分がやってきたことが本当によかったのか、ということですか?

原田:政治の出前授業に行くと、生徒さんたちはちゃんと考えて政治や選挙に向き合ってくれる。でもその先に投票に行きたいと思う政治があるのかどうか。

若い人が政治に関心を持つ、よし、政治は大事だと分かった! いざ選挙に参加した! いざ政治見た! そして「こりゃダメだ」ってなる。あの感覚がもうイヤ。自分の中で政治に対して言いたいことが募ってきている中、出前授業をしていて「俺、中立だよ」っていう立場でいることに耐えられなくなった、というのも大きいですね。

たかまつ:ぶっちゃけ若者と政治をつなぐ活動に限界を感じたのでしょうか。ご結婚もされたし、将来のことを考えて?

原田:それなら立候補なんてしないよね(苦笑)。NPOの活動に限界は感じてなかったよ。選挙のネット解禁、18歳選挙権と、少なくとも民主主義の根本みたいなところを、たかまつさんも一緒に枠を広げてこられたかなという思いはある。と同時にこの活動を10年やったので、一定の自分の役割は果たせたんじゃないかというところもあって。

10年前にivote(アイヴォート)という団体を立ち上げた時は20代の投票率向上を目指して孤軍奮闘していたけど、この10年の間に新しい人材がどんどん出てきた。それはすごく嬉しかったので、そういう人たち、たかまつさんらも含めて、俺よりも下の世代に託したいと思ったんです。

たかまつ:本当にショックだったんですよ、原田さんの立候補は。こういう活動をしていると、政治に対して俯瞰で見られたはずです、プレーヤーじゃないから。一議員に出来る範囲が小さいことも知っていながら立憲民主党から出るか? ということも疑問でした。結局、自民党じゃないと政策に反映させることもなかなか厳しいですし、今は本気で政権を担える野党を作っていかなきゃいけない時です。私は原田さんには若者のことを考えた若者政党を作って欲しかった。

原田:まさに、政権交代可能な野党じゃないと一緒にやる意味はないと思います。今回ボトムアップしてきた立憲民主党の方向性に可能性を感じていたのがひとつ。

あと、自民党に入っていなきゃ何もできないことは分かっているけれども、自分の政治信条を変えてまで与党に入ることに価値を感じていなかったので、まずは政治の中に入って、社会に対して何らかの価値を届けたかった。

たかまつ:新しい政党を立ち上げるっていう考えはなかったんですか?

原田:そんな話も周りで話題になることはあったけど、現時点では現実的ではなかったかな。俺が立候補を決めたのは去年の10月ぐらいだったので、結成してまだ1年ちょっとのベンチャー政党の立憲民主党をどう盛り上げていこうかと思った。これからについては、まだいろんな方向性を模索しているところ。ただし、政治家になるというところは外すつもりはない。

たかまつ:そんなに固い意志で出馬されてたとは。出てみてどうでした? 選挙のことに詳しいと言っても、自分が当事者となったあとでは、見える景色も違いましたか?

実際に出馬して見えたもの

原田:岡山選挙区で出て負けはしたけど、それでも25万人近くの人が「原田謙介」と書いてくれた。

たかまつ:それはすごいですよね。

原田:ね。会ったこともない方が。そういう人たちが何かの思いを俺に託してくれた。今年1月に立憲民主党支持者の方の前で挨拶して「原田って誰?」ってところから始まって、すぐにみんな応援してくれるというのも不思議な感覚。投票率は下がっているとはいえ、政治は多くの人がエネルギーを注ぐ場所なんだって感じたね。

たかまつ:実際に出てみて、公職選挙法とか制度とか、ここが問題だなと思ったところは?

原田:一番悔しかったのは、ほかの候補との討論の機会がなかったこと。

たかまつ:それは向こうの人が断ったんですか?

原田:そう。公開討論会の出演依頼を断った。

たかまつ:何なんですかあれ、ダメですよ! JC(日本青年会議所)とかが討論会を企画するのに、出ませんみたいな。

原田:ダメだと思うよ、本当に。出ない候補が勝っちゃうという状況を作ってる俺がもっとダメなんだなってところは反省点でもあるんだけど。

たかまつ:それって私みたいな人がもっと言うべきなんですかね、アイツ逃げたって。

原田:メディアが言うべきだと思う。ちょっと話が飛んじゃうけど、若い人が投票に行かないとか言うけど、投票に行くための材料がこんなに与えられていない国がありますか? アメリカの大統領選挙だって1年近く討論しているでしょ、それはそれで長すぎるとは思うけど、ほかの国だって政党の党首討論がもっと活発だったり、候補者同士の議論とか、あるいは候補者と有権者がもっとフラットに議論する場が当たり前にあるんだけど、日本は有権者に判断材料を提供することを政治が避けているってところが悔しかったね。

居酒屋で政治の話をしたいとすら思っていない

たかまつ:結局、政治に触れると危険、だから触れないっていうのが、メディアもそうだし、国民の意識としてもそうだし、Twitterでもそうだし、学生としてもそうだしっていう、その空気を本当に変えていかなきゃダメだなって。

原田:そこは気持ちに若干の差があると思っていて、メディアの人は触ると危険と思うだろうけど、投票に行ってない人は触ると危険とは感じていないんじゃないかな。

たかまつ:居酒屋でそういう話をすることすら危険って思ってそう。宗教と政治の話はするなって言うじゃないですか。

原田:確かに岡山に戻って面白かったのは、俺を応援してくれていた同世代の人とカフェとかで話すと、やっぱり声が小さくなっていくの。それは俺が政治の話をしようと思っているから、危険だと思っているわけね。普通の人が居酒屋で政治の話をしたいかと思っているかというと、多分思ってすらいないと思う。

たかまつ:あーなるほどなるほど。

原田:無関心なのか諦めなのか。中立を強く意識するメディアと市民の政治への距離感は違うのかなと。

たかまつ:今、投票率が低いわけじゃないですか。投票率が高かったら、自分に勝ち目があったと思いますか?

原田:う~ん、相手の候補は2人で、ひとりはN国なんだけど、もうひとりは自民党の方でした。いわゆる自民党、あるいは公明党が持っている組織票と呼ばれる票の数はおおよそ決まっている。

あとはそれを超えた時に原田謙介なのか、越智(寛之)さんという方なのか、石井(正弘)さんという方なのかの勝負の時に、何とか浮動票をこっちに取り込めるのかなという思いがあった。

たかまつ:投票率が上がれば社会は良くなる?

原田:やっぱり情報次第かな。2009年の政権交代とか、その前の2005年の郵政解散の時は「風」が吹いてメディアもたくさん報道したし、郵政解散是か非か、政権交代是か非かみたいな報道で盛り上がって、投票率が上がったりしたけど。

でも本当は1分でも2分でもいいから、どれだけ有権者が考えて、あるいは情報を調べて投票に行くかというところがすごく大事なところだと思う。そこにつなげる投票率の上げ方じゃないといけない。

たかまつ:なるほど。そこが結構違いますね。私はもう何が何でも投票に行った方がいいと思っているんです。それはやっぱり、選挙を何も知らないで終わるよりも、投票して、自分が入れた人が受かったんだ、落ちたんだとか知るとか、逆にあの時自分が入れたのって失敗だったなって、全く関わってないよりも、誰かが決めたことよりも自分が決めたことならより責任感が持てるんじゃないかなと。

「投票の質」とかって言う人もいるけど、私は本当に行った方がいいと思う。投票に行く人が増えれば増えるほど、組合の票とか、利権みたいなものとかって、だんだん薄まっていくじゃないですか。それが大切なことじゃないかなと思うんです。

原田:投票に行く人が一人でも増えた方が絶対いいと思っているけど、それに対して政治家が、投票される側ができることとして、いかに受け取りやすいメッセージを出すかという戦略があるんです。

若干踏み込んだ発言になるけど、大事なのはやっぱり動画。今回から参議院の政見放送で、編集して作った動画を持ち込んで流せるようになったんだけど、そこがイメージ戦略の大きいところになった。本質的なメッセージを込めると同時に、何となく良さそうな動画で関心を持ってもらって投票に行ってもらうという戦略にもなる。やっといて何だけど、イメージ戦略だけでいいのかっていう悩みはある。

たかまつ:うーん、なるほど。

原田:30秒のカッコイイ動画作って、有権者は「見た見た。すげー」と。その次のステップをやっぱり用意しておかないと、本当にイメージ戦略だけの選挙になり切っちゃうと怖い。

たかまつ:それは合わせていくしかないと思うんですよね。30秒の中にいかに考えさせる動画を作るかとか。

原田:なんだろうな、全部の候補者がそういう意識があればいいんだけど、単純に関心を持ってもらうというか、見て「あ、良かった」っていう動画、いわゆるCMになっちゃう。いいCM作るっていうのと、投票に行く際に考えるための材料を提示するって、違うじゃない。この区別をどうすればいいのかなっていうのは難しいところ。

たかまつ:難しいかもしれませんね。

原田:だからこそ教育があるんだなと思うけど。

たかまつ:そういう人はダサいって思う気持ちが大事じゃないですか。N国とか見た時にうわっと思って、票を入れないみたいな。当たり前の感覚というか、別にどの党を支持するのも自由ですけど、本当に実現できるのかなとか、考えてみてもいいですよね。

投票率の低さ「予想通り」にショック

たかまつ:あと私は、選挙の次の日の夜にYouTubeの生配信をして、若者×政治とか、投票率を上げようとしている団体の人たち10人くらいと、電話で10分ずつ話したんです。その時に今回の投票率をどう受け止めますかと聞いた時に、「予想通り」みたいな意見が多くて。

一緒に戦ってきたと思っていたのに、めちゃくちゃショックだったんですよ。しかもそれに対して「質の高い投票をしなきゃ」って意見が多くて、ただ単にみんなが投票に行けばいいというものではないという意見で、結構感覚が違って、そこは怖さを覚えたんですよ。原田さんはどっちだと思ってました?

原田:俺は投票に行けばいいと思ってた。

たかまつ:じゃぁ似てるというか、同じ。やっぱりびっくりしちゃったんですよね。

原田:なんでなんだろうね。

たかまつ:トランプが大統領になったり、れいわ新選組が支持されるのを見て、ポピュリズムに対する警戒心が強くなっているのか。

原田:ブレグジットだったりとか。

たかまつ:意識は高いけど、投票にギリギリ行かない人をまず行かせないとポピュリズムが起こるみたいなことを自分の活動をしていても言われます。

原田:投票率が上がる時は自然とそういう人から行くんじゃないかな。政治のことを日々何も考えていない人から盛り上がることなんてないと思っていて、それほど世の中暇じゃないじゃない? 投票に行くか行かないか決めてない人から徐々に行きだすっていうのは、そうなると思うよ。

60代以上の人に「山本太郎の動画見た?」

たかまつ:れいわとかは、そのいつも行かないような人が投票に行ったから躍進じゃないのかな。

原田:いやー、れいわ、難しいね。

たかまつ:野党が今まで取らなきゃいけなかった層を取っていなかった。れいわは本当に貧しくて困っていて、もう明日どうしていいか分からないっていう人に、お金を回さなきゃいけない、金持ちダメだ、大企業ダメだ、って不安を煽ったけど、立民とかって労働組合とかが支えているから、「大企業ダメだ」とはやっぱり言えないんじゃないかなと。そのポジションがぽっかり空いているはずなんですよ。枝野さんもそこにいけばよかったのに。そこのポジションでもう少しまともなことを言ってくれる人がいればいいのになって、私なんかは思ってしまう。

原田:俺の感覚で言うと、れいわは今までも投票に行ってた人の票が、結構行ってるんじゃないかなと。

たかまつ:立民とかの票が流れているということ? 共産とかも?

原田:立民の票が流れていると思う。もちろん共産やあるいはもう少しさかのぼると政権交代の時に民主党に入れた人とかの票が流れてきているんだと思っていて、これまで投票に行かなかった人が大挙して行ってる感覚はあまりない。

たかまつ:そこはどこかが分析しないと分からないか…。

原田:れいわの山本太郎さん、演説とか動画とかを一瞬見ただけでは主張が分からないじゃない。別にワンフレーズポリティクスというわけではない。ちゃんと長い演説を見るとデータが出てきて、ここはこうあるべきだ、人を救うためにはこうしなければいけないって論じている。長い動画なので、あれを普通の人は全部見ないって。

確かに、他の政治家より引き付けられるものはあるから、関心ある人が見だすと、5分10分見ちゃうと思うんだけど、その関心を持つまでは政治の動画なんて見ないので、今まで投票に行ってないひとが行ったというよりも、政治に何らかの関心があって投票所にも行って、でもまぁ今の自民党にも野党側にも不満のある人たちの票が行ったという感じかな。

たかまつ:実際のところ、どういう人が投票に行ったかは、まだ分からないですよね。

原田:あと、高齢の方の票も行ってると思う。地元で「岡山選挙区で原田君に入れたよ!比例はれいわに入れたから!」って結構いわれた。「山本太郎さんのYouTube見た?」ともめっちゃ言われる。しかも60代以上の人に。結構60代ぐらいでもYouTube見てるんだなって。

たかまつ:やっぱり年金のことじゃないですかね。

原田:うーん、年金もあるかなー、山本太郎さんってそんなに年金の話いっぱい言ってたっけ?

たかまつ:消費税の増税は全額社会保障ではなく、大企業の大減税を進めるために取られている。とはすごく言っていましたよね。世論調査で一番関心が高かったのは社会保障で、朝日新聞なんかはキーワードにして年金は一番だって出していたけど、そこがあんまり。争点になっていたといえばなってたんですけど、そこは自民党も議論を遠ざけていたという感じがすごいしました。

原田:憲法改正は争点にはなっていなかったよね。少なくとも自民党は争点にする気はなかった。

大幅に下がった10代の投票率

ーー今年7月の国政選挙は、18歳に選挙権の年齢が引き下げられて2度目の参議院選挙でしたが、前回に比べて10代の投票率が大幅に下がってしまいました。若者と政治をつなぐ活動を続けてこられたお二人は、今回の投票率の結果をどうお感じになりましたか。

たかまつ:3年前に18歳の選挙権が導入されましたが、初回に比べて今回は15%ぐらい10代の投票率が落ちました。

たかまつ:低いと予想はしていたけれども、予想以上の数字でショックでした。でもこれに対して問題意識を持っているメディアの方がどれだけいるのか。政治家も全く問題だと思っていないように見えて、本当に恐ろしい社会だなと。

総務省には本気で投票率アップを頑張ってもらいたいです。18歳選挙権が実施されながら投票率の低かった10県に対して、私どもの「笑下村塾」は無料で出張授業に行っています。そうすることでワースト10に入ると恥ずかしいと県の担当者が感じてくれれば、その分、頑張ってくれるだろうと期待したからです。

原田:そういうことでトップは取りたくないですもんね。

たかまつ:実際、前回ワースト1位だった高知県は頑張っていました。それで総務省に今回の選挙の18歳投票率のデータはいつ出ますかと尋ねたら、今回は出しませんと言われてしまったんです。そういうところだと思います。ここをちゃんとチェックしてデータを揃えて問題意識を共有していかないと、若者の投票率が上がるわけがない。

原田:10代の数字は出しているでしょ?

たかまつ:10代は出ています。でも年齢別の18、19がない。いい案を思いついたと思っていただけに、総務省の返答はかなりショッキング。次の方法を考えないと…。

原田:俺も10代の投票率がこんなに綺麗に下がったのを見て、選挙に出た側としてもショックでした。今後のことは、たかまつさんと同じで総務省に期待するんだけど、期待の仕方が俺はちょっと違う。投票率を上げるためには教育が大切で、そのために学校もいろんなことをやっていいんだよというメッセージを、もっと強く出してほしい。

たかまつ:それそれ! 私も一緒の考えです!

原田:こんな取り組みもできますよというのをNPOが提示して、個々の学校現場の主権者教育を支援する。それを総務省がネットワークを使って、いい取り組みの情報を伝えるなどして全国の学校をバックアップする。総務省や文科省が選挙を学校で扱っていいよと積極的に勧めないと、主権者教育については学校や自治体が萎縮しているところが多い。

たかまつ:そういう人を取り締まるものを作ればいいんじゃないかなと思うんです。通報せずに見て見ぬふりした人も同罪。やらなきゃダメですよ。そのくらいしないと、萎縮したままやらないが正義になっちゃう。

原田:やっぱり俺らふたりの間には考え方にギャップがあるな(笑)。俺はね、逆の発想で、いいことをやっているところを盛り上げて、周りにもあれをやるといいんだっていう話が広がっていくように変えていきたいんだよね。やらなきゃダメ、じゃなくて。

たかまつ:私には3年やって負けたという認識があるんです。3年、若者と政治をつなげる活動をしてきて、私たちが15%下げたんです。

原田:うーん、俺はそう思わないよ。投票率が下がって悔しいけど、それが敗北ではないと思っています。たかまつさんも、俺らも、学校現場もやってきた主権者教育は、この3年間で広がってきているのは間違いない。それは実施回数、実施学校数を見ても明らかで、そこは良かったと思っています。

でも、教育委員会、市議会、県議会の理解のなさというのは大きい。学校現場が何かやろうとした時、法的に問題がないのにわざわざ議会で取り上げたり、市議会が教育委員会にどうですか? と話を大げさにして現場を萎縮させてしまうことがある。

だから、若者の主権者教育については総務省、文科省、といったところが学校現場にある程度のお墨付き、裁量権を与えていかないといけない。

それから学校での政治教育に関して、政治家自身が不勉強なままで、発言をし過ぎだなとも思う。「学校に議員呼んじゃいけないでしょ?」 とか、「実際の選挙のことは扱ってはいけないんでしょ?」 だなんて、どこにも書いてないことを言う政治家もいる。むしろ扱っていいけどルールがあるから、それを守ればいいだけなんです。

教育現場が主権者教育にビビっている

たかまつ:それを言うと、申し上げにくいんですけど、原田さんも関わられた副教材は結構罪深いと思いますよ。4年前に総務省と文科省が100ページくらいの副教材(『政治や選挙等に関する高校生向け副教材』)を作りました。そこにあれやっちゃダメ、これやっちゃダメとか、そういうことが書かれすぎている気がします。そういうのを見るとやる気が失せます。結局、文科省はやりたくないんだという印象を受けました。あの本は討論の仕方、ディベートの手法集に見えます。どうすれば政治的中立性を守れるか、現場の先生はそこが一番知りたいのに、そこが書いてない。

原田:憲法改正を言っていいかどうか、とか?

たかまつ:政党の名前はどこまで出していいのか、政党要件を満たしているところなら出していいのか、政治的中立性を保つにはどうしたらいいか。そういったすぐ使えるものを提示して欲しいです。

原田:実は、すぐ使えるものを出そうと思って作っていないんです。あれをエッセンスにして欲しい。そのまま使うより、自由にアレンジしてというくらいのイメージです。逆に言うと、先生にもアレンジするぐらいはできるでしょ? という感じです。

たかまつ:現場の先生にそれを期待するのは無理ですよ。先生の働き方が問題視されていますが、もう主権者教育どころじゃない。先生たちは死ぬぐらい働いているんです。

そんな中で、原田さんが目指す主権者教育の像はすばらしい。今のこの現状でその素晴らしさを伝えるのなら、先生の負担軽減を考えた、すぐ使える教材を出さないと無理だなと思いました。本来は政治的中立性を守るためにも、学校の先生独自でいろんなことをやった方が私もイイと思いますけど、それが実現するのは、もっと遠い未来です。

今の現場にはあまりにも教材が少ないと思います。数学でも英語でも教材はいっぱいあるのに、主権者教育にはない。

原田:ないね、蓄積がないからだね。これまでやってきたものと全然違うから。

ネトウヨに勝つ仕組みが必要

――次の衆院選はいつになるか分かりませんが、これからの課題だと思っていることをそれぞれの立場からお聞かせください。

原田: 今回の選挙の出口調査によると、岡山の20代は近い世代の俺よりも、ずっと年配の自民党候補の方に投票していました。周りの人からも「若い人の票をもっと取れるとよかったのに」と言われました。若い世代が、与党に投票するという全国の状況と同じ状況通りの結果となってしまった。

選挙の時の公約や啓発だけで若者の投票行動が変わるわけがない、だから主権者教育にじっくり時間をかけていこうと俺らは10年間言い続け、若者と選挙、政治の問題に関わってきました。その結果の落選だったので、今回の結果に関しては悔しいです。

もうひとつは自分の支持している候補者や政党を支持しない人に対して「何も考えてないんだろう」と否定する風潮。俺だって、立憲民主党に入れて欲しかったし、原田謙介と書いてほしかったけど、自民党と書く人だって、石井正弘(岡山選挙区で当選した自民党候補)と書く人だって、N国と書く人だって、それは尊重する対象です。でもそういう空気感がないなと感じることも政治の中に入ってみて感じた。「周り全部敵!」「敵とは議論しません、対話しても無駄」って排除する空気が嫌です。そんな民主的ではない対立構造自体を政治の力で、変えていかなきゃいけない。

たかまつ:私が感じる課題は「ネトウヨに勝つ」ということです。もう何をやってもネトウヨが強すぎる。せっかくAbemaTVとかが、視聴者の声を吸い上げようと今までの地上波と違う仕組みを作ろうとしても、結局ネトウヨに媚びるみたいな番組作りになってきちゃう。そうじゃないと数字も取れないし、そうしないと数字が取れないっていうのは一番情けないけど、それは多分どんなにうまい作り手でも、割と陥っちゃう罠だと思うので。

だからそこを何とか、ネトウヨに負けない情報発信の仕方をしたい。ネトウヨが言論空間を占めているっていう現状や、電凸とかも酷いじゃないですか。あぁいうことに勝つための何か、あぁいう人はダサいよねという雰囲気、空気をいかに作っていくか。

原田:いや、それを作ってないのが政治だと思う。政治家同士がまっとうに議論しないじゃん。

たかまつ:左もそうですよね。百田尚樹さんの講演会も抗議で中止になったじゃないですか。お互い潰し合って終わりみたいな。何の議論にもなってない。

そして一番は若い人の投票率をどれだけ上げられるか。これからはシルバー民主主義がどこの国でも起こるでしょう。若い人は選挙に行かないし、政治に関心がないから、お年寄りの政治家は今のお年寄りだけを相手にする政策だけでいいと思っている。

そういう逃げ切りの政治をさせないために若者が選挙に行く。行って発言権を強める。すると40代ぐらいの中堅の政治家が「若い人のことも考えていかないと、自分たちは安心して政治家人生を終えられないんじゃない?」と危機感を感じて、若者の味方になる。こういう流れを作ることが大事じゃないかな。投票に行かないと影響力がなくなる現実を、若者はみんな自分のこととして考えていかないと。

どの党も18歳選挙権が導入されたから、奨学金の話でもしてみようかなってマニフェストに書き入れているけど、見比べてみると、どの党のマニフェストもそっくり。

若い人が選挙に行くようになって、無視できない存在になれば、政治家だって50年後の日本の未来について街頭演説で喋らざるを得なくなるはずです。未来を語るようになると、マニフェストにもかなり違いが出てくると思います。

例えば「私たちはAIを使って頑張ります」だとか、「この国はこういう風にして作っていきます」っていう将来の方向性がきちんと示されると、どの政党に票を入れると、どんな未来が描けるのか想像しやすくなります。今は選挙に関心のない若い世代でも、自分たちの将来のことなら興味が持てるはず。今は共産党くらいしか特色がはっきりしていない。

本当は政党、政治家の主張はみんな違うはずです。ちゃんと特色を出してくれたら、自民党に入れたらこういう世界観になってね、共産党はこういう考えなんだよって、若い世代のみんなに説明できるのに。

原田:その世代間格差論も、本来は政治家が解決しなきゃいけない問題なんだよね。政治家が年配の方を説得しなきゃいけない。日本の経済力をもってすれば、まだ説得できるフェーズですよ。

たかまつ:小泉進次郎さんみたいな人が?

原田:あの方は年配の方を説得してない。今の高齢者は、個人差はあるけど、頑張った結果がお給料に反映されて貯金もできた比較的裕福な世代。今の働き盛りの就職氷河期の世代が高齢者になったらどうしようもないから。あと20年くらいでそうなりますよね。だから自分で資産形成とかやらなきゃいけない。

ここから20年は政治家が全体的に余裕のある世代をいかに説得して回るかってことをやらないと。年金が少なくて不安なのも分かります。でもこのままだとあなたのお子さんの世代がもっと大変になるんですってことを、政治家がどれだけ説得していくかっていうチャレンジを誰もやってない。だから俺は思い切って選挙ポスターに大きく『教育子育て最優先』って書いてみた。

たかまつ:うーん、教育政策を必死で訴えている人は、みんな落選してる…。

原田:これには陣営の中からも賛否があった。『確かな年金』と書いた方がいいって。でも街で話をしている時に、教育子育て最優先に対して世代を超えて直接の賛否、反応があったんです。そんなチャレンジを政治がやるようになっていかないと。政治の中に入ったら、世代間の対立を煽りたくはないなというのが俺の考えかな。少なくとも若者政党というのは作らない方がいいってこと。そこじゃないよねって思う。

たかまつ:じゃ、誰が若者のための政治をやってくれるんですか!?

原田:そこに対して「俺が」と言えないのが申し訳ない。選挙ポスターに教育子育て最優先って書いた人は、たぶん他にいない。それで高齢者からめっちゃ嫌われるわけでもないようだから、俺はそういうチャレンジを政治の世界でやってみたいと思っているんです。

メディアの世界でたかまつさんにお願いしたいのは、若者に直接関わる政治的なテーマをテレビで追っていく、っていうのはできるよね。例えば入試問題について、こういう賛否がありますというのを5分の映像にまとめて、高校の授業で見せたあとに、ワークシートを作って、それをもとに生徒がテーマについて議論してっていうの、やりません?

たかまつ:やりますよ!絶対やった方がいい!笑下村塾でやります!!

原田:頼んだよ!

※編集部注
初稿からタイトル変更いたしました(田野)
「ネトウヨに勝つ仕組みが必要」若者の投票率はなぜ上がらないのか【原田謙介×たかまつなな対談】

「居酒屋で政治の話をしたいとすら思っていない」若者の投票率はなぜ上がらないのか【原田謙介×たかまつなな対談】

プロフィール

原田謙介(はらだ・けんすけ)
1986年岡山県津山市生まれ。愛媛県愛光高校、東京大学法学部卒業。大学3年時に、20代の投票率向上を目指し「学生団体ivote」を設立。2012年11月NPO法人YouthCreateを設立し、「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動。全国の多数の中高での出前授業の実践や、教員向け研修会・模擬授業などを行う。2019年7月岡山選挙区から参議院選挙に立候補、約25万票を集めるも落選。
・Twitter @haraken0814

たかまつなな
1993年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科、東京大学大学院情報学環教育部修了。フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューし、日本テレビ「ワラチャン!」優勝。お笑いジャーナリストとして、現場に取材に行き、お笑いを通じて社会問題を発信している。18歳選挙導入を機に、株式会社笑下村塾を設立し、政治を面白く伝えるため、全国の学校へ出張授業「笑える!政治教育ショー」を届ける。著書:『政治の絵本』。
・笑下村塾ホームページ
・Twitter @nanatakamatsu